交差する彼らの居場所 第三章『捜索』 | |
作者: 悠蓮 2009年05月24日(日) 00時13分39秒公開 ID:XnxKweJ8Y8w | |
あれから何時間過ぎただろうか。 彰人たちはサモン・フェアリーを見つけられないまま街中をうろついていた。 しかし、そろそろ昼時なので噴水近くでファーストフードを食べることにしたのだ。 「いやあ、なかなか出てこねえなあ」 「……お前に協力を許可した俺が馬鹿だった」 疲れきった顔でヴェルは彰人に文句を言った。 彼らは家を出てからずっと歩き詰めなのである。 といってもさほど距離を稼いでいるわけではない。街中を歩くたびに女の子やら芸能事務所やらの人間から声をかけられたからだ。 主にヴェルが。 「う〜ん。やっぱりもっと人気のないところだな」 ハンバーガーを口にしながら彰人はそう言った。 そうやって昼食を取っている今も周りから強烈な視線を感じている。 人ごみを避けたいと思うのは当然の心理であろう。 「……人生負け組な気がしてくるし」 「なにか言ったか?」 「いや何も」 ハンバーガーを包んでいた紙をくしゃくしゃにしながら彰人は言う。 ヴェルは一瞬怪訝な顔をしたがすぐ食事に戻る。 「……なあ、訊いてもいいか?」 言いにくそうに彰人はそう切り出した。 「なんだ」 「なんでサモン・フェアリー追ってんの?」 ヴェルの眉が寄る。一瞬ビクリとした彰人だが、あえて何も言わず返事を待った。 「……それが魔道師の役割だからだ」 ゆっくりとヴェルは彰人の質問に答えた。遠い過去を思うような声音だ。 「役割?」 「あぁ。魔道師は精霊《スピリット》を保護、管理するんだ」 そんなヴェルの様子に気づかず、彰人は質問を続ける。ヴェルも特に何も言わずそれに答えた。 「なんでそんなことするんだよ?」 「理由は二つあるな。一つは一般人に精霊《スピリット》の存在を悟られないようにすること」 「え、俺は?」 「例外だ。というか普通はそこまで気遣う必要はないからな」 重要なのは二つ目の理由だ。とヴェルは話を続ける。 「もう一つの理由は魔族だ」 「……魔族?」 「信じないのなら別にかまわないが?」 「え、いや、信じるよ。ってかここまできたらもうなんでもこいだ」 「魔族は精霊《スピリット》を狩るんだ」 「……狩る?」 「あぁ。下級魔族は己の養分にするために、上級魔族はその力を使うために」 「養分にするってのはやっぱり……」 「魔族の形態によっていろいろあるが……直接喰らうのが一番多いな」 彰人は今探している精霊《スピリット》――サモン・フェアリーを思い出して少し気分が悪くなった。 魔族がどのようなものかは知らないが、喰らうというからには……深く考えるのはやめておこう。 「……あ、でもさ。精霊《スピリット》の力を使うのはお前らも一緒なんだろ?」 魔族のそれが問題なら魔道師はどうなんだろう? 「魔道師と魔族じゃ力の使い方が違う。魔道師は精霊《スピリット》の力を引き出し増幅さして使うが、魔族は精霊《スピリット》が消滅するほどの力を酷使するんだ」 ひどくイラついた調子でヴェルは言う。 「世界を構成する精霊《スピリット》が消えれば世界が崩壊する。魔族がそれを意図的にしようとしているかは知らないがそれは避けなければならない。だから俺は魔道師組織から命を受けてサモン・フェアリーを探している」 ヴェルが当然のように語ったことは彰人にとっては現実離れしすぎていることだった。 けれどそれを語るヴェルの顔は、自分のやるべきことをしっかり持っている顔で。 彰人はうらやましいと思った。 ヴェルは自分にある力を使ってやるべきことを見つけている。そういう風に彰人には見えた。 そして彰人は自分はどうだろうかと考え、少し落ち込んだ。 自分の力などたかが知れていて、なにかこれといったことができるわけではない。 でも、目の前にいる少年は違う。しっかりと自分の中にある能力で、行動している。誰かに必要とされながら。 「すげえよなあ……お前」 「……なんだ急に」 「いや、さ。俺なんかは別にとくに何かできるわけじゃねえし、誰かに必要とされることもないし」 せいぜい人数合わせのサッカーの試合に誘われるぐらいと彰人は自嘲ぎみに言った。 そんな彰人をヴェルはただ見つめた。 「だからさ、お前がうらやましいなあって。俺はそんなふうにできない」 そんなふうに自分を卑下しながらつぶやく彰人をヴェルはじっと見つめる。 しばらくしてヴェルがおもむろに口を開いた。 「貴様が何もできないのは、何もしようとしないからだな」 「え?」 「貴様は最初から、自分に力がない。誰からも必要とされない。そう思ってるから何もできないんだ」 「そんなことっ……」 「ある。誰だって最初から力は持ってないし、必要ともされない」 「……」 「貴様は自分でやることを決められないからそうやって言い訳してるだけだ」 「っ! お前は実際力があるからそう思うだけだろ!」 思わず出した大声に周囲の人が視線を向けるが今の彰人はそのことに気づかない。 「俺に力なんかない。こんないつ獣に戻るか分からない体に力なんてあるわけないだろ」 静かに言うヴェルに彰人ははっとする。 「……貴様がそんなふがいないやつだとは思わなかった。もういい、サモン・フェアリーは俺一人で探す。貴様はそうやってずっとぐだぐだやってろ」 そう言うと自分が食べていたハンバーガーのごみを片付けてヴェルは立ち上がった。 ちらりと彰人を見てその場を去る。 「……なんだよ、あいつ」 一人残された彰人はふてくされた様子でその場に立ち尽くした。 なんだかすごくムカムカする。 『貴様が何もできないのは、何もしようとしないからだな』 ヴェルの言葉が痛い。 そうじゃないとはっきり言える材料が自分にはない。 驚くのはヴェルの一言に思いのほか揺さぶられたこと。 (ちくしょう……) いたたまれなくなって彰人もその場を去ろうとした。 そう去ろうとした。そして、見つけた。 空中に漂う、四枚羽の少女を。 「……!」 もはやヴェルはいないので別に少女を追う必要はないのだが、なぜか彰人は昨日と同じように少女を追った。 二人の少年たちは交わらない道を行く。 そして一人の少年はとある少女と遭遇することになる。 |
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