機動戦士ガンダムSEED Destiny 〜新生なる牙〜 PHASE−02 ・世界の終わる時 | |
作者: けん 2010年05月02日(日) 14時34分50秒公開 ID:cZUIXcDokvk | |
「何だって!?ユニウスセブンが動いてるって……一体何故?」 カガリでなくともそう問いかけるだろう。デュランダルは落ち着きながらカガリの質問に答える。 「それは分かりません。だが、動いているのです。それもかなりの速度で、もっとも危険な軌道を。」 「それは既に本艦でも確認いたしました。」 もっとも危険な軌道……つまり、地球へ落ちようとしているのだ。 「しかし、何故こんなことに?あれは100年の単位で安定軌道にあると言われていたはずのもので…」 アスランの言う通り、少なくとも向こう100年…この艦の人間が生きている間は大丈夫なはずだ。それが動いた要因があるとすると… 「隕石の衝突か、はたまた他の要因か…ともかく、動いているんですよ。今この時も……地球に向かってね。」 「……落ちたらオーブ…いや、地球はどうなるのでしょう?」 イリアが動揺を抑えながら問う。 「あれだけの質量です。申し上げずとも、それは皆さんにもお分かりでしょう…」 デュランダルの宣告を聞くまでもない。あんな巨大な構造物が落ちれば地球は死の星になってしまう。 「ふーん、でも何であれが?」 レクルームでもユニウスセブンのことを聞いたヴィーノの呑気な質問をシオンは黙って聞く。彼の問いにヨウラン・ケントがその要因となりうるものをあげる。 「隕石でも当たったか。何かの原因で軌道がずれたか。」 シンも缶を片手に問う。 「地球への衝突コースって本当なのか?」 「うん、バートさんがそうだって。」 「どうなっているの?アーモリーワンの強奪事件だってまだ解決してないのに……」 メイリンの回答を聞いたアリスが弱気な発言をする。 「で、今度はそのユニウスセブンをどうするの?」 ルナマリアの質問にヨウランとヴィーノが黙りこくる。しばし、レクルームを沈黙が支配する。 「砕くしかない。」 沈黙を破ったのはレイとルゥだった。 「ああ、それしかない……」 シオンが同意し、ミサキも具体的な理由を述べる。 「あれだけの質量だわ。軌道を変更するのは不可能ね。衝突を回避するには砕くしかないわ……」 「でも、どうやって?あれを砕く方法なんて殆ど限られてきますよ。」 カインの言う通りだ。あの質量を砕くにはそれこそ核ミサイルでもなければ出来ない。しかし、砕くという言葉を聞いたメイリンが表情を曇らせる。 「それに、あそこにはまだ死んだ人達の遺体も沢山……」 メイリンの言葉がシオンの胸にちくりと刺さる。彼があそこで失った伯母夫婦の遺体は回収されていない。ルゥはたたみかけるように締めくくる。 「だが、衝突すれば地球は壊滅する。それがどういう意味か判るだろう?」 「地球滅亡……冗談じゃない!」 シオンが声を荒げ、彼の脳裏にオーブにいる妹と仲間の顔がよぎる。いや、オーブに留まらない。ユニウスセブンが落ちれば地球にいる人達が全て死ぬ!止めなければならない!しかし、ヨウランの発言がシオンに別の感情を抱かせる。 「何ムキになってるんですか?良いじゃないですか。不可抗力だし、変なゴタゴタが無くなって案外楽でしょう。」 「貴様!」 シオンがヨウランを殴るために襟首を掴んだ時、別の声が響いた。 「よくそんなことが言えるな!」 カガリだ。アスランも一緒にいる。 「しょうがないだと!案外楽だと!これがどういう状況なのか、どれだけの人間が死ぬのか判って言っているのか!?」 カガリの叱責に少年達は黙り込み、ヨウランも「すみません。」と言うが、納得のいかない様子だ。 「やはりそういう考えなのか!?お前達ザフトは!あれだけの戦争をして!デュランダル議長の施政の元で変わったのではなかったか!?」 「カガリ…」 アスランが制するが、シンが唐突に口を開いた。 「別に本気で言った訳じゃないさ、ヨウランも。そんなことも判らないのかよ、アンタは!」 その言葉にシオンは再びヨウランに抱いた物と同じ感情をシンに向ける。 「何!?」 アスランが再びカガリを制する。シンもレイが咎める。 「シン、言葉に気を付けろ。」 一瞬黙るが、まるで判っていない口調で明らかな侮辱をする。 「ああ、そう言えば偉いんでしたねこの人。オーブの代表でしたっけ?」 「お前っ!」 「いい加減にしろ、カガリ。」 アスランが今度こそ落ち着かせ、前に出る。 「君は大分オーブが嫌いなようだな?議長が以前はオーブに住んでいたというが、くだらない理由で関係ない代表に危害を加えようというのなら、ただではおかないぞ。」 「くだらない?くだらないなんていわせるか!関係ないってのも大間違いだね!!俺の家族はアスハに殺されたんだ!!」 カガリが息を飲んだ。シオンは黙ってシンの言葉を聞く。 「国を信じて!アンタ達の理想とかってのを信じて、最後の最後でオノゴロで殺された!!」 この場にいる誰もがただ、シンの言葉を黙って聞いていた。 「だから俺はアンタ達を信じない!オーブなんて国も信じない!この国の正義を貫くって……アンタ達だってあの時、自分の選んだ言葉で誰が死ぬのかちゃんと考えたのかよ!!」 カガリは完全に顔色を失い、後ずさりしたがアスランが支える。 「何も判ってない奴が、判ったようなこと言わない で欲しいね!!」 シンはそう言い残してレクルームを出ようとした。しかし、 「バッカじゃねえの?家族があの戦いで殺されたなんて、それこそ本物の不可抗力だろう?」 イリアが壁により掛かってあからさまな嫌味を込めていう。 「そんな不可抗力を代表に押しつけてウズミ様が殺したなんて、いい迷惑だぜ。八つ当たりもいいところだ。」 「何だと!!」 シンがイリアの胸倉を掴むが、イリアは尚も軽蔑するように言う。 「おいおい、冗談に決まってるだろう?そんなことも判らないのか?今度の赤服は。」 「冗談だと!?それが冗談で済むと思っているのか!?」 しかし、イリアは怯える様子もなくシンの紅い瞳を睨み付ける。 「へえ?お前の家族が死んだのは冗談で済まなくて、地球が滅亡してよかったってのは冗談で済むんだ?」 シンが言葉に詰まった。イリアの言う通り、誰かの家族が殺されたのも地球が滅びて良いというのも冗談で済んで良いはずがない。彼はシンの手を払い、シオンに向かう。 「シオン、同情するぜ。銃を撃つ意味以前にこんな冗談で済む、済まないの区別も付けられないガキ共のお守りなんて…」 「何!?オーブに逃げた臆病者の癖に!!何も判っていない奴が…」 シンが言い終わる前にシオンの拳がシンに叩き込まれた。メイリンとアリスが口元を覆い、カインやルナマリアも唖然とする。シオンは力任せにシンの胸倉を掴む。 「貴様……それ以上俺の仲間を侮辱すると許さんぞ!……アレックスやイツキを!カガリさんのことを何も知らないガキが知った風な口をきくな!!」 「判るよ!お姫様に騙されているってね!」 今度はみぞおちに膝蹴りを入れる。シンが息に詰まるが、シオンにとってそんなことはどうでもよかった。 「貴様は個人的な恨みで今もオーブにいる人々も侮辱するのか!?そこに彼女を信じているお前の友達がいてもそんなことが言えるのか!?」 シオンは乱暴にシンを突き飛ばし、レクルームを出ていき、ミサキも着いていく。そして、出る前に吐き捨てる。 「お前がカガリさんに言ったことをそのまま言ってやる!何も判っていないガキが知った風なことを言うな!」 シオンとミサキが出ていった後にシンも飛び出し、アスランとイリアもカガリを連れて出ていき、レクルームにはカイン達が残った。 「不謹慎……だった?」 ヨウランがおそるおそる口を開く。アリスとカインが軽蔑の眼差しを向ける。カインはシンの主張を正しいと思う一方でシオンやイリアの言うことが凄く大事なことであるとも感じていた。 「一度出た言葉は中身によってはさっきのようなことになる……気を付けるんだな。」 ルゥがヨウランに更に釘を刺し、ようやく自分の言葉の意味を自覚したのか彼はレクルームを出ていった。 「こうして改めて見ると……でかいな。」 ユニウスセブン破壊の為に派遣されたナスカ級ボルテールのブリッジでザフトの一般服を着た青年が圧倒されながら呟き、隣に立つ白い隊長服の青年が叱責する。 「当たり前だ。住んでるんだぞ、俺達は!同じような場所に。」 「それを砕け、ですからね。これは本当に大ごとですよ。」 隊長の左隣に立っている赤服の少年が同意するように頷くが、一般兵ディアッカ・エルスマンが茶化すように肩を突っつく。 「愛しの彼女の危機だからね。」 「いけませんか?」 少年ニコル・アマルフィの淡泊な返事にディアッカは「別に。」と返す。 「遊んでないでサッサと準備に入れ!」 隊長イザーク・ジュールが馴れた調子で怒鳴り、クルー達がこっそりとため息をつく。上官と部下という関係に似合わない彼らのやりとりは互いに気を許せる仲であるのがわかる。こんな彼らもかつてはアスラン・ザラと共にクルーゼ隊の一員として奮戦し、ヤキン・ドゥーエを生き延びたザフトのエースである。 「はいはい。」 ディアッカがいい加減に答えながらエレベーターに向かい、ニコルも続く。ブリッジを出ていく彼らにイザークは念を押す。 「いいか?たっぷり時間がある訳じゃない!ミネルバも来る。手際よく動けよ!」 「判っています!」 ニコルが答えてエレベーターのドアが閉まる。 部屋に戻ったイリアは現在オーブ本国でカガリの兄フブキ・クラ・アスハの秘書をしているリュウ・アスカにメールを送った。オーブで家族を失ったシン・アスカという少年を知っているかという内容であった。リュウとシンは連合のオーブ侵攻で家族を失い、名字が同じだ。もしかしたらと可能性を疑ったのだ。 ⇒To Be Continued... |
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