交差する彼らの居場所  第三章『捜索』
作者: 悠蓮   2009年05月24日(日) 00時13分39秒公開   ID:XnxKweJ8Y8w
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 朝。
『〜〜♪〜〜♪』
 携帯電話のアラーム音で、彰人は目を覚ました。
(ふぁーあ。あーまだ眠いや)
 休みの日とはいえのんびり寝ているわけにはいかない。いつもとは違いあの獣に餌を与える手間が増えている。
 睡眠をとって改めて考えると妙なことをしたと思う。
 当たり前のように人語をしゃべる獣と一通り会話した後家に連れて帰るなど。
 そんなことを思ったりしたが、とりあえず彰人は適当な服に着替えた。
 昨日家に来た獣が見当たらないので先に起きてリビングにでも行ったのだろうと彰人は思った。


扉を開けてリビングへと向かう。
「うぃーす、おは……っては!?」
 当然獣がそこにいるものだと確信していた彰人は自分の目に飛び込んできた光景が信じられなかった。
 目の前にいるのはやたらと目つきの悪い獣ではなく、

 目つきの悪い、彰人と同じくらいの年齢の少年だった。

「……誰?」
「物覚えの悪い奴だな。ヴェル・シュバッサーと昨日名乗ったろう」
 銀の長髪を持つその少年は彰人を馬鹿にそう言った。
 彰人は記憶の中からヴェル・シュバッサーの名を探す。
 いや、探すまでもない。昨日聞いたばかりの名だ。が、
「俺の知ってるヴェルはウサギっぽい獣だったはずだが……」
「あぁ、それも俺だな。もっともそっちの姿は不本意なものだが」
 彰人はゆっくりと目の前の少年が言うことを整理し始める。
 はじき出された結論は……
「変幻自在獣人間?」
「貴様のネーミングセンスは一体どうなってるんだ」
「うるせえ。つまり、お前は人と獣両方になれるってことだろ?」
「少し、語弊があるな。別に好きで獣になるわけでもないし、その切り替えも自由に出来ん」
 憎らしげにヴェルはそうつぶやいた。
「ふーん」
 適当に返事をして彰人は台所へ向かう。どうせあのまま聞いてもよく分からないままだろう。だったら朝食のときに詳しく聞いたほうがいい。
 とりあえずトースターに食パンを入れ、スイッチを押す。昨日のカレーを温め、盛り付ける。飲み物も用意して、それをテーブルに運んだ。
「で、さっきの続きだけどさ」
「……またカレーか」
「カレーの後はしばらくカレーだ。って話そらすなよ」
 彰人の言葉にヴェルは露骨にいやそうな顔をする。
「フン。で、なんだ」
「お前が好きでもないのに獣になった理由と今人間な理由。とりあえずな」
 どうせ、何度も訊かないと分かんねえ説明なんだろと彰人は言う。
 ヴェルは少しばかり眉間にしわを寄せながらも素直に説明を開始した。
「俺が獣の姿になってるのは、魔道具の暴走の余波を浴びたせいだ。何日かに一回はもとに戻るが規則性は今も不明だ」
「魔道具の暴走? ってか魔道具ってなんだよ。あの箱もそうだってのは聞いたけどさ」
 ちなみに昨日の箱――ヴェルが言うには【ボックス】――はしっかり回収ずみだ。
「魔道具は精霊《スピリット》の力をあらかじめ道具に込めることで、魔術を円滑に使用するための道具だ。魔道具の暴走はその魔道具に込められた精霊の力の暴走を意味する」
 相変わらずこいつの説明は分かりにくい。
「ふーん。でも獣人間になるってどんな魔道具が暴走したんだよ」
「変身用魔道具だ。任意で複数の姿に体を変える事が出来る」
「何のためにだよ……。ていうか魔道具ってそんなに簡単に暴走するもんなのか? なんかあったりした?」
 トーストにカレーをつけながら何気なくそう聞いてみた。
「……」
 だが、予想に反してヴェルは真剣な目つきで黙ってしまった。
「……あ、あのさ。今日サモン・フェアリー探しに行くんだよな?」
 あまりの息苦しさに思わず彰人はそう切り出す。
「……あぁ」
「じゃあさ、やっぱり外行くんだろ?」
「当たり前だろ。何を言ってるんだ」
「その格好で行く気?」
 彰人にそう言われて、ヴェルは自分の格好を見る。
 ポンチョのような上着。腰からスカートのように出るマント。
「何か問題でも?」
「あるだろ! 日本でそんな格好すりゃただのコスプレイヤーさんだ!!」
 ただでさえ銀髪ロンゲってだけでも目立つのに。
「これは魔道師の正装だ。俺はこの服しか持っていない」
「マジで!?」
 彰人は少し頭を抱えたい気分になった。
 さすがにこのままのヴェルと一緒に街中を歩きたくはない。
「……ちょっと待ってろ」
 彰人はそう言うと自室へと戻っていった。


「これでいいだろう」
 自室に戻った彰人は簡単なTシャツとズボンを持ってきた。
 ヴェルのサイズは知らないが、彰人と大体同じぐらいだろう。
 服を受け取ったヴェルは最初、怪訝な顔をしたが、しぶしぶ着ることにした。
「で、アキト。サモン・フェアリーはどこだ?」
「ふへ?」
 ヴェルが着替えたのを見てほっとしていた彰人は突然の言葉に呆けた声しか出せなかった。
「だから、サモン・フェアリーだ。場所の探知はできないのか?」
「あぁ、それか。うん。無理」
 さらっと言う彰人の言葉にヴェルの眉間にしわがよった。
「適当に歩いてたら見つかるだろ」
「楽観的だな」
「まあな。じゃ、行くか」
 そう言って彰人とヴェルは家を出た。




⇒To Be Continued...

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