黒翼の魔女 プロローグ&第一話
作者: えまり   2010年01月23日(土) 03時47分38秒公開   ID:s2/IWHRoys.
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「百五十円になりまーす」

空汰は使い古した財布から、百五十円を出して、チャリンと店員の手に渡す。
カチャーンとレジが開く音がコンビニの店内に響いた。
買った物(期間限定の抹茶プリン)が入った袋を持ち、レシートを受け取ると、空汰はコンビニから出て行った。


空汰の家は、学校からは最短の帰宅ルートを通って三十分ほどかかる。
今日は雨音がいないのと、好物の抹茶プリンを買った為か、若干急ぎ足で帰っていた。

(ああ、でも困ってる人は見捨てられない!)

……そう心の中で叫びながら、信号を渡るところで見知らぬお婆さんの荷物を持って歩いたり、公園で遊んでいたら木に引っかかってしまったというボールを子供の為に取りに行ったりと、結局家の近所辺りまで帰ってきた頃には日が暮れていた。

――まぁ、そんなに急いで帰らなくても、家には誰もいないけど

(あ、でも抹茶プリンが俺を待ってるんだった)

抹茶プリンが入った袋を見て、空汰は緩んだ笑顔を浮かべる。
涼しい季節で良かったと、心から安堵した。

そして、家まで角を曲がってあと五分というところで、ドンッと誰かとぶつかった。

「わっ……!?」
「あっ……」

空汰とぶつかった相手は体勢を崩し、地面に尻餅を着く。
空汰は慌てて、ぶつかった相手に謝った。

「す、すみません。大丈夫ですか?」
「こ、こちらこそ、すみません……っ」
(あっ……)

空汰は地面に座り込んだ相手をまじまじと見つめる。

相手は白いワンピースを着た少女だった。
年は同じくらいだろうか、銀桜ぎんざくらの腰まであるロングヘアに、瑠璃色の目をしている。
この近所では見ない珍しい容姿だ。

「あの、ぶつかってごめんなさい」
「いや、大丈夫です。ほら、立って……」

空汰が笑顔で手を差し伸べると、少女も小さく笑い返す。
そして、空汰の手を握った。

その瞬間、ビリッと電流のような鋭い痛みが空汰の体を駆け抜けた。

痛っ……!?
「?……だ、大丈夫ですか」

少女の方は何も感じなかったようで、顔を顰めて俯いた空汰を心配そうに見つめる。

「あ、だいじょう」
「そこにいらしたんですねぇ。瑠璃るり様」

空汰の背後から聞こえた声に、少女はビクッと肩を震わせた。
何事かと、空汰は振り向く。
そこには他校の制服を着た、土草色つちくさいろの髪をツインテールにし、濃小豆こいあずきの目をした少女がいた。

怯えを見せる少女を見て、他校の少女はニィと口を吊り上げ、妖しい笑みを浮かべる。

「まだこの名前は慣れませんか?それとも、あたしが怖いんですか?」
「あ……こ、来ないで」
(な、何だ……この雰囲気、やばそうだな)

しかし、空汰は困っている人を見捨てておけない性質の持ち主だ。
おどおどと怯えている少女を見て、やはり正義感というか使命感というか、そういったものが湧いてくる。
他校の少女の妙な威圧感に圧されながらも、意を決して口を開いた。

「やめろよ、どう見たって嫌がってるじゃないか」
「あ?誰、あんた」

口を挟んできた空汰を他校の少女が鬱陶しそうにギロリと睨む。
今まで何人もの不良を相手にしてきたが、この他校の少女はその不良たちよりもやばいと空汰は直感する。
そもそも、女生徒と喧嘩なんて、雨音との口喧嘩(しかも勝ったことがない)くらいしかない。
しかし、もう後には引けなかった。

他校の少女は空汰を鋭く睨み、空汰も気圧されながらも睨み返す。

数秒間、沈黙が続き、先に口を開いたのは他校の少女だった。

「あんた……もしかして、守護者ガーディアンなわけ?」
「は?」
「あたしの予想だったらもっと遅く来ると思ってたけど、意外とやるのね。
裏切り者の穏健集団オルデンも」
(ガーディアン?オルデン?)

どうやら、他校の少女は空汰を何かの集団の一員だと勘違いをしているようだった。
誤解を解く間もなく、他校の少女は話を進める。

「ちょうど刺激がなくって暇だったところなの。
あたしの名前は遠野とおの架凛かりんよ。
能力はエアデ
あんたの名前と能力は?」
「へ?……天使空汰。能力って……」
「あら、とぼけるつもり?なら……こっちから行くわよ!

他校の少女――架凛は目の前にいる空汰に向かって拳を振り下ろす。
突然の出来事に空汰は咄嗟に腕で架凛の攻撃を防ごうとする――――だが。

避けて!!
「っ!!?」

少女が空汰の体を引っ張り、二人とも後ろの方へ倒れこむ。
攻撃を寸前のところで避け、架凛の拳は地面にぶつかる。
ガゴッと鈍い音が地面に響き、砂煙が起こった。

「なっ……何だこれ!?」

架凛が生身の拳で殴ったはずの地面が割れている。
空汰は驚きを隠せず、架凛を凝視した。

「ふふ、何驚いてるの?エアデはあんたたち守護者の中にもいるでしょぉ?」

架凛の両腕にはいつの間にか、指先から肩先まで棘のついた篭手のようなものが付いていた。
後ずさる空汰たちを見て、架凛はまた妖しい笑みを浮かべる。

「さぁて、あんたを殺して……瑠璃様を連れて行かなくちゃね」


第二話に続く


登場人物紹介→


⇒To Be Continued...

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