黒翼の魔女 プロローグ&第一話
作者: えまり   2010年01月23日(土) 03時47分38秒公開   ID:s2/IWHRoys.
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第一話:出会い


焦げ茶色の前髪が風を受けてさわさわと揺れる。

屋上で受ける風は爽やかで気持ちいい。
さっき喧嘩でつけた傷が少し沁みるけど、と天使あまつか空汰そらたは痛みに顔を顰めながらも、ここから見える景色を眺めていた。
いつもとまったく変わらない見慣れた景色が深緑ふかみどりの目に映るが、その変わらない景色が空汰を安心させる。
思いっきり腕を伸ばして伸びをしたあと、ごろんとコンクリートの地面に寝転がり、澄んだ青空に描かれた一本線の飛行機雲を見つめた。

「ふぃー……今日も疲れたなー」
「何が、疲れたな、よ」

聞き慣れた世話焼きの幼馴染の声に空汰は寝転がったまま、屋上の扉の方に顔だけ向ける。
そこにいたのは予想通り、幼馴染の矢羽やはね雨音あまねだ。
「よっ」と空汰が片手を振ると、雨音は灰紫はいむらさきの目をすがめた。

「行儀悪いわよ」
「へいへい」

雨音に睨まれ、空汰は渋々と立ち上がる。
フッと一瞬だけ風が強く吹き、雨音の藍鉄色あいてついろのセミロングと制服のチェックのスカートがふわりと揺れた。

「高橋君から聞いたけど、また他校の生徒と喧嘩したんですって?」
「ああ、あれはうちの学校の後輩が絡まれてたから……」
「……助ける為にそんな怪我までつくったの?」

空汰の右頬には切り傷、左腕には包帯で固定されたガーゼが付いている。

「うん、相手がナイフ持っててさ……後輩の奴が先生呼んできてくれなかったらやばかったかもな」
「やばかったかもって……」

絶体絶命のピンチをあっけらかんと話す空汰に、雨音は呆れた。
こういったことは今に始まったことではないのだが、心配するほうの身にもなって欲しいものだ、と、溜め息を吐く。

「何かさ、困ってる奴って放っておけないんだ。俺が助けなくちゃって」
「いっつも聞く言い訳ね」
「はははっ」

じとっと雨音に睨まれ、空汰は乾いた笑いを返す。

「まぁいいや。別の用事でここに来たし」
「用事?」
「うん、今日の帰りは先に帰っててって言いに来たの
……大事な用事があるから

空汰と雨音は生まれたときから家が隣同士だったため、十四になっても未だに一緒に登下校をしている。
……その為、周りから“幼馴染カップル”や“腐れ縁夫婦”などと雨音がひやかされていることを、空汰は知らない。

「居残りか?」
「まぁ……そんなとこね」
「学級委員長も大変なんだな」
「ええ、しかも人助け大好きなトラブルメーカーがいるおかげで私の仕事は通常の倍になってるわ」
「うっ!」

雨音の棘のある言葉が、空汰にぐっさりと刺さる。
「心が痛い」と嘆く空汰を雨音は冷ややかな目で見つめた。

「まぁ、そこが空汰のいいところの一つだと思うけど」

頬を赤く染めてボソッと呟かれた雨音の一言は、嘆く空汰には聞こえていなかった。



⇒To Be Continued...

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