これCry Lovers 第12楽章 本命を捨てて
作者: なぁび   2009年09月04日(金) 18時22分45秒公開   ID:sw0xlSukK4E
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 外へ出ると、騒音から一気に解放されたように静寂が瑠姫を包んだ。


 
 「ふぅ…」

 ため息をつきながら、トイレに入ろうとした、その時。


 「ま〜ったくなんで休みなのに付き合わなきゃなんないんだよ。今日は出かける予定だったのに…」
 「いいじゃん別に! どうせ本屋で「○○ちゃん萌えー!」とか叫んでるくらいなら付き合ってくれてもいいじゃん!」

 中からケンカらしき声が聞こえる。男の人の声と女の人の声――カップルだろうか?

 好奇心から瑠姫はそっと中を覗く。

 「誰が叫ぶか! このレイヤー!」
 「うっさいわね! ていうか誰か見てるわよ!」

 女の子のさした指が自分に向いているような気がして、瑠姫は壁に身を隠した。が、それも無駄な抵抗。

 「誰が見てるのよ? ここまで見てて隠れるなんていい度胸じゃない」
 「ちなつ、そんな言い方しなくても…」

 次の瞬間、誰かの手が瑠姫の肩をがっしり掴んだ。

 「…っひゃあ!?」
 「やっぱり! …ってあれじゃん、この前フェスティバルにいたあのリーダーの子じゃん?!」

 瑠姫はとっさに閉じた目を開けた。するとそこに、瑠姫も見覚えのある顔が。

 「…あー…たしかバタフライのお二人ですか?」
 「やっぱり。うん、私らバタフライの、私がボーカルでこいつがドラム」
 「私はMid☆Skyの瑠姫。よろしく」

 そうだ。バタフライだ。気の強そうな女の子と、ちょっと生意気そうな男の子。

 「私は神代かみしろ 知夏ちなつ。これ、本名ね」
 「俺は霜月しもづき 京介きょうすけ。好きに呼んでくれていいよ」

 二人と握手を交わし、改めてみると瑠姫が小さいだけかもしれないが二人とも身長が大きい。

 「でも…なんか嬉しいな。1位の人に会えるって」
 「そ、そんな大したことじゃないけど…」
 「京介は内心、頭の中カーニバルなんだよ。だって瑠姫さんを一目見た時から「俺…惚れたかも…!」とか言ってずーっと瑠姫さんのこと見つめ…」

 「だーもーそれ以上言うな!」

 京介が割って入った。顔を真っ赤にしながら。

 「何よー本当のことじゃない」
 「でもいきなり会ってそんなこと言わなくてもいいだろ! 瑠姫さんだって好きな人いるかもしれないし!」
 「…わ、私今のところ好きな人とかいないから」

 とっさに言ってしまった瑠姫だが、その言葉に素早く知夏が反応した。

 「だったら京介のことも考えてもらえない? こいつ、惚れっぽい割にチキンな奴だから」
 「誰がチキンだ! …でも、瑠姫さんのこと、好きなのは本当だよ」

 京介の大きな手が、瑠姫の手を包む。

 「あの…本気で考えてもらえるかな? 本当に、好きになったみたい。近くで見ると、か、可愛いし…」

 気障な男は嫌いだ。でも、この人は自分のことを本気で考えてくれてる。



 ――…一方的な片想いより、想われてる方がきっと楽?



 「…ちょっと時間、貰うね? …けれど、好きになれると思う、京介くんのこと…」

 「本当?!」





 歯車が狂い始めたのは、きっとここだ。







⇒To Be Continued...

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