これCry Lovers 第11楽章 私たちの未来は
作者: なぁび   2009年08月21日(金) 23時28分31秒公開   ID:sw0xlSukK4E
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 「はーい! みなさま、長らくお待たせいたしました! 審査結果が出たようですよ!」



 「私的には…やっぱり『バタフライ』が好きだったな」
 「あードラムさんかっこよかったなぁ。最後の方に演奏した奴でしょ?」
 「みなさん、結果発表が始まるみたいですよ」

 それまでバンドの話題で盛り上がっていたMid☆Skyだったが、結果発表と聞いて、即座に背筋を伸ばした。


 「今回は…レベルが高めでしたね! 新人さんも結構出る催しではありますが、今回はまた多かったですね〜」
 「そうですよね。意欲が感じられていいです。まずは今回を通して感じたことを一言ずつ…」

 そんなのはどうでもいい。みんな、気になるものは結果。

 「…では、みなさんが気になって仕方ない結果発表に移りましょうか!」

 長い長い話が終わり、司会が告げた。
 その瞬間訪れる、緊張感を含んだ静寂。

 「ここでは第3位までを発表したいと思います。詳しい順位や定評などは後に配られる冊子でご覧下さい」

 司会が結果が書いてある一枚の紙を取り出す。会場の空気が張り詰めた。

 「では、まず第3位から行きましょう。今回はかなりの接戦で、順位をつけるのにもかなり時間がかかりました。第3位は――――…」

 どくん、どくん。今にも心臓が張り裂けそうだ。

 「爽やかな音色で会場を魅了して下さいました、新人バンド『バタフライ』!」

 「…やっぱり、入ったね」
 「う、うん…」

 ちらっとバタフライの方を見てみると、もう緊張のしすぎで何も考えられないようだった。結果を聞いてもその場にただただ茫然と立ちすくんでいた。

 「爽やかで聴いている皆様も暑さを一瞬忘れてしまったのではないでしょうか。涼しげで好きですよ。けれど、緊張のしすぎかな、息が合ってなくてせっかくのハーモニーも崩れているところがあったかな」

 パチパチパチ…。
 控え目な拍手が響いた。

 「続いて第2位! 惜しくも一歩及ばず。しかし演奏の前からあっと言わせてくれました、『深海フカウミ』!」

 深海フカウミ。前回のこのRock Festivalでぶっちぎりの差をつけて優勝した、有名なバンド。
 結果を聞く前の不安な表情はどこへ行ったか、リーダーの女子が「当然よ」とでも言いたげにステージを見つめていた。

 「さすがは1年やってるだけありますね。落ち着いた様子で最後まで演奏してくれました。声もきれいで聴いてて心地よかったです」

 「やっぱりねー」「深海だもんね」「入ってなきゃおかしいよ」
 そんな声がちらほら周りから聞こえた。

 
 「…残るは、1位しかない…」

 もともと優勝しなければバンドはやらせてくれない約束だったが、最初から1位をとれるなんて思いもしない。せいぜいよくて5位くらいかな。
 デビューはしたい。けれどここに来て、自分たちが演奏する立場になって、ここにいるみんなの実力に圧倒されたのが本音。

 「でも、深海が2位って、1位はどこなんだろ?」
 「私深海が1位だと思ってたから…予想つかないや」

 近くの人からそんな会話が漏れて聞こえて来た。

 
 「さて残るは1位ですね〜。今回は果たしてどこが栄光を飾るのか!」

 残された人たちは祈るように皆、手を組んでいた。
 少しでも望みがあるのなら。まだ、全てが決まっていないというのなら。







 ――――…そこに、最後の望みを掛けるしかない。







 「会場を笑いに包んだ…圧倒的に差をつけて1位になった…」








 ダメだ! きっと違う!


 自分たちで納得できるのが出来たからきっと大丈夫!


 でもあの『深海』を抜くなんて実力、大した実力の持ち主じゃなきゃ…!





 いろんな思考が、瑠姫の頭の中をよぎっては消えた。


 「誰もが納得、『Mid☆Sky』です! おめでとう!」


 その瞬間、瑠姫の時間だけが止まったような気がした。


 『誰もが納得、Mid☆Skyの――――…?』

 今、そう言ったのは紛れもなく司会? Mid☆Skyって、他にそんな名前のバンドっていたっけ…?



 「では、初出場、初優勝を飾ったMid☆Skyのリーダー、瑠姫さんに何か一言もらいましょうか!」

 「お姉ちゃん、ほらステージに上がりなよ!」
 「ほへ? あ、うん…?」

 拍手の中を瑠姫は通ってステージへと上がった。
 その途中、この拍手は誰に向けられてされているものだろう、と考えながら。

 「優勝おめでとうございます! 初出場で初優勝、すごいですね! 楽器とか、経験はどのくらいなんですか?」

 ステージに上がるなりマイクを握らされ、瑠姫は今まで以上に驚いた。

 「え、あ、の、そのぅ…? 優勝って何のことですか?

 瑠姫がしどろもどろにそう言うと、なぜか観客席から笑い声が上がった。

 「君らが今年のグランプリ! 言っとくけど、夢じゃないからね?」

 深海のメンバー、ベース担当だった男子が言った。

 「夢じゃ…ない?」
 「そうそう。信じられないかもしれないけど、自信持っていいんだよ。だから何か一言、お願いします」

 やっと理解したのか、瑠姫は深呼吸の後、話し始めた。

 「えっと…先程は変なことを言ってしまいすみませんでした。実感がないんです、実は今も実感がなくて…だから言葉が変かもしれませんが…。


  楽器の経験は、そんなにないんです。私は吹奏楽でやってて、他のみんなは、ベースをやってくれた霧斗くんのお父さんに教えてもらいました。


  詩が出来上がったのも最近のことで…学校とかで忙しいのにみんな練習に付き合ってくれて、本当にみんなに感謝しています。


  聴いて下さった皆様、そして家族、兄弟…関係者の皆様…本当に、きょ、は…っ! ほんとにありが…っ…」

 
 最後は涙で言葉にならなかった。
 今頃になって、やっと実感が湧いて来たのだ。


 「はい、ありがとうございました。改めておめでとう。メンバーのみんな、ちゃんとリーダーを支えてあげて下さいね」

 「瑠姫〜笑おうよ。せっかく優勝できたのにさ。ね?」

 席に戻って来て渚がなだめてもまだ瑠姫は泣いていた。

 「だって…だっ…!」
 「お疲れ様です。瑠姫さん…」






 Shining Starになれた?


 ううん、なるのは…これからなんだから。






⇒To Be Continued...

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