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魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕
日時: 2015/02/28 05:14:12
名前: 孝(たか)

アルハザード……遥か昔に大次元震動により滅び、人々から忘れ去られた超科学都市と謳われた世界…

シナプス……天上人(てんじょうびと)が住まい、天使の舞うヴァルハラと謳われし世界…

ペルソナ……ラテン語で「人」・「仮面」を意味するが、遥か太古では「本能」とも言われ、現代では「もう一人の自分」、別人格が具現化した特殊能力を指す。

魔族……人間達には悪魔として認識される存在ではあるが、本来は誇り高く、気高い種族であり、人間とは比べるのもおこがましい程の強大な力を持っている。

魔王……魔族や悪魔を統べる絶対的存在。その魔王にも、「善・悪」が存在する。

天使…天上人、あるいは「神の御使い」と言われる尊き存在。清き心のまま亡くなった者達を極楽浄土へと導く存在と謳われている。


これらは遥か太古の時代に存在し、現代では大昔の空想・偶像・伝承となっている。

だが…それは間違いである。

魔族も…天使も…悪魔も…神も…

人間達に感知出来ていないだけで…

別の次元…

別の世界…

隣り合う世界でありながら、決して近づく事のない。

そんな世界に……存在しているのだから…。


そして…これは…そんな伝承に語られた者達が出会う…

そんな物語…

弘政「記憶を取り戻しつつある氷牙さんと、その仲間の物語」
なのは「魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕……始まります。」

アリサ「私達の今後はどうなるの?」
すずか「どうなるんだろうねぇ〜?」
メンテ

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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕 ( No.11 )
日時: 2017/09/03 05:07:10
名前:

クロノ「・・・・・・氷牙。僕達は、どうすればいい?どうすれば君に償える?」
なのは「クロノ君?」

 クロノは今までの話を聞き、管理局の先祖たちが行った所業に償いをしたいと問いかける。

氷牙「・・・?なんでクロノがそんな事を聞くの?確かに、僕は管理局に怨みはある。だけど、それはあくまで評議会とそれに加担する上層部だけだ。クロノがそれを被る必要なんて無い。」
クロノ「それでも!・・・それでも、僕は管理局に所属する者だ。自分じゃないから、なんて理由で見て見ぬふりなんて僕には出来ない!だから、せめて僕だけでも何か償える事をしたいんだ・・・!」

 クロノは自分の信念を持って心の底から氷牙に償いたいと告げる。

リンディ「・・・そうね、その通りだわ。・・・氷牙君。」
氷牙「何?リンディ?」

リンディ「我々、アースラ乗務員一同は、管理局と言う組織改善を目指し、通常の指揮系統から独立する部隊となる事を、あなたに宣言します。」
クロノ「かあさ・・・艦長!それは!」

 リンディのいきなりの宣言に、驚きと喜びに席を立ちあがるクロノ。その拍子に、治りきっていない傷の痛みがぶり返すが、無理矢理無視する。

リンディ「クロノが驚くのも無理ないわ。氷牙君の話を聞いただけで、こんな事を言うなんて、と思っているでしょうけど・・・実はね、以前から思っていたのよ。程度の差はあれど犯罪者に温情を与えて協力すれば減罪や、捜査を打ち切る命令がある事に、ね。」

 そう言って、リンディは空中ディスプレイを開き、あるデータを表示する。

リンディ「このデータは、ここ10年で打ち切りになった事件のグラフなんだけど・・・未解決のまま打ち切りになった部分を見てごらんなさい。」

 言われ、未解決の事件の部分を見てみると・・・そこに表示されていた数値は全体の60%。
10年と言う時間を見ても、異常としかいえない。他のグラフと見比べると、圧倒的に多い事件の種類の総数と打ち切られた事件の種類の総数がほぼ合致している事を見ると・・・偶然で片づけて良いとは思えない。

氷牙「・・・さっき軽く流したのは、心当たりがあったからなんだね。」
リンディ「ええ。私の同期で、捜査官になっている子も居るのだけど、話を聞いていてずっとおかしいと思っていたの。そして、氷牙君の証言から、これは確定と言っていいでしょう。人員不足による捜査の打ち切り。それだけなら納得せざるを得なかったんだけど・・・」

 そう言って、未解決事件のグラフの詳細を表示すると・・・

リンディ「未解決事件の殆どが、違法な魔導・・・それも、人工的に能力の高い魔導師を文字通り”作り上げる”なんて、非人道的なものが大半を占める。」
ユーノ「人体・・・実験!?」

氷牙「・・・恐らく、評議会が自分たちの新たな肉体を手に入れる為のモノじゃないかな?脳髄だけで延命したって、いつかは限界が来る。自分達以外は替えの利くコマとしか見ていない奴らにとって、人体実験は動物実験と大差無いんだよ」

 自分達の様に、人の形をしたナニかである魔族に人権など知った事かと恩を仇で返す様な奴らだ。いつ、どこで自分達の正義が歪んだのかは知らないが、他者を巻き込んでいい筈がないのだ。
メンテ
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕 ( No.12 )
日時: 2017/09/04 08:42:12
名前: カイナ

クロノ「っ……く……」

クロノが沈黙する。いや、口を開き慟哭の声を上げたいのだろう。しかし自分の信じていた正義の裏に存在していた深い闇に気づいていなかった、至らぬ自分にその資格はないというように、彼は噛み千切らんばかりに唇を噛みしめ身体を震わせて堪えていた。

リンディ「……一度休憩しましょう。ちょっとエイミィを迎えに行ってくるついでに、お茶とお茶菓子でも持ってくるわ」

するとリンディが静かにそう言って席を立ち、クロノを連れて医務室を出ていく。医務室のドアが静かに開き、自動的に閉じていく。その時、クロノの泣き声が僅かに聞こえたような気がした。

アルフ「にしても……氷牙、あんたも大変だったんだねぇ」
氷牙「ん?」
アルフ「まあいいさ。あいつらが戻ってくるまであたしはちょっと寝てるよ、戻ってきて話の続きを聞けるようになったら起こしな……しばらく戻ってこないだろうしね」

アルフの何か思うものがあるような言葉に氷牙が首を傾げると、アルフは言いたいことを言いたかっただけなのか話を打ち切って寝転がり目を閉じる。

なのは「……」

なのはも言葉を出せるような状態ではなかった。いくら聡明でしっかりしているとはいえ彼女はまだ小学三年生、時空管理局の闇はその頭脳で処理できる範囲なんてとっくに超えていた。

弘政「う……ん……」
なのは「ひろまさ……くん?……」

なのでそのキャパシティは別の方向の、もっと手近なものの処理へと向かう。差し当たってはそう、ずっと声一つ出さず気を失っていたお友達のうめき声へと。

弘政「ここ……は?……」

ゆっくりと目を開けた弘政は、ぼんやりとした声を出しながら起き上がり、辺りを見回す。

なのは「弘政君! 大丈夫!? どこか痛いとことかない!?」

その彼の視界にどアップで、涙目になって心配するなのはの顔が映し出され、突然のそれに弘政はびっくりしたように沈黙し顔が赤く染まる。

弘政「だ、大丈夫だけど……僕は一体……そ、そうだ! 大変なんだなのはちゃん! 氷牙さんがドラゴンになって、黒服の変な子やフェイトちゃん達が!」

弘政は何があったのかを思い出すとなのはの両肩を掴んで必死に訴える。
死神を召喚した時点で気を失っていたため、やっぱり現状と本人の認識が一致していない。その氷牙は「うにゅ?」と言って首を傾げているしユーノとガングニールも苦笑――正確にはガングニールには顔がないため表情は読み取れないが苦笑しているような雰囲気を出している――しているが、まず目覚めていきなりなのはの顔がどアップになったせいで視界を遮られている彼は気づいていない。ついでにクロノは変な子扱いである。

ファリン「はうぅ〜。一体何がどうなってるんですかぁ?」
リンディ「まあ、ここなら皆がいるしまとめて説明するわ。皆さん、お待たせしました。クロノはエイミィと一緒にもう少し席を外すけど、戻ってくるまでお茶でも飲んで遠慮せずにくつろいで――」

そこに涙目のファリンと、お茶やお茶菓子を乗せた、新幹線とかで車内販売に使われるようなカートを押したリンディが戻ってくる。

リンディ・ファリン「「……」」

そして二人が固まる。見ようによってはなのはと弘政はベッドの上で抱き合っているかのように密着していると言っても過言ではない。要するに……ちょっと勘違いしちゃってもおかしくない光景だった。

ファリン「ふええぇぇぇっ!? し、失礼しましたぁー!!」
リンディ「さ、最近の子は進んでるのね……うん。クロノとエイミィにはもうしばらく戻らないよう伝えておくから。氷牙君、ユーノさん、ちょっとこっちへ……」

なのは「ふにゃあああぁぁぁぁ!!! 違うんです!! 違うんですリンディさんファリンさん!!!」

勘違いしたファリンとリンディ。ファリンは顔を真っ赤にしてうろたえ、リンディも頬を赤く染めてうんうんと頷き、何か間違った配慮を見せようとする。それで気がついたなのはも顔を真っ赤にして弁解を始めた。

ユーノ「……何? このデジャヴ……」

ちょっと前、具体的には弘政が初めて変な魔法を使った後もこんな事があったなぁと思いつつ、ユーノはぼそりと呟くのであった。
メンテ
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.13 )
日時: 2017/09/04 16:44:05
名前:

閑話休題(それはさておき)


氷牙「かくかくしかじか」
『マルマルウマウマ』

氷牙「いあ、いあ」
『イア、イア』

氷牙「…と、いうわけなんだけど。」

 氷牙とガングニールによる状況説明により、ファリン、弘政は事の次第を聞き終える。

 その途中で漸くクロノも戻って来ていたが、目が赤く充血している事は誰も、触れる事はしなかった。

ファリン「ふぇ〜。氷牙君にそんな事が・・・」
弘政「うう・・・脳だけで延命なんて、漫画やアニメの世界だけかと・・・」

 ファリンは氷牙の辛い過去に号泣しながら氷牙に抱きつこうとするが押し留められ、弘政は評議会の真実を見て気分が悪くなり、顔を真っ青にしている。

氷牙「ん。じゃぁ早速だけど・・・クロノ。さっき、君は僕に償いたいと言ったね?」
クロノ「・・・ああ。僕に出来る範囲でなら、何でもして見せると誓おう」

 全てを吐き出したクロノはもう迷いなど何もないと氷牙を見つめ返す。

氷牙「僕と・・・契約をしよう。」
『氷牙様!それは』

氷牙「大丈夫。ガングニールの考えているようなのとは違うから。」

 ”契約”と聞いてガングニールが氷牙を止めようと声を荒げる。魔族・悪魔にとって、契約とは人間の行う書類のやりとりとは訳が違う。

 契約による相互干渉は”世界の理すらも覆す”行為でもあるのだ。

氷牙「契約と言っても、お互いに協力・・・そうだね、停戦協定みたいな物と思っていいよ。」
クロノ「ギブ&テイク。と言う訳か。」

氷牙「うん。とりあえずは、さっきリンディが言ったように、早急な独立部隊の設立。それと、ジュエルシードの捜索の手伝い。今はそれだけでいい。その見返りとして、僕は君達の望む物を与える。」
クロノ「望みなんて・・・」

氷牙「闇の書・・・その犠牲となった君の大切な人を救いだせるとしたら?」
クロノ「!?!?どう、いう・・・」

 11年前、クロノは闇の書によって、父親を亡くしている。闇の書の暴走を止める為に、自らの戦艦と共に、仲間のアルカンシェルによって共に消滅。遺骨どころか服の切れはしすらも残ってはいない。

氷牙「クロノ。君は、闇の書に大切な誰かを奪われた。だけど、僕の能力。それを利用すれば・・・あるいは・・・。」
クロノ「っ・・・だ、だが・・・それは・・・」
氷牙「クロノ。話して欲しい。君の大事な人は、どう言った経緯で、闇の書の犠牲になったの?」

 クロノは顔を伏せてわなわなと震えている。自分は、願っても良いのかと、管理局の闇を知らず、気付かずに間違った正義を奮っていた自分が、望んでも良いのかと・・・

氷牙「クロノ。」
クロノ「・・・11年前、僕の父は闇の書とその所有者を捕える事に成功し、本局に輸送するところだった。だが、その最中に闇の書は所有者を取り込み暴走。父は、乗員全てを退艦させたのち、一人でその暴走を抑え込み、もう一隻に搭載されていたアルカンシェルの使用を要請し、共に消滅した・・・そう、聞かされている。」

 クロノの語る過去。幼い頃に父を亡くしていると言う点では氷牙と同じだ。そして、その原因も、”闇の書”が発端であると言うところまで・・・。

氷牙「・・・念のため聞くよ。アルカンシェルで撃たれて、何も残って無いんだね?アルカンシェルに撃たれた。闇の書と一緒に消滅した。それしか証明されて無いんだね?」
クロノ「・・・・・・そうだ。」

氷牙「・・・なら、大丈夫だ。君のお父さん。救えるよ。」
クロノ「・・・・・・え?」
リンディ「氷牙、君。いま、なんて?」

 2人は氷牙の言った事が理解の範疇を越えたのか、思考が真っ白になっている。

氷牙「死んだ。という確実な証拠がないのなら、大丈夫。アルカンシェルで消滅させられるほんの極僅かな時間の空白の分部。その人を僕の能力でこの時代に呼びよせる事が出来れば・・・次元漂流を応用すれば助け出せる。」

 氷牙は、クロノとリンディにハッキリと答える。クロノの父、リンディの夫。クライド・ハラオウンの死を・・・”無かった事にする”事が出来る・・・と。
メンテ
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕 ( No.14 )
日時: 2018/01/26 02:21:54
名前:

クロノ「・・・いや、ダメだ。過去を変えるなんて、そんな事・・・」
氷牙「クロノ、それは違うよ。過去を変える事は出来ないし、変えるつもりも無い」

 そう。氷牙は過去を変えるとは言っていない。クロノの父を救う事が出来ると言ったのだ。

なのは「えっと、どう違うの?」
氷牙「ガングニール。」

『はっ。この場合の違いは、クロノ殿の父を過去の時代で救うのと、過去から連れてくる。という大きな違いがあります。まず、過去の世界で救った場合、その人物が居なかった筈の空白の11年分の行動が、未来・・・つまり、今の時代に影響すると言っていいでしょう。』
ユーノ「・・・そっか、そう言う事か・・・」

 ユーノは今のガングニールの説明で大体察しがついたのか、1つの答えを出す。

ユーノ「例えば、クロノのお父さんが生きていたら、管理局だし、色々な事件を解決していく筈だよね?それって、今僕達が生きてる時代で、功績をあげた人の手柄が入れ替わる事態にも繋がるってことでしょ?」
『その通りです。1つ、2つならば大きく変わる事は無いでしょうが、11年もあればその程度では済まない筈です。』

 クロノの父が居なかったとこで、階級が2つ上がっていた人物が、クロノの父が居る事でその昇級が無かった事になれば、その一家の生活は大分変っていく。それが3つ、4つと増えていけば、最終的に今の時代とは別の環境に変わっている事だろう。

『そして、もう1つの、クロノ殿の父を過去から連れて来た場合、空白の11年間を変えることなく、今から未来への干渉に変わる訳です。』
ユーノ「過去と現在を変えることなく、未来だけを変える手法ってことかな?」
『そうです。この方法こそが、タイムパラドクスを最小限に抑える事の出来る手法であり、氷牙様のお力を隠し易いものである行為なのです』

 過去を変える事は罪に問われるかもしれない。だが、その人物が居ない事で起こる時間の流れを一切手を加えないやり方ならば、過去の改編には至らない。ある意味で完全犯罪の出来上がりである。

クロノ「そんな事が・・・」
氷牙「出来る。その為に、ジュエルシードを集めてほしい。15個くらいあれば確実に助け出せるし、次元漂流に偽装する事も簡単。ジュエルシードを使うのは、あくまで足りない魔力を補うために過ぎないから。」

 こともなげに言うが、それは本来ならあり得ない。しかし、彼のレアスキル:次元干渉能力があり、彼が魔族の中でも特異な存在であるから可能な事である。実際、彼のレアスキルが人間に与えられたのなら、肉体の方が限界を迎え、世界が消え去っている事だろう・・・


 ・・・それから数日後・・・


 あの後、フェイトは結局目を覚まさなかった。今まで殆ど休息を入れずにジュエルシードを捜索していたフェイトは、氷牙が暴走した時に負わされた怪我を切っ掛けに、溜まっていた疲れが一気に押し寄せていた。

 その間、氷牙はジュエルシードを探す片手間にフェイト達の拠点であるマンションで看病やらをしていたりもする。

 アルフが言うには、フェイトの母はジュエルシードを集めさせる理由である”何か”を隠している。故に、あまりリンディ達と行動を共にするのは推奨できないとして今まで通りに別行動し、同じジュエルシードを見つけた時だけ協力していた。

 今日は弘政が看病しており、それと時を同じくして・・・氷牙達は暴走体と対峙していた。

氷牙「氷結の息吹を”クール”!!」

 氷牙達の眼前には巨大な火の鳥と化した暴走体が大空を舞っていた。
そこへ、氷牙は氷結系初歩魔法:クールをぶつけるが、巨大な火の鳥にはまさに焼け石に水だった。

氷牙「ユーノ!クロノ!」
ユーノ「チェーンバインド!!」
クロノ「ストラグルバインド!!」

 クールをぶつけた時、氷が一瞬で蒸発した事で発生した水蒸気は煙幕の様に暴走体の視界を奪った。その瞬間、ユーノとクロノの2人がかりのバインドでその動きを封じる。

氷牙「いま!」
なのは「ディバイィィィィィィン・・・・・・バスタアアアアアアアアアア!!!!」

 得意の砲撃魔法に封印の術式を込めて暴走体に叩き込む。
砲撃に貫かれた暴走体は・・・封印されたジュエルシードと、取り込まれていたセキセイインコに分裂した。

氷牙「なのは、お疲れ様。」
なのは「うん!これで4つ目だね。」

 クロノ達と協定を結んでから4つ目のジュエルシード。これで、フェイト達の持つ物と合わせて14個。あと7つで全てが揃う。

氷牙「クロノ達が協力してくれてる事で、大分楽が出来るね。」
クロノ「遅れて来てしまった分、働かないと申し訳ないからね。だが・・・」
ユーノ「もう粗方ここら一体は探し尽くしたね。少なくとも、遠くまで離れて落ちている事は無いと思うけど・・・」

 残り少しと言うところで、ジュエルシードの反応が見つけられないでいた。

 そんな折、フェイト達が持つ6つと、なのは達が集めた8つ。クロノの父親を救い出すために必要なジュエルシードはあと1つとなっている。
いや、その前にフェイトの母親と邂逅して目的を知るのが先になるかもしれないとも考えている矢先のことだった。


――バニングス邸――

アリサ「・・・・・・ハァ」

 バニングス家の一人娘アリサ・バニングスは一人、自室でペットの犬達と戯れながらため息を吐いた。
 なのは達がジュエルシードを順調に集めている事は聞いている。クロノ達の事も紹介され、安全性が上がった事も聞かされている。

 だが・・・・・・

アリサ「・・・私にも、力があれば・・・」

 なのは達の力になりたい。以前からそう思っていたアリサは、一度だけ聞いた事がある。「私にもその魔法は使えるのか?」と。

 ガングニールが言うには・・・

『魔力とは、有機無機にかかわらず万物に宿る物です。基本的には、空気中や物に宿っている魔素と、自らの持つ魔素の二つを混ぜ合わせて、魔法という形にするのですが、なのは殿達の扱う魔法は、”リンカーコア”と呼ばれる器官が魔素をかき集めて魔力を作り、それをプログラムの様に組み合わせて発動させる物です。因みに氷牙様達は前者の方です。そして、アリサ殿とすずか殿はにはリンカーコアはありませぬが、その身に宿すお力は十分に高いと言えますな。修練次第では、氷牙様と同じ、オーソドックスな古代魔法なら扱えるでしょう。勿論、才能も必要ではありますが、無くても時間を掛けて努力で覚える。それは魔法に限らずあらゆる事に当てはまる事なのです。』

 そう。教えを請えば、時間は掛るが力を手にする事は出来るのだ。だが、それでも・・・

アリサ「それでも・・・私は・・・”今”。力になりたいのよ・・・」

 アリサの呟きは、ペット達には聞かれていても、誰にも聞かれる事がなかった。

 そう。”誰かには”・・・。


――月村邸――

すずか「はぁ・・・」

 同時刻、月村邸に住む次女・月村すずかも、アリサと同じように自室でペットの猫達と戯れながらため息を吐いていた。
 理由は言わずもがな・・・アリサと同じでなのは達の力になれないのかという悩み。

 アリサと違い、月村の血筋は”夜の一族”吸血鬼の特性を持つ”人間”だ。普通の人間よりも、高い身体能力や頭脳を持っているが・・・やはりすずかもまだ子供である。どれだけ高い身体能力があれども、なのはたちの様に空を飛べる訳でもない。

 その辺りは弘政と同じで、言ってしまえば弘政よりもすずかの方が身体能力は上だ。だが、武術の心得がある訳ではないので、経験の差で弘政の方に分があるのである。

すずか「私は・・・私は今まで、こんな力なんて要らないと思ってた」

 他のみんなとは違う。自分は人の姿をした化け物だと一人悩んでいた。
だが、自分を助ける為に、異形の姿になっても助けに来た氷牙の事を見て、その考えは間違っていたのだと思い知らされた。

すずか「姿形は関係ない。どんな姿やどんな血筋でも、自分である事は変えられない。人の心があれば、それはヒトなんだ・・・か。」

 あの夜。赤い月の歌を聞き終えてから氷牙に言われた事だった。姿形、血筋よりも、心の在り方が人をヒトにするのだと。

すずか「私は・・・この力で、守りたい。大切な人を・・・お姉ちゃんや、ノエルにファリン。なのはちゃんやアリサちゃんに、フェイトちゃんとアルフさん。ユーノ君や弘政君。それに・・・それに、氷牙君を・・・」

 守りたいな・・・

 その呟きは、やはり猫達には聞かれていても、誰かに聞かれる事は無かった。

 そう。”誰かには”・・・。
メンテ
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕 ( No.15 )
日時: 2018/07/15 17:37:21
名前: カイナ

ユーノ「なのは、急いで!」
なのは「うん!」

ユーノ(フェレットモード)の声になのはが走りながら頷く。その隣を恭也が並走し、やや遅れて弘政が走っていた。
突如、ユーノがジュエルシードの反応を感知したのはいいのだが、それは同時に二ヶ所。なのはだけではどうしようもなく、連絡がいったクロノに一つを任せて氷牙と久遠がそっちに、なのは、ユーノ、恭也、弘政の四人でもう一方へと向かっていた。

ユーノ(でもこの反応の場所って……)

なのはの頭上でジュエルシードの反応――突然のことから暴走の可能性を考えている――を感じているユーノが眉間に皺を寄せる。

なのは「え……」

なのはが一軒の豪邸の前に立って絶句、自分の目の前にひょいっと着地して人間態に戻ったユーノを見る。

なのは「ユ、ユーノ君?……な、何かの間違いじゃないの?」

なのはがすがるような目でユーノに問いかける。しかしユーノはふるふると小さく首を横に振った。

ユーノ「間違いない……ジュエルシードの反応はこの家から出ているよ」

なのは「そんな、嘘、だってここ……アリサちゃんちだよ?」

ユーノの言葉になのはが怯えの混じった声を出しながら、目の前の豪邸--バニングス家を見上げるのであった。

弘政「えと……だ、大丈夫だよ。も、もしかしたらこの前の月村さんちみたいに仔犬が大きくなってるだけかもしれないし!」
なのは「う……うん、そう、だよね……」

心配そうな顔のなのはを見た弘政が慌ててフォローに入り、なのはもこくりと曖昧に頷く。

ユーノ「とりあえず、この屋敷全体を覆うように結界を張ります。そうすれば周りは安全なので……」
恭也「ああ。俺達も急いでジュエルシードを探すんだ」

ユーノがそういうや否や彼の足元に魔法陣が敷かれ、バニングス家の豪邸を庭ごと覆う形で結界が発生する。そして恭也がそう言って非常事態だからと門をこじ開け、彼らはバニングス家へと入っていくのだった。


??「ヒヒヒヒヒ……なのはちゃんは上手くアリサの家に入っていったみたいだな」

それを月村家の庭、到着してクロノと合流した氷牙がかけた結界をやり過ごす形で入り込んだそこで気持ち悪い視線を投げかけて見守る者がいた。

一刀「あとはジュエルシードで暴走しているアリサとすずかを助ければ、自分を助けてくれたアリサとすずか、そしてアリサを助けたのを見たなのはは俺にメロメロだ」

その気持ち悪い視線の主――一刀(魔力で視力を超強化して視認するというストーカー染みた所業だ)は気味の悪い笑みを浮かべながらそう呟いた。

一刀「さてと。あとはあの管理局の男となのはちゃん達にまとわりつくモブBをを片づけてすずかを助けてメロメロにした後、なのはちゃん達にまとわりつくモブAを片づけてアリサも助ければアリサとなのはちゃんも俺にメロメロ……ヒヒヒ、完璧な作戦だ!」

一刀はそういうと自画自賛の笑みを浮かべる。ちなみにモブBは氷牙、モブAは弘政を指す。
今回のこの二つのジュエルシード事件の暴走の犯人は実は彼。運だけは無駄にいいのか、彼は暴走していない状態のジュエルシードを二つも発見、それを見た時に今回の事件、「アリサとすずかを暴走させて、それを俺が助ければ二人は俺にメロメロ。友達を助けてくれたってことでなのはちゃんも俺にメロメロになるに違いない作戦」を思いついたのだ。
そしてこっそりアリサとすずかの自室へと侵入、彼女やその飼い犬と飼い猫にバレないようにジュエルシードを置き、今回の暴走を促したのだ。

一刀「だけど、二人はどんな理由で暴走させたんだ?……ま、どんな奴にも願いはあるしな。そこはどうでもいいか」

しかし一刀はアリサとすずかが何を願ってジュエルシードを暴走させたのかまでは分からず、しかし所詮は小学三年生の願いなんだから大したことじゃないだろうと結論付けるとさっさと作戦を始めようと、月村家に入っていった氷牙(とガングニール)とクロノの後を追うように月村家に入っていったのだった。
----------
とりあえずアリササイドの方と、今回の黒幕は実は一刀だったって事でちょっとやりました。
たしか孝さん、少し氷牙と一刀を戦わせたい的なことを言ってたような気がするし。やりたいのならどうぞ、やりたくないのならテキトーに暴走すずかの攻撃に巻き込ませる形で退場させます。(酷)

次孝さんが書くならすずかの方だろうと予想して言っておくと。
現状暴走すずかのイメージは吸血鬼のお嬢様か姫君ってとこです。大人モードすずか(イノセンス風)。んで武器は槍でお願いします。スノーホワイトの槍モードみたいな。あと氷属性、今回は吸血鬼の属性を表に出して血を操る血属性でもおk。
メンテ
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕 ( No.16 )
日時: 2018/07/15 19:18:28
名前:

―――月村邸―――


氷牙「・・・う〜ん?」
クロノ「どうかしたのかい?」
氷牙「えっと、誰か結界の中に入って来たんだけど・・・なんて言うのかな?違和感が凄い」

 氷牙は誰かが結界に入って来たことに感づくが、首をかしげている。困惑というよりは疑問のような・・・。

クロノ「違和感?」
氷牙「うん。コソコソして忍び込んだのに、痕跡をそのまま派手に残してる感じ。」
クロノ「派手に残すって・・・」

 なんだその矛盾した行動はとクロノも眉根を寄せる。

氷牙「なんていうか、物音をたてない様にそっと近寄ってくるのに、魔力がダダ漏れなんだよ。制御しきれなくて漏れてるとかじゃなくて、水道の蛇口を開けっ放しで放置してるって言うか・・・お漏らししながら歩いているみたいな、そんな感じ?」
クロノ「いや、ただの間抜けじゃないのか、それ?いくらなんでも・・・」

氷牙「うん。向こうはバレてないと思ってるみたいだけど、もうバレバレ。存在を隠す隠蔽魔法を使ってるみたいだけど、制御ができてないのか目では見えないけど感覚でそこにいるのがわかるね。クロノ、少しだけ周りに気を配ってみて?」

 言われ、クロノは「ああ。」と言いながら警戒を強めると、すぐに氷牙の言っていた意味がわかった。

クロノ「・・・・・・氷牙、これは僕たちに喧嘩を売っているんだろうか?」

 頭に指をあてながら頭痛を抑えるような仕草をしながら額に青筋を浮かべる。アニメや漫画でいえば、木の枝を持って茂みに隠れているような状態と言える。

氷牙「・・・無視しよう。今はすずか達の方が心配。すずかの家は、前にもジュエルシードが発動してる場所だし。猫たちじゃなくてすずか達の誰かが対象になっていたら危険すぎる。」
クロノ「後顧の憂いは絶っておきたい方なんだが・・・油断しないようにしようか」

 そう言って、二人は一刀の存在に気づいてワザと無視していくことにした。


 氷牙達から少し離れた場所・・・。

一刀「ふふふ。所詮はモブ。この俺様の完璧な隠蔽と追跡に気付かないようだなウェヒヒヒヒヒヒ・・・」

 既に気付かれているとも知らずに、一刀は氷牙達の後を追うのだった。



――氷牙達が月村邸に到着するほんの数分前――

すずか「あ・・・ああ・・・」
忍「すずか!大丈夫なの?すずか!?」
ノエル「いけませんお嬢様!危険です!ここは私たちに任せてお下がりを!」
ファリン「すずかちゃんは私たちが必ず助けますから!」

 食事の時間となり、食堂に集まっていた時だった。
チリンチリンと鈴の音を鳴らしながら子猫のアインがすずかに近寄って来たのだ。
 すずかはアインが何か銜えているのに気づいてアインからそれを受け取った瞬間である。悩みを抱えていたすずかが”ソレ”に触れた途端、・・・眩い光を放ってすずかを包み込んだ。

 ”ソレ”・・・ジュエルシードはすずかの強い想いにひかれて発動し、すずかの願いを歪に再現していた。

すずか「あ・・・あがっ!?」

 ミキ・・・ミシッとすずかの背中が盛り上がっていく。

すずか「あ、ぎぃっ!?」

 バサッ!とすずかの背から蝙蝠に酷似した翼が生えたのだ。その痛みに耐えかねたすずかは両手で肩を掻き抱き蹲るように丸くなると、そのまま翼がすずかの全身を包み込む。

 更に翼は肥大化していく。光が収まり、翼がゆっくりと開いたその先には、すずかや忍と同じ髪の色をした妙齢の女性が妖艶な姿で佇んでいた。

すずか?「ふふ・・・うふふふ・・・クスクス・・・」
忍「す、すずか、なの?」

 妙齢の女性は自身の両手を見た後、クスクスと美しい声で笑っていた。
そうしてゆっくりと、色気を振りまくように忍達の方へと視線を向ける。

すずか?「ふふふ・・・」

 女性は口を歪に歪め、真っ赤に染まり、狂気に満ちたその瞳を大きく開きながら・・・一瞬の内に忍に抱きついていた。

 次の瞬間には・・・


忍「・・・え?」



   イ タ ダ キ マ ス 



      ガブッ!!!




 忍の首筋に・・・その鋭い牙で・・・噛みつくのだった。
メンテ
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕 ( No.17 )
日時: 2018/08/10 10:51:49
名前:

ノエル「くっ・・・」

 ギリギリ、本当にギリギリの差でノエルが間に合い、突きだした手刀はすずか?の牙を受け止めた。

 ギチギチ・・・バキンッ!

ノエル「ああああああああっ!?」
忍「ノエル!?」
ファリン「お姉さま!!」

 すずか?は顎に力を込めるとノエルの右手を噛み砕いた。
ペッと砕いたノエルの破片を吐きだすと同時に忍を突き飛ばす。軽く距離を取った後、自身の左手の人差し指の爪で右手のひらを傷つけて血を流す。

ファリン「じ、自分で傷をつけた?」

 しかし、流れ出る血は傷口の度合いからは考えられないほどにドロリと床に向かって流れていくが、床にたどり着く寸前で空中でピタリと制止する。

 次の瞬間にはその血は形を変えていき、一本の槍を形成した。一メートル弱の棒と先端部分がナイフ程度の長さの刃で、形成されている、俗に言うスピアータイプの槍である。

忍「血が、槍に変わった?」

 夜の一族・月村家現当主である忍でも、そのような技法は聞いたことも無かった。

すずか?「ふふっ」

 グンッ!とすずか?は槍を振りかぶって手首を失ったノエルに振り下ろす。

 ノエルの背後には忍がいるため、避けるわけにはいかないと両手をクロスして防御の姿勢をとる。

    ガキンッ!!!

氷牙「ぐっ・・・忍、ノエル、ファリン・・・これ、どんな状況!?」

 なんとか間に合った氷牙は今すずか?が使用している槍と同系統のモノを扱って鍔迫り合い状態に持ち込んでいるが、体格の問題か、すずか?よりも頭二つ分近い身長差は受ける側には致命的な体勢である。

忍「氷牙くん!?その人、多分すずかなの!氷牙くんが前に言っていたジュエルシード?が発動したんだと思う・・・ど、どうすればいいの?」
クロノ「ストラグルバインド!」

 忍が氷牙に解決法を問うている間に若干遅れて到着したクロノが瞬時に状況を判断して敵性と思われるすずか?に、傷を負わせないためにとりあえずバインドで拘束しようとするが、それに勘付いて後退してしまう。

氷牙「ふぅ。助かったよクロノ。忍。多分あの人はジュエルシードがすずかを取り込んだ暴走体で間違いないよ。あと、すずか本体は眠っている状態で、そこにすずかの意思はない。ジュエルシードの魔力が、すずかの姿形を真似ているにすぎないから。」

忍「そう・・・それなら、遠慮はいらないってことね?」
氷牙「まあね。でも、ここは僕たちで何とかする。家族・・・姉妹で争うなんてあっちゃいけないんだ。」

 そこにすずかの意思がなかろうと、血縁で争うなどという悲しい物語など、あってはならないのだ。

すずか「ふふっ」

 暴走体は高く跳びあがり氷牙目掛けて槍を振り下ろす。落下スピードも相まって先程のように鍔迫り合いに持ち込むのは下策と判断した氷牙は、忍達を抱えて飛びずさる。

氷牙「まずは動きを止めないと・・・行くよクロノ!」
クロノ「わかった。ストラグルバインド!」

 返事と同時にバインドを放って暴走体を拘束しようと襲いかかる。
だが、暴走体も易々と捕まるような相手ではない。

 縦横無尽に襲い来るバインドを次々に避け、後退していく。だが、クロノのバインドを追いかけるように氷牙が暴走体に向かっていく。

氷牙「やあっ!」

 下から振り上げるように暴走体に斬りかかる。しかし、暴走体は体を半身にして避けると横薙ぎに槍を振るう。

氷牙「はあっ!」
暴走体「!?」

 振り上げはあくまで牽制。すぐさま振り下ろしに切り替えるためのフェイントでしかないとばかりに振り上げた槍を振り下ろしで暴走体の横薙ぎを弾く。

クロノ「そこっ!」

 一瞬の硬直を狙って準備していたバインドで暴走体の腕を拘束することに成功するクロノ。

暴走体「っ!!」

 だが、5秒もしない内に力技でバインドを破壊して後退する暴走体。

 そして・・・

暴走体「ふふっ・・・」

 何を思ったのか、暴走体は左手の親指の爪を右手のひじ近くに持っていくと・・・肘から手首までを引き裂き細かな血飛沫を起こす。

氷牙「なっ!?」

 氷牙が驚いた隙を狙うかのように、空中に散った血の滴が凝固し、鋭い破片のようなものへと変化すると・・・

暴走体「カズィクル・ベイ」

 左手を右から左へ振りきることで空中に静止していた血の破片が氷牙を串刺しにしようと襲いかかる。

 ヴラド3世の通り名のように、串ざしを行うさまは、まさに・・・串刺し公≪カズィクル・ベイ≫と呼ぶに相応しい技であろう。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕 ( No.18 )
日時: 2018/12/01 00:22:19
名前:

氷牙「くっ」

 氷牙は両手で槍を高速回転させることでカズィクル・ベイを弾き落とす。本当ならば弾いた後で砕いておきたいが、それは後方のクロノに任せて再び暴走体に向かって駆け出す。

氷牙「飛雷針!」

 槍の穂先を下に向けまま跳躍し、両手両足で固定した状態で頭上から串刺しにする基本の槍技を暴走体に向けて落下していく。

暴走体「ふふっ・・・シャァッ!!!」

 しかし、暴走体は槍を横薙ぎにふるって氷牙を叩き落とす。

氷牙「かはっ・・・まだ!」

 叩き落とされた氷牙は起き上がると同時に暴走体に抱きつきぶん回す様に投げ飛ばすと、空中で身動きを取れない相手に槍を構えて跳びあがる。

氷牙「ブン回し突き!」

 だが、それすらも暴走体は背中に生やした翼で空中にとどまって氷牙の槍を防御する。

氷牙「ぐふっ・・・手ごわい・・・」

 同時に着地する二人。氷牙は腰を落として穂先を下にするように槍を構え、暴走体は槍の石突を床につけて余裕の態度を取る。

氷牙「・・・忍、先に謝っておくね。」
忍「・・・え?」

氷牙「ちょっとだけ、家が壊れるかもしてれないから!”氷結の息吹よ、大気を満たせ、凍れる息吹を”!メガクール!!」

 氷牙は片手を勢いよく床にたたきつけると、暴走体の足元に魔方陣が生まれる。そして、その範囲にだけ冷気が溢れだすと暴走体を氷に包み込んでいく。

氷牙「クロノ!」
クロノ「わかった!ストラグルバインド!!」

 氷で固めた上から更にバインドで拘束していく二人。そして、氷牙は魔力を全身に流して再び跳躍して天井を蹴って落下速度を高めて槍を構える。

氷牙「落下星!」

 先の飛雷針よりも強力な叩き打ちでバインドごと打ち砕く氷牙。
ようやっと暴走体にダメージを与えると同時に額のジュエルシードを押さえる暴走体。

氷牙「すずか!目を覚まして!そんな力に呑まれちゃダメだ!」
忍「すずか!起きて!」
ノエル「すずかお嬢様!」
ファリン「すずかちゃん!起きてください!」

クロノ「目を覚ませ!君が氷牙達の友人だと言うなら!きっとこの声は届くはずだ!」
久遠「くぉん!すずか!おきる!」(ずっと氷牙の頭にしがみ付いていた)
 
 ここに集まった皆が暴走体に取り込まれているすずかに声が届くように腹から声を出す。

暴走体「ギギ・・・」

氷牙「久遠!すずかを助けるよ!力を貸して!」
久遠「くぉん!すずか、たすける!久遠、がんばる!」

 そう言って、久遠はしがみ付いていた氷牙の頭から離れて床に着地すると、氷牙と二人で跳躍した。

氷牙・久遠「「魔チェンジ!!」」

 久遠が光に包まれ、その姿を大きく変えていく・・・

 九尾の狐の頭部を模した白銀の刃。九つの尾が螺旋を描くように柄を覆い。
槍全体に紫電が迸る。その形状は方形槍に酷似した姿。

氷牙「九尾槍・久遠」

 魔界に古くから伝わる合体技法が一つ。

  魔チェンジ

 それは魔物型の仲間を武器へと変え、人型がそれを振るう。仲間の強さが武器の性能を決める。

 長くは持たないが、それを補って余りある力を発揮する技法だ。

氷牙「すずか、今、助けるよ・・・魔チェンジ技!」

 そう言って、氷牙は久遠の矛先を床に浅く突き刺す。

氷牙「狐龍閻舞(こりゅうえんぶ)・・・ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!」

 呟くと同時に氷牙は龍の翼を生やし、牙、爪、瞳を獣・・・否、龍のように鋭く変化させる。
 それと同時に、九尾槍・久遠も大妖怪・九尾へと変化する。

 二人は四つん這いになると同時に駆け出す。拘束された暴走体は反応が遅れ、氷牙の鋭い薙ぎ払い気味に振るわれた爪の一撃を腹部に抉り込まれる。

氷牙「グアッ!!」
暴走体「がぁっ!?」
久遠「クオンッ!!」

 くの字に曲がった体勢に追い打ちのようにフルスイングで振るわれる九つの尾が暴走体を宙へと吹き飛ばす。

久遠「クオオオオオオオオオオオオオオン!!!」
氷牙「グアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 咆哮と同時に二人は宙を蹴るように駆け上がる。そのまま×の字を描くように斜め下から同時に一撃を加えると、天井を蹴って角度を変え、斜め上から再び×の字を描くように同時に叩きこむ。

 ビシリッと、暴走体の・・・すずかの肌に亀裂が生まれる。

 翼を広げた氷牙は上から、着した久遠は下から・・・それぞれ爪と牙を構えて三度同時に一撃を見舞う。

 合わせて8HITの打撃は・・・すずかを覆う暴走体に大ダメージを与え・・・バキリッ!!

 その身体に明確な”穴”が開く。

 魔チェンジ技をが終わり、元の人間体と、九尾槍へと戻った二人は、暴走体の”穴”目掛けて・・・

氷牙「すずか・・・今行くよ!・・・久遠!その裂け目の先にすずかが居る。その空間を・・・貫いて!」

一条の光となった二人は、その空間の裂け目・・・ジュエルシードの内部へと侵入して見せたのだった。
メンテ
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕 ( No.19 )
日時: 2021/02/26 14:38:24
名前:

クロノ「ストラグルバインド!!一斉発動!!」

 氷牙達が暴走体を足止めしている間に設置型と遅延型のバインドを仕掛け、その隙をついて一斉に発動する。
腕を、足を、胴体を、首を、関節を、何重にもバインドを掛けて身動きを封じていく。

 クロノは、けして魔力総量は多くはない。しかし、それを補うように極限まで無駄を省き、極限まで効率を上げる事で実力の差を縮め、或いは越える。その結果が、最年少執務官という実績である。

クロノ「氷牙・・・あまり長くは持たないぞ・・・」

 暴走体に杖を向け、冷や汗を流しながら小さく呟く。

ーーー暴走体内ーーー


 冷たく暗い濃密な魔力が部外者に重くのし掛かる。
呼吸はできる。しかし、深い水の中に居るように動きが阻害されている感覚に襲われる。

氷牙「・・・ぅ・・・くっ・・・身体が、重い・・・急がないと、すずかも・・・」
久遠『・・・氷牙、こっち、こっちに、居る。』

氷牙「久遠?」
久遠『久遠には、わかる。向こうに、力の強い場所、ある。久遠の時と、同じ。』

 久遠もかつてジュエルシードに取り込まれた事があり、切っ掛けはあったが自ら内側から抜け出せた経験のある久遠には、力の集まる場所、その根源が・・・。

氷牙「・・・わかった。急ごう。」

 久遠が向ける穂先に導かれるまま、重い身体を引きずる様に進んでいく。
外界との時間がずれているのかわからないが、氷牙達は数分、或いは数時間も進み続けた様な感覚を覚える。そうして進み続けた先に、漸くコアを見つけた。

 クリスタルの様な結晶の中に、身体を丸め、膝を抱え、微睡みに沈むすずかを・・・。

氷牙「見つけた・・・」

 クリスタルに触れ、すずかに語りかける。

氷牙「すずか、助けに来たよ。帰ろ?皆が待ってる。」
すずか「・・・・・・」

 すずかは答えない。答えられない。

氷牙「このまま此処に居たら、本当に心まで怪物になっちゃうよ・・・そんなのだめだ。例え、どんな姿だったとしても、心だけは、堕ちちゃいけない。人の心を持つ怪物と、人の姿をした怪物は、似ている様で全くの別物なんだ。だから、目を開けて・・・囚われないで・・・」

 氷牙は優しく語りかける。ジュエルシードに汚染された重い魔力に苛まれ、膝をついてしまってもそれを悟られないように。

すずか「・・・出来ないよ・・・」
氷牙「!?」

 呟く様な小さな声。しかし、それでも返してきた。

すずか「見たでしょ?あの姿・・・きっと、アレが私の、本性なんだよ・・・人を見下して、餌として襲いかかる怪物。それが、夜の一族としての、私なんだ・・・」
氷牙「違う!!違うよすずか!!外のアレは、ジュエルシードが歪めた物だ!ただの魔力が暴走した」
すずか「なら、ワタシモソウナルって事だよね?」

 願いを歪ませ、暴走した姿が外の怪物なら、すずかもその血に呑まれたら同じ存在になる。
そう思ってしまった。

氷牙「そうじゃない!そうじゃないよ!確かに暴走した姿かも知れないけど、アレはジュエルシードが定義を拡大させただけ!例えすずかがその血に呑まれたとしても、同じにはならない!これは絶対に絶対だ!君達の血に、そこまでの力は無いんだ!あくまで、特性でしかないんだ!」

 すずかの心が暗く沈む毎に、周囲の魔力濃度が更に濃く重くなる。

氷牙「ぐぅっ!?(まずい、まずいまずいまずい・・・ジュエルシードがどんどん活性化している。このままだと、本当にすずかが呑まれる)」
すずか「・・・お願い、氷牙君・・・私を・・・『・・・』て?」

 すずかは、氷牙に決して言ってはならない事を言ってしまった。

氷牙「・・・・・・僕が、君を?・・・僕に、友達を、『殺して』だって・・・?」

 ぶちり・・・と、氷牙の中でまたひとつ、枷が千切れた。

氷牙「・・・そんなの、絶対にするわけないだろ!」
『見つけた。氷牙様!ジュエルシードの本体は、あそこです!!そして解りました。今まで氷牙様と会話していたのは、すずか殿ではありませぬ!』
氷牙「・・・ナンダッテ・・・?」

 氷牙の口から、恐ろしく冷たく低い声が漏れる。

『正確には、氷牙様とすずか殿の言葉を反転させ、互いに憎しみ会わせる事で、自らを活性化させていたのです。そう、ジュエルシードの『願いを歪ませてしまう特性』で産まれた、『夜の一族の血』そのものです。久遠に宿されていた呪いが、ジュエルシードで肉体を得たのと同じ原理です!』
氷牙「ナラ、イママデ、カタリカケタノハ」
『おそらく、すずか殿には、氷牙様から醜い怪物と蔑みの言葉に変換されていたものと・・・』

 久遠の時も、ジュエルシードの魔力は久遠に宿されていた呪いが表面化し、破壊の権化と化した。それと同じく、すずかの『夜の一族』その闇の部分とされていた物が、肉体を得てしまったのだ。
それが、すずかを堕とせば外に出られると結論し、すずかを闇に呑ませたのだ。

氷牙「・・・ユルサナイ・・・ユルスモノカ・・・」

バキバキ、メキメキと己の肉体を変質させていく氷牙。
濃度の高い魔力に汚染され始め、怒りに呑まれて暴走しかけているのだ。

氷牙「オマエカ・・・オマエカああああアアアアアaaaaAAAhhh!!!!」

 氷牙は二槍を構えて、ガングニールの示した場所に振り下ろす。

ガッキィィィィンッ!!!!

 振り下ろした二振りの槍は、肉厚のバスターソードに受け止められた。

??『ふふふ・・・ばれちゃった・・・』

 其処には、氷牙達が外で対峙していた暴走体が存在していのだった。
メンテ
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜第U幕 ( No.20 )
日時: 2021/12/12 04:51:43
名前:

暴走体「あと少し・・・あと少しで、私は私になる。」
氷牙「オマエ・・・」

 いびつに歪んだ表情で暴走体は歓喜の声色で告げる。月村すずかという器を捨て、自らが本物に成り代わると・・・。

暴走体「ふふ・・・そもそも、これはあの子が望んだことでしょう?こんな血なんて要らない要らない。化け物は嫌だ。ただの人間になりたい。だから、ジュエルシードは叶えてくれるって・・・もっとも、あの子の命までは保証できないけどね?・・・アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」

 壊れたかのように嗤う暴走体は、酷く・・・酷く歪んでいた。それを見た氷牙は・・・表情を消した。

氷牙「・・・・・・モウ、イイ。」
暴走体「・・・・・あ?」

 バキ・・・ゴキ・・・メキメキ・・・
 氷牙は遂に我慢をやめた。暴走しないように抑えていた衝動を、解放する。

氷牙「僕は・・・すずかを・・・死なせない!!」

 角を生やし、爪は延び、牙は鋭く、尻尾を携え、翼を羽ばたかせる。

氷牙「すぅ・・・ううぅぅぅぅぁああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 ズドンッ!!と、勢いよく踏み込み突進する氷牙。直前で飛び上がり、両手に持った二振りの槍を同時に振り下ろす。暴走体は難なくその手に持つバスターソードで防ぐ。

 ガキィィィィンッ!!!

暴走体「っ!!(重い!?)」
氷牙「お前だけは・・・絶対に許さない!!すずかがお前を、その血が必要ないと言うのなら・・・僕が、僕たちが・・・支えるだけだ!!!だから・・・お前は・・・大人しくしてろおおおおおおおおおおおお!!!!」

 更に力を込め押し込む。徐々に徐々に、押し込まれた肉厚の剣は暴走体の肩に刃が刺さる。

暴走体「ちぃっ!鬱陶しい!!」
氷牙「がっ!?」

 暴走体は苛立ち紛れに氷牙の腹部を力の限りに蹴り飛ばす。的確に鳩尾に突き刺さる蹴りにえずく氷牙。

暴走体「魔族だか王族だかなんだか知らないけど、私の邪魔するなら誰であろうとぶっ潰す!」
氷牙「ゲホッゴホッ!・・・魔族だとか関係ない。僕がすずかを助けるのは、僕の意思だ!友達を見捨てるなんて、出来ない!」

 両者は同時に踏み込み、己の武器でかち合い鍔迫り合いに。押しつ押されつ互いに引かずに己の意地をぶつけ合う。
メンテ

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