生徒会Lovers! 第2小節 からくり仕掛けの舞曲を君と
作者: なぁび  [Home]   2010年02月01日(月) 20時46分03秒公開   ID:/dxzQ0Wmf36
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 あと数秒後には、来るだろう。来るまでに二ケタはかかるまい。

 その予想は大あたりで、放送を入れた次の瞬間だだだだだっと高等部に震撼が走った。


 「わ、何、これ……地震?!」


 傍らの少年が慌てて近くの壁に寄り掛かるその横でもう一人の長身の少年は涼しげな顔をしてその場に立っていた。
 音のする方向へ眼を向けると、少年は口の端を意地悪そうに吊り上げる。


 「ほら、来た」


 少年がそう言い終えるや否やそれはぴたりと目の前で止まってくれた。
 どこから起きたか、砂煙が二人の前から消え去るとやっと振動の正体が見える。


 「婚約者くん、こいつでいんだろ?」
 「え、あ、あ、あ、えーっと……」

 「ちょっと真宙?! 全校放送で何言ってくれてるわけ?!」


 真宙と呼ばれた長身の男子はおどけたように肩をすくめてさあね、と奏実とは逆方向を見て言った。


 「早く会いたいって言うから、お前を呼ぶにはこう言った方が早いかと思って。だってこの前のお見合い相手なんだろ?」
 「な、なんでそれを……?」


 壁にもたれかけながら真宙は意地悪そうな笑みを奏実に向ける。


 「こいつ――おっと失礼、この御曹司さんが言ってたからね。お前の名前を出したからなんで知ってるのか聞いてみたら『この前お見合いしたんです』ってね」
 「この前お見合い……?」


 そう言われてようやく奏実は気がついた。
 真宙の隣にもう一人少年が居たことに。

 真宙への怒りで周りが見えなくなっていたらしい。見苦しいとこ見せちゃったかな、となんだか今思うとさっきの自分が恥ずかしく思える。


 「あー、そういえばその時会ったよね? えーっと、名前は……そうそう、ワダツミ ゆーりくん!」

 「いえ、僕は轍 夕人です。おしいけど」


 隣に居る真宙を押しのけ、奏実は夕人へと一歩踏み出す。


 「あ、そうだっけ。ごめんねぇ、私最低限の人の顔と名前しか覚えないからさ」
 「いや、この前1回会っただけだし……それに、あの時初めて僕を見たみたいだしね」
 「もうそんなに仲良しなのか」


 仲よさげに会話する二人を見て真宙が真顔で言った。
 すると夕人は頬を赤らめ、必死に首を横に振る。


 「でもない。この前1回会っただけだし、その時はろくに会話とかしてないし」


 しかし率直に言われると本当のことでもぐさっと来るものがある。
 確かにそうなんだけどね、と思いつつも心のどこかでは傷付いている自分がいないこともない。


 「じゃあ、改めまして。僕は轍 夕人です。王蘭学園中等部2年です」
 「私は中原 奏実。ここ、星蘭学園中等部2年生で今日は高等部に居るけど、それはたまたまだから」
 「そうなんだ……あ、それで、今日突然押し掛けてきて本当に申し訳ないんだけど、どうしても君に用事があって」


 ごそごそと夕人は自分のポケットをあさる。


 「用事?」

 (私に直接会ってまで何の用事? 王蘭学園って結構遠いはずじゃあ?)


 そんな夕人を見ながら奏実は疑問に思う。
 小さな用事であれば執事にでも言えば済むことだ。それをわざわざ会いに来てまで、だなんて相当な用事なのだろうか。

 自分に苦情を言いに来た、なら自分でも納得がいくが。


 (自分の態度さんざんだったもんなあ……今思うと怒られるのが普通な気がする)

 「これを渡したくて」


 すっと奏実の目の前に出されたのは、ドーナツのキーホルダーだった。つなぎの部分に星のビーズが使われており、女子が好むようなものだった。
 ドーナツには刺繍でK.Nと……。


 「あっこれ携帯につけてた奴だ!」
 「畳の上に落ちてたよ? 大事なものだと思って……よかった。ついでにストラップの部分壊れてたから直しといたよ」
 「そこまでいいのに。家庭科で作っただけの奴なんだし」
 「えっ、これ作ったの? それはすごい」


 真顔を装っている真宙だが内心ではもの凄く驚いていた。

 未だかつてほぼ初対面で奏実がこんなにも心を開いた男性というのはきっと彼が初めてだ。
 そんなに長く付き合ってきたわけではないが、少なくとも今まで見た中では心を開いている方だと思う。


 「あーいたいた奏実。お前今年の50m走何秒だっけ? どんだけ早く走ったんだよ」
 「もー疲れたぁ」


 廊下の奥から空とみさきが顔をのぞかせた。

 そしてすぐさま反応したのは奏実――の隣に居る男子で、おぉーっと歓声を上げしげしげと夕人を眺める。


 「「この人が奏実(かなちゃん)の未来の夫なの?」」

 「……おまいら」


 夕人も夕人で力なく笑うしかない。
 こほん、と一つ咳払いをすると奏実は無視して話を続ける。


 「ありがとうね。っていうか、わざわざこのために?」


 笑顔で夕人は頷く。


 「大切なものだったら、と思って。それに、本当は君に会いに来るなんて誰にも言ってないし……」


 そのまま駆け落ちすれば?!

 空が囃し立てたが奏実はまたも無視して会話を続ける。


 「わざわざありがとう。……で、悪いんだけど、私これから生徒会があるからお別れみたい」
 「えっ」


 空とみさきの腕を掴み、奏実は夕人から遠ざかった。
 別れることに対して、躊躇はないらしい。


 「え、あ、の……」


 に対して夕人はものすごく躊躇いがあるようで、遠ざかってゆく背中に手を伸ばす。


 (せっかく会えたのに……)


 たしかに距離は遠いけど、苦にならなかった。
 また君に会えるんだと思ってたらすぐに着いちゃってむしろ心の準備が足りなかったくらい。

 せっかく見つけたキッカケなのに、もうさよならなんて。


 「――あ、あのっ!!」


 無意識のうちに夕人は叫んでいた。

 その声に驚き、関係のない人までもが振り向く。


 「な、何?」
 「え、えっと……」


 勢いで呼び止めたはいいが、次の言葉が思い浮かばない。
 床に視線を落とし、火照った頭をフル回転させる。

 その間、奏実はずっと黙って次の言葉を待っていた。
 彼女自身、何かを期待しながら。


 「その……あの、無理なお願いって分かってるんだけど……」


 今だ。言うなら、今しかない。握る拳にさらに力を込める。


 「1回でいいんです。僕と……僕と、一緒に、一緒にどこかに行きませんか!!」


 それはいわゆるデートのお誘いだった。

 周りはひそひそとデートだなんだと噂しているのだろう。
 嫌でも奏実の耳に入る。いや、入るように言っているのだろうけど。





 「……いいよ」
 「えっ?」


 「いいよ。じゃあもうすぐで冬休みだから、クリスマスイブでいいかな。その日なら確実にあいてるから」


 にっこり笑って奏実は胸ポケットから生徒手帳を取り出す。

 しばらく放心状態の夕人だったが、徐々に彼の顔も笑顔になっていく。


 「じゃあ、24日に。詳しい時間とかは……どうしよう」
 「携帯持ってる? じゃあ赤外線でアドレスを……」





 「なんだかんだ言って、楽しそうじゃん」


 少し離れた場所で真宙が呟いた。



 「さて、あいつらのために俺も一肌脱いでやっか」











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⇒To Be Continued...

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