交差する彼らの居場所  第六章『行動』
作者: 悠蓮   2009年05月24日(日) 00時37分15秒公開   ID:XnxKweJ8Y8w
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 夜の闇の中彰人は必死に走っていた。
 エイダの――サモン・フェアリーの居場所は分かる。
 さっきからずっと呼ばれているのだから。
 現在の時間は二十三時一五分。四十五分後、サモン・フェアリーは消滅する。



 走り続けた彰人がたどり着いたのはとある公園。
 昼間はにぎやかな子供の声が聞こえてくるこの場所も今は静まり返っていた。
 明かりは数個の電灯のみで、それすらも電球が切れ掛かっているのか先ほどから点滅している。
 夜の公園はひどく不気味な空間と化していた。
 


しかしそれは時間や電灯のせいだけではない。
「あら、少年だけ? ずいぶん無謀なことするのね」
 大鎌を携え微笑む少女の存在がこの一帯をより一層異様なものにしていた。
「で? 少年は一体何しに来たの? あいにくもう甘い言葉を言うつもりはないのだけど」
「別に……そんなつもりできたわけじゃないからな」
震える声を聞きエイダは少しきょとんとした。しかしすぐに元に戻る。
「へぇ。じゃあどうする気かな少年」
 まるで希少動物を観察するような目でエイダは彰人を見下ろした。
 彰人はエイダの横にいる四枚羽の少女を見つめる。
「……サモン・フェアリーを助けに来た」
 彰人ははっきりそう宣言した。
「……ふっ、あはははははは! 面白い冗談ね少年!」
 彰人の言葉を聞きエイダは狂ったように大笑いしだした。
「で? あなたに何ができるの?」
 ギロリとエイダは彰人を睨む。
 一瞬彰人はたじろぐがこちらも負けじとエイダを睨み返した。
「……策はなんもないってこと? ふふ。まあいいわ」
 エイダは最初と同じように薄く微笑む。
「せっかく来てくれたんだしね。しっかり遊んであげるわ」
 彰人がぞくりと悪寒を感じた次の瞬間、彰人の目の前には大量のナイフが飛んできていた。
 慌てて彰人はそれを避ける。
「せっかくだから楽しませてね? 少年♪」
 その言葉を合図に決戦が始まった。
 彼女たちから距離をとるため、慌てて彰人は走り出す。
 こちらから攻撃など絶対にしない。もとより彰人はケンカなんて数えるほどしかしたことがないのだ。しかも相手が大鎌を持ってる。そんな相手と戦える高校生など一人もいないだろう。
(けど……策がまったくないわけじゃない!)
 別にエイダの言うとおりなんの策もなしにこんなところに来たりはしない。
 策ならしっかりとあった。成功するかは分からなかったが。
 走ってると眼前に大鎌が現れる。
「!」
 咄嗟に体を低くして避ける。体勢を崩して思いっきりこける。
 すぐに立ち上がって振り返るが、エイダはくすくす笑うだけで追撃を仕掛けには来なかった。
(エイダは俺をすぐに殺すつもりはない……。時間をかけて、ゆっくりと殺してくるはず……)
 それならきっと勝機がある。
 彰人にはエイダを倒す力はない。だが、魔道師たちならどうだろうか?
 ヴェルの口ぶりからして魔道師は魔族と対立している。ならば魔族と戦う機会もあるはずだ。
(ヴェルの話じゃ魔道師たちは保護すべき精霊《スピリット》より俺を優先した。なら……)
 彰人が家にいないと気づいたら追ってくるのではないだろうか。
 もっともそんなことどこにも確証はない。
 もしかしたらあっさりと彰人を見殺しにするかもしれないし、時間的に間に合わないかもしれない。
 そしてもし来たとしてもサモン・フェアリーを助ける保障はない。
(けど……それしかできない。だったらそれをやってやる!)
 時間稼ぎのために彰人は必死で走った。
 エイダの大鎌が、サモン・フェアリーのナイフが容赦なく襲い掛かってくる。
 すんでのところでかわすが、毎回上手くいくはずもなくすでに彰人の体は傷だらけだ。
「理解できないわね」
 唐突にエイダがつぶやく。
「こんな役立たずのために何故そこまでするのかしら?」
 エイダはサモン・フェアリーを一瞥してそう言った。
 彰人はその言葉に足を止め、彼女達を交互に見る。
「役……立たず?」
「そうよ。この精霊《スピリット》はただの役立たずだわ。できることは固体のものを大量に召喚するだけ。液体、気体はもちろん、魔力のような不確かなものを操る力はまったくないわ」
 彰人はその言葉に驚く。それが本当なら……
「あなたのお友達の獣魔道師さんをもとに戻すことなんてできない。彼が言ってたのはもっと上位の精霊《スピリット》ね」
「! なん、で?」
「あら、ほんとにそんなこと言ってたの? カマかけただけなんだけどなー」
 エイダはいたずらが成功した子供のように笑う。
 だが彰人にはそのことを気にかける余裕などなかった。
「こんな役立たずのためになにをそんなに頑張るのかしら?」
「……」
 エイダの放つ言葉に彰人は答えられない。
 しかしそれは返す言葉が見つからないからではなく。

 ……ゴメンナサイ……ゴメン…ナサイ

 目の前のいる四枚羽の少女の声を聞いたからだった。
(……泣いている?)
 何度も何度も同じ音を繰り返すサモン・フェアリーは確かに涙を流していた。
「……違う」
「? 少年?」
「役立たずだとそうじゃないとか、そんなことは関係ない」
 彰人は迷わず言葉をつむぐ。エイダへ。
 そして、サモン・フェアリーへ。
「俺は……助けたいと思ったから助けるんだよッ…!」
 今彰人が言える、精一杯の言葉。
 エイダとサモン・フェアリーは彰人を見つめる。
 しかしその目に映る感情はまったく違うものだ。
「……あなたの人生に今日のことはまったく必要のないものでしょう?」
 それに役立たずがあなたの助けを必要としてないかもじゃないとエイダは続ける。
「……必要なくても、誰からも必要とされていなくても、自分の意思で、行動することはできるんだ!」
 彰人は今まで張り上げたこともないような声を上げた。
 まるで自分に言い聞かせるように。
 それからしばらく静寂が続いた。
 しばらくといっても正確な時間はもっと短いかも知れないが。
「……言いたいことはそれだけかしら?」
 エイダのその言葉とともに、彰人の体は後方へと大きく飛ばされた。
「ッ…!」
 公園の遊具にぶつかり、その場に落ちる。
 あまりの衝撃に彰人は動くどころかうめくことさえできなかった。
「もういいよ少年。……君の御託はもう飽きた」
 エイダは鎌を大きく振り上げる。
「君は今すぐ殺してあげるよ。……今、すぐに」
「!」
 エイダの瞳にはさきほどのように遊びの色はない。
 強い殺意がそこにあった。
「君なりに頑張ったのは認めるわ。けど、私にとってはうっとしいだけなのよ!」
 エイダは手にある鎌を勢いよく振り下ろす。
「死になさい!」
 眼前に巨大な刃が迫ってくる。
 逃げようにも彰人の体は動かすことができない。
 目の前まで迫る死の恐怖。それに対して、彰人は何も反応することができない。
 両者が確実に死を捉えたとき、

 ガチン

 エイダの大鎌と何かがぶつかる音がした。
 それは……


⇒To Be Continued...

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