生徒会Lovers! 第3小節 一時の夢、奏でられるは幻想曲
作者: なぁび   2010年05月04日(火) 04時03分21秒公開   ID:/dxzQ0Wmf36
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 「はぁ、さすがに疲れた」


 二人が出て来たのは正午を過ぎたころ。
 ばっちりプラネタリウムも見て堪能してから出て来た。


 「凄かったね。自分の住んでるところじゃ、こんなにきれいに見えないから感動したよ」
 「私も。冬って大気が澄んでるからきれいだけどなかなか曇りだったりとかして見れないんだよね」


 再び戻って来たのはあの公園。始めて来た時には気付かなかったけど、中央には立派なもみの木が生えていた。
 夜になったらライトアップされてさぞロマンチックなことだろう。
 今日はクリスマスイブ。だからだろうか、人が多いように感じるのは。


 「あ」


 それを示すかのように空から舞い降りた白い結晶。


 「わー雪だよ〜」
 「朝寒かったもんね」
 「これでホワイトクリスマス、だな!」


 周りから歓喜の声が上がった。
 夕人と奏実も綺麗だね、といいながら顔を見合せて笑う。

 しっかり防寒対策はして来たけど手袋だけは持って来ていなかった。
 冷えた指先をかばうように夕人はコートのポケットに手を突っ込んだ。と、指先が堅いものに触れる。
 何かと思ってポケットから出してみると――あ、さっきのことなのにもう忘れていた。


 「奏実、さん」
 「なぁに?」
 「そういえばこれ、渡そうと思って」


 そう言って取り出した袋には見覚えのある名前。というか、まさにさっきまで二人が居たあのプラネタリウムの。


 「え、と、もらっていいの?」
 「うん。そのために買ったから」
 「あ、ありがとう。開けてみてもいい? それと、いつ買ったの?」
 「どうぞ。奏実さんがトイレに行った時。可愛いな、って言ってたから」


 開けてみると中から転がり出て来たのはあの時のぱっちんどめ。
 覚えててくれたんだ、と少しどきっとするが同時に申し訳なさを覚える。


 (本気で言ったわけじゃないんだけどなぁ……とっさに言っちゃっただけだし。でも、)

 「ありがとう。嬉しいよ」
 「そう? よかった。また来れるといいね」


 夕人がそう言った途端、奏実の表情が曇った。
 うん、と肯定したけれどなぜか弱弱しい。


 「そうだね、来れたら――いい、のにね」
 「……え、と……嫌だった? もしかして?」
 「ううん、なんでもないの。夕人くんは何も悪くないの」


 大丈夫とは言いつつも顔色が悪い。その肩を支えてやることしかできない自分に腹が立つ。
 理由を聞いてみれば具合が悪いわけでもないし、寒いわけでもないという。
 夕人はおろおろしながら理由はなんだろうと思考を巡らせてみた。が、特に思い当たる節はない。


 「あのね、やっぱり話しておくよ。実はね、私またお見合いがあるの。それで、貴方とのお見合いは実は4回目で、次で最後。絶対にその相手と結婚しなければならない
 「えっ」

 「実は中原家うちが理由はよく分からないけど危ういんだって。もちろん今までのお見合いは全て断ってきた。次は絶対だって聞いた。それは、つまり、」

 「政略結婚、ってこと?」


 彼女は静かに頷いた。


 「そん、な……」


 政略結婚とは、政治上の駆け引きを目的とした結婚を指す。
 会社や旧家の存続などのために当人同士の同意よりも優先させて結婚させることをいう。


 「それでも5人の猶予は与えてくれてたみたい。だからね、本当にお別れ。大丈夫だよ、君ならいい人見つかるから」


 笑顔を浮かべられても意味はなかった。
 政略結婚であれば夕人が何を言っても意味はない。それが中原家の存続のためなら。
 もし、ただの「お見合い結婚」であれば全て断って今度は恋愛結婚でもすればいい。それだったら自分にも望みがあったかもしれない。

 出来ることなら――もし、僕が結婚するなら、一緒に歩んで行くなら、君がよかった。

 願ってももう遅い。


 「今日すっごく楽しかった。なんだろう、今まで男子と一緒に居てこんな気持ちになるなんて初めてだよ。1回だけだけど、こうやってここに一緒に来れて、よかったと思う」
 「それは僕も一緒。あの時勇気を出して言ってよかった」
 「本当に、ありがとう」


 夕人が別れを告げる前に奏実は走り去って行ってしまった。
 「さようなら」の言葉と、もうひとつ、泣きそうな表情を残して。

 周りのカップルたちの会話も、今じゃただ騒がしいだけだった。
 楽しそうに会話する、それだけのこともなぜだかやたら目についた。


 「……もう、帰ろう」


 町はうっすら白くなって、まだ昼間だというのにちらほらライトアップされている。

 ため息は白さを纏って天へと昇って行った。
 あんなに楽しみにしていたクリスマスの煌めきは、ただうっとうしくて仕方ない。




  き み が す き で す 。




⇒To Be Continued...

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