しょーとしょーとほーむず☆なぁび’s 短編集 ばーじょんわん
作者: なぁび   2009年06月19日(金) 17時19分26秒公開   ID:U12kmnD5H8M
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李玖のひとりで出来るもん!!






 「おつかい〜おつかい〜♪買うのはじゃがいもとー…」

 気持ちいいくらいの快晴の、ある日のこと。
 1人の小さな男の子が熊さんのポシェットを首から下げて元気良く歩いていました。
 この子の名前は咲島 李玖。咲島家の三つ子の末っ子。
 今日は李玖にとってのおつかいデビュー。元気良く腕を振って商店街へと進みます。


 「おじさん、じゃがいもみっつと、それからにんじんいっぽんちょうだい!」

 八百屋の前に来るなり李玖は大きな声で言いました。

 「じゃがいも3つに人参1本ね!」

 それに返すようにおじさんの声も大きくなりました。

 「えらいねぇ、今日は一人? お母さんは?」
 「今日は僕一人だよ! お姉ちゃんとお兄ちゃんもいないんだよ!」

 得意気に李玖は言います。おじさんは顔をほころばせて

 「そうかそうか。それはえらいなぁ…じゃあおまけにさくらんぼちょっとあげるな。おじさんからのごほうびだ!」

 と、李玖の小さな手に少しのさくらんぼを持たせてくれました。

 「ありがとう! 大事に食べるね!」

 顔に満面の笑みを浮かべながら李玖は言いました。

 




 お次はお肉屋さんです。

 「おばさん、豚のひき肉ちょうだい!」

 またも李玖は大きな声で言います。

 「あら、今日は僕一人?」
 「うん。今日はね、僕だけなんだ!」

 えへへ〜と李玖は得意気に笑って見せました。

 「えらいね。もうおつかいかぁ。まったく、この年になっても買いものひとつ行きやしないあんたに見習わせたいよ…」

 奥にいた主人を指しておばさんは言いました。

 「え? 俺のこと?」
 「決まってんでしょ? ちょいとそこまで何分かかるっていうんだい?」
 「よーし李玖くん、一人で来たごほうびにおじさんがキャンディーをあげよう」

 おばさんを無視して主人は言うと、李玖のポシェットに何個かキャンディーをくれました。

 「おじさん、ありがとう」

 「また来てね、おばさん待ってるから」

 李玖は頷くとお肉屋さんを去りました。あとは帰るのみです。


 「えぇっと、たしかここを通って来たから…あれぇ?」

 おやおや、李玖くん、迷子でしょうか?
 最初の強気な表情はどこへやら、今にも泣きそうな顔で何度も何度も辺りをきょろきょろ見回しています。

 「目印の薬屋さんの看板があそこだからこっちかなぁ?」

 それから李玖は何度かあっちへ行ってみたり、こっちに行ってみたりしました。でも、どこへ行っても見覚えのあるものがありません。

 李玖は、心細くなってついにはその場で泣き出してしまいました。

 「お母しゃ…うえぇぇ…」

 しかしそんな李玖を気に止める人はいません。今は夕方、学校帰りの生徒や買い物をする人々がせわしなく歩いています。

 「も…っ、や、だ…おうち帰る…お母さん…」

 しかたなしに李玖はあてもなくただひたすら歩き続けました。

 「でもひとりで買って来るっていたもん…だから最後まで頑張るんだもん!」

 もはや李玖はその一心でいたすらび歩いていました。彼の心の中にある、ひとつの決意だけが、彼を動かしていました。

 そして日が沈みそうになった頃。

 ようやく、李玖の目に明かりが映りました。です。自分の家です。
 家の前には、お母さんが心配そうに李玖の帰りを待っていました。

 「お母さん…っ!」

 その姿を見るなり李玖は駆け寄りました。お母さんもそれに気づいて今までの表情を変えます。今まで心配していたことを悟られないように――そっと涙を拭いました。

 「お母さん! ふえぇぇ…」

 腕の中に飛び込むなり李玖は泣き出してしまいました。お母さんは「よしよし」と李玖の頭を優しく撫でました。

 「じゃあ今日は李玖が買って来てくれたものでカレー、作るからね!」
 「うんっ!」

 実を言うと玉ねぎが足りなかったのですが…それは、李玖くんには内緒です☆

 「ありがとう、李玖――…」





 
終わり








⇒To Be Continued...

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