機動戦士ガンダムSEED Destiny 〜新生なる牙〜 PHASE−02 ・世界の終わる時
作者: けん    2010年05月02日(日) 14時34分50秒公開   ID:cZUIXcDokvk
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もし、リュウとあいつが姉弟でお互いに生きていると知ったらどうなるのだろう?

それは彼ら次第であるのだが、一度最悪の出来事を見た彼にとって、彼らと同じ轍を踏んで欲しくはないのだ。イリアはメールの送信を確認し、パソコンを閉じて部屋を出た。

途中でアスランと合流し、エレベーターへ入ろうとしたら中から赤服の少女ルナマリアが出てきた。

「あら。大丈夫ですか、お姫様は?」

イリアは少女をジロリと見て、アスランが背を向けたまま言う。

「彼女だって父親も友達も亡くしている。あの戦争で……何も分かっていない訳じゃないさ。」

彼らは何も判っていない。そう、実際に家族を失ったシンも戦争の本質、銃を撃つ意味を知らないのだ。その先にあるのは地獄と言っても良いだろう。撃たれては撃ち返し、また撃たれての繰り返し。その結果があのミラーと核ミサイルなのだ。

もう、あんな事にしてはいけない……


ブリッジに上がったアスランとイリアはタリアに頼む。

「無理を承知でお願いします。私達にもMSをお貸しください。」

タリアが二人を黙って見つめて何か言おうとした時…デュランダルが早く口を開く。

ディアッカとニコルはそれぞれ砲撃用のガナーウィザードと高機動用のブレイズウィザードを装備したザクウォーリアで小惑星破壊に用いられる装置メテオブレイカーを保持したゲイツRと共にユニウスセブンに取り付く。ゲイツがメテオブレイカーをユニウスセブンの地面に取り付け、作業を始める。ディアッカの脳裏にかつて共に戦ったナチュラルの少女の顔がよぎる。

俺もニコルのことを言えないな……このデカブツをあいつの頭の上に落としてたまるかよ!

ディアッカはこれの破壊を誓う。しかし、作業を行っていたゲイツが突然爆発する。

「何!?」

両機の爆発に戸惑うディアッカの耳に警告音が入る。ディアッカは機体を操り、その場を離れる。

攻撃!?一体誰が!?

〈これは一体!?〉

ニコルも同様だ。幸い彼は無事なようだが、作業の為に丸腰のゲイツは次々と何者かに撃たれていく。その何者かの姿にディアッカは自分の目が信じられなかった。

コンピューターが機種を識別する。ジンハイマニューバ2型だ。機動力を重視した機体であるが、それはディアッカにとって見慣れた機体だ。友軍機であるはずのジンがユニウスセブンの破砕を邪魔する?この状況からディアッカの疑問は恐ろしい結論に達し、ニコルも同様の事を口にする。

〈まさか、こいつらがユニウスセブンを!?〉




同じ頃、ボルテールでも突然現れたジンが攻撃しているとの情報が入った。

「ジンだと!どういう事だ!どこの機体だ!?」

「アンノウンです!IFF、応答無し!」

「何?」

オペレーターの報告にイザークもディアッカやニコルと同様の仮説に至った。



ミネルバでは破砕作業支援の為にユニウスセブンへ向かっていた。そしてその格納庫で発進準備を進めていたMSの中にはアスランとイリアがアーモリーワンで搭乗したザクの姿もあった。

「粉砕作業の支援ったって、何すればいいのよ。」

ルナマリアの愚痴にヨウランは答えられなかった。その時、ルナマリアの眼にアーモリーワンで収容した二機のザクが眼に入り、ヨウランが説明する。

「あの二人も出るんだって。作業支援なら一機でも多い方が良いだろうって議長が。」

「ふーん…」

そして、次の言葉にルナマリアは息を呑むことになる。

「メイリンが言ってたけど、あいつら元ザフトだって。アスラン・ザラと。」

「ええ!?」

アスラン・ザラと言えばZGMF−X09Aジャスティスの伝説のエースだ。



レイ機がカタパルトに着こうとした直前、オペレーターの報告にアスランは二重に驚いた。

〈発進停止!状況変化!ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中!〉

イザーク?アンノウンとは何だ?

〈各機対MS戦闘用に装備を変更して下さい!〉

〈おい、イザークは大丈夫なのか?〉

イリアはかつての同僚の身を案じる声を上げた。彼の腕は二人ともよく知っているが、心配であることに変わりない。アスランも管制に確認を取る。

「どういう事だ?」

〈判りません!しかし、本艦の任務がジュール隊の支援であることに変わりなし!換装終了次第、発進願います!〉

オペレーターの報告が終わるとモニターが変わりルナマリアの顔が映る。

〈実戦はお久しぶりでしたね、お二人とも。いざとなれば私が助けてあげますよ!〉

バカにしているような態度にイリアが強気に返す。

〈へっ、いっぱしの口聞くのは俺らに一太刀浴びせられるようになってからにしな!〉

〈そうですか。それじゃあ、お先に行かせて頂きます!〉

インパルス、アナー、グラウンドが発進し、五機のザクが続く。そして、アスランのブレイズザクウォーリア、イリアのスラッシュザクウォーリアも発進した。

久しぶりに出る戦場にアスランは自分でも驚くくらいの懐かしさを感じた…

ユニウスセブンでジュール隊はジン部隊の奇襲を受けて丸腰のゲイツRは次々と墜とされていく。ディアッカとニコルが応戦するが、数が多くてとても二人だけでは守りきれない。

〈ゲイツのライフルを射出する!ディアッカ、ニコル、メテオブレイカーを守れ!俺も出る!〉

それから程なくしてボルテールからゲイツのライフルが射出される。武器を手にしたゲイツはレールガンとライフルで応戦するが、ジンは最新鋭機にも迫る機動力でゲイツを翻弄し、腰の刀で両断する。

ニコルがブレイズウィザードのミサイルを撃つが、ジンが右手に持つビームカービンで撃ち落とされる。ディアッカも腰の長距離ビーム砲オルトロスで狙い撃つ。正確な射撃だが、これもかわされてしまった。

「どういう奴らだよ、一体!ジンでこうまで!」

まずい状況だ。最初の不意打ちで作業が遅れている上にジンはパイロットの腕が高い。ジュール隊にいるパイロットは彼ら三人以外の殆どが実戦経験のないひよっこで、とても相手にはならない。また一機のゲイツが狙われるが、発進したイザークの青いスラッシュザクファントムがビームライフルでジンを屠る。

〈工作隊は破砕作業を進めろ!これでは奴らの思うつぼだぞ!!〉

隊長の参戦で統制を取り戻した工作隊は改めてユニウスセブンに取り付く。更に左肩に鳳仙花という花の描かれたブレイズザクウォーリアも工作隊の援護に回る。ニコルと共に前大戦からジュール隊にいるシホ・ハーネンフースという女性パイロットだ。

〈ジンは私達が抑えます!急いで!!〉

しかし、更に警告音が鳴り響く。レーダーの示す方向から来たのはかつてイザーク、ディアッカ、ニコルが搭乗していたMSと似た形状の機体だ。

〈カオス、ガイア、アビス、レイジ!?〉

「アーモリーワンで強奪された機体が何でここに!?」

ディアッカ達が驚くのを余所にセカンドシリーズはジンもゲイツも手当たり次第に撃ち、メテオブレイカーさえも破壊してしまう。




〈冗談じゃないぜ、こんなところでドタバタと!〉

〈お前らのせいかよ!コイツが動き出したのは!〉

〈みんな撃ち落としてやる!〉

通信越しに聞こえる仲間達の声にステラも怒りを滾らせる。

こいつらのせい!悪い奴ら!

ステラはガイアをユニウスセブンの地面に着地させ、MAに変形させる。背中のグリフォン・ビームブレイドを展開し、ゲイツを二機両断する。真上からジンがこちらを狙うが、ステラは機体を再び変形させ、背中のビーム砲でジンを落とす。

ユニウスセブンに向かったミネルバのMS隊の眼に強奪された新型機の姿が入った。

「チッ、あいつら!」

〈あの4機、今日こそ!〉

シンとルナマリアが真っ先に新型へ向かい、カインとアリスも続く。怒りに燃える彼らをシオンが止める。

〈おい待て!〉

〈戦闘が目的じゃないでしょう!!〉

ミサキも同じ理屈を言うが、シンは見下したように返す。

「そんなの判ってますよ!けど、撃ってくるんならやるしかないでしょう!あれをやらなきゃ作業も出来ないんだから!!」

納得したのか諦めたのかアスラン機が真っ先に工作隊へ向かい、シオンも〈勝手にしろ。〉と吐き捨て、ミサキと共に後に続く。イリアが念を押してくる。

〈後で泣きつくなよ。〉

シンは「誰が!!」とあしらい、アビスへ向かう。ちらりと横を見やると、レイとルゥも既にユニウスセブンへ向かっていた。

所詮口先だけの臆病者じゃないか!!何が伝説のエースだ!!




アスランは突撃銃でジンの右腕を撃ち、更に頭部を破壊して離脱させた。脇からジンが二機撃ってくるが、アスランは機体を反転させながら突撃銃を撃ち、一機の左腕を、もう一機の足を破壊した。こちらに目を付けたカオスが背中の機動兵装ポッドからミサイルを撃ち、アスランもブレイズウィザードのミサイルで迎撃する。ミサイル同士の激突で起こった爆炎の中にザクが飛び込んでいき、一気に敵との距離を縮める。

「こんな事をしている場合か!」
しかし、耳を傾けずにカオスはバルカンを撃つが、それより早くアスランの拳が叩き込まれた。カオスは剥きになったように機動兵装ポッドを展開する。アスランは冷静にその斜線を読んでシールドに内蔵されたビームトマホークを投げ、ポッドを破壊する。




イリアのザクはレイジと激しく斬り合っていた。レイジがビームサーベルを振ると、左肩のシールドで斬撃を防ぎ、押し返して斬りかかるが、レイジは距離を置いて両肩のアサルトシュラウドに装備されたビーム砲を撃つ。

「流石にやるな!」

イリアはレイジのビームを回避し、機体の距離を縮めながら背中のハイドラガトリングビーム砲を撃ち込む。レイジはシールドを構え、後退していく。しかし、イリアは勢いを緩めることなく敵機に突っ込み、体当たりを喰らわせる。




アビスのアウルはカリドゥス副列ビーム砲でゲイツを狙う。ゲイツはそれをかわすことが出来ず、宇宙の塵となった。

つまらない。もっとマシな敵はいないのか?ゲイツやジンなんて敵じゃない。それこそあの合体野郎のような奴が出てきて欲しい。

退屈に感じていた矢先、警告音が鳴り、肩のシールドを構える。こちらを狙っていたビームが阻まれた。今考えていた白い合体野郎だ。

「おっと!」

不意打ちなんかで僕をやれると思うのか!?

アウルは余裕でインパルスの攻撃をかわし、シールド内部の三連装ビーム砲を撃つ。

ルナマリアの赤いザクはガイアと交戦していた。ザクはビームトマホークを抜いてビームブレイドで突進するガイアを迎え撃つ。二機が交差し、ガイアはビームライフルを、ザクはガナーウィザードと右足を奪われた。




シオンはケルベロスウィザードのビーム砲でジン部隊を攻撃する。ジンは射撃を躱して刀で斬りかかる。シオンはそれを回避し、同時にウィザードのビームファングでジンを両断し、左のジンをもう一つの頭部のビーム砲で撃ち落とす。更にビームトマホークで一機のジンの刀を受け止め、その隙にウィザードのビームファングで頭部を潰し、その上からビーム砲をたたき込んだ。

「ちっ…ジュール隊のルーキーでは相手にならないな!」

こいつらの腕はかなりのものだ。経験の浅いジュール隊やミネルバのパイロットでは苦戦は免れない。考える間にシオンは新手のジンのビームを躱す。




「くそっ、ジンの癖に!」

カインはグラウンドで地面を滑走しながらジンを狙うが、ジンはゲイツを翻弄したあの機動力で砲撃を躱し、突っ込んでくる。カインはグラウンドをジャンプさせてビームホーンでコクピットを貫く。

これじゃ、セカンドシリーズのパイロットとして立つ瀬が無いぞ!



アリスはジン三機に翻弄されていた。三機は機動力だけ無く連携も見事なもので、こちらの攻撃は殆どあたらない。ジンのビームがライフルを破壊し、一機が刀を振り下ろそうとする。

「や、やられる…」

その時、後ろからジンがビームで撃ち抜かれた。ミサキのガナーザクウォーリアだ。

〈手間掛けさせるんじゃないわよ!〉

ミサキがオルトロスでジンを攻撃し、フォーメーションを崩す。その隙に気がついたアリスはアナーをMAに変形させて機関銃で撃墜し、最後の一機もミサキがトマホークを投げて真っ二つにした。




ミネルバとジュール隊のMSが強奪機体とジンに抵抗していた頃……ミネルバはザフトがユニウスセブンを落とそうと勘違いしているであろうボギーワンにMSの攻撃中止を求めるために国際救難チャンネルでコンタクトを取ろうとしていた。そして、地球ではユニウスセブンの異変が公表され、人々はシェルターへ、或いは落下時の津波に備えて避難していた。
次々と撃ち込まれていくメテオブレイカーによってユニウスセブンは真っ二つに割れた。この状況に強奪機体も含む全てのMSが戦闘を停止していたが、一機のザクがユニウスセブンに向かい、冷静な声が出る。

〈だが、まだまだだ。もっと細かく砕かないと。〉

その言葉にシオンも心の中で頷く。直径十キロにも及ぶユニウスセブンは半分に割れてもまだ地球を潰すのに充分な破壊力を誇る。しかし、アスランに続く三機のザクからは全く違うことに対する感想が帰ってきた。

〈この声…〉

〈アスラン!?〉

ニコルとディアッカが久しぶりに会う同僚の登場に戸惑っている。

〈貴様!こんなところで何をやっている!!〉

〈そんなことはどうでもいい。今は作業を急ぐんだ!!〉

イザークがシオンの予想した通りの反応をし、そしてアスランも同様の解答をして作業を促す。ディアッカが〈ああ!〉と答え、イザークも例の如く〈判っている!〉と荒っぽく返した。そして、ニコルは素直に〈はい。〉と答える。

シオンはミサキと共に並んでいる4機に合流し、通信を開いた。

「久しぶりだな、イザーク…相変わらず気が短いようで。」

〈シオン!?貴様こそ女に現を抜かしているのか!〉

自分にも憮然として返すイザークにミサキが口を挟む。

〈その現を抜かしている相手は私なのよ?〉

ニコルが〈そうでしたね。〉と笑いながら答える。そこへ更にイリアのスラッシュザクウォーリアが合流する。

〈なんか賑やかな同窓会だな。俺も混ぜてくれよ。〉

〈お、イリアか!彼女とはどうだ?〉

ディアッカが昔と同じようにイリアに食いつき、ミサキが憤慨する。

〈不潔な話は後にしてよ!〉

〈何を言う!これは健全な男として当然の話だぞ!なあ、イザーク!ニコル!〉

〈知らん!俺達に振るな!!〉

二年ぶりに一堂に会したクルーゼ隊の面々は昔と変わっていない。久しぶりに会う仲間達にシオンは微笑む。が、これ以上やらせまいとジンが四機、向かってきた。気付いたアスラン、イザーク、ニコルが先行し、メテオブレイカーを持つディアッカを守るように立ち塞がる。

アスランが撃ったビームがジンの足を奪い、ニコルはビームトマホークで一機を両断する。イザークのビームガトリングは三機目を蜂の巣にするとともに四機目を巧みに誘導し、ディアッカのオルトロスが撃ち抜く。




更に追ってきたアビスとレイジが四人を狙うが、レイジをイリアが。アビスをアスランとイザークが迎え撃つ間にシオンとミサキがメテオブレイカーを運ぶ。

「イザーク!」

〈五月蠅い!!〉

アスランのビームをアビスが両肩のシールドで防ぐが、その間にイザークがビームアックスを手に接近する。

〈今は俺が隊長だ!!命令するな!民間人がぁっ!〉

スラッシュザクファントムのビームアックスはアビスのビームランスを柄から叩き折り、ブレイズザクウォーリアが素早く足を切り裂く。




再び対峙したレイジとイリアのザクはライフルで撃ち合うが、ザクがレイジを蹴り上げ、体勢を崩した敵機をビームガトリングで撃つ。

「いただき!」

体勢を立て直すのが早かったレイジだが、それでも避けきれず、右腕を撃たれ離脱する。




翻弄される二機の援護にやってきたカオスはメテオブレイカーをゲイツ隊に預けたシオン機とミサキ機に押されていた。シオン機が背中のケルベロスウィザードに装備されたビーム砲でカオスを狙うが、その機動性にかわされてしまう。カオスはMA形態に変形し、MS形態時は足の役割であったビームクローでシオン機を掴もうと接近する。しかし、これはシオンの作戦であった。

「今だ!!」

一機に気を取られていたカオスは、シオンの合図と共にミサキ機が撃ったオルトロスでクローが装備された左足を奪われた。更にケルベロスウィザードのビームファングによって右腕も切り落とされる。




ガイアはMA形態でユニウスセブンの地面を滑走し、ディアッカのガナーザクウォーリアを追いつめていく。王手をかけようとしたガイアはビームブレイドを展開してディアッカ機に突進するが、ニコル機がその真上からビームトマホークを投げてビームブレイドを切り裂いた。

「ディアッカ!」

〈グゥレイトだ、ニコル!〉

突然の攻撃でガイアは体勢を崩し、その隙をついたディアッカ機がオルトロスで背中の装備ごと頭部を潰す。




セカンドシリーズを全く寄せ付けない七機の戦いぶりに、シンはただ唖然としていた。七機のザクは大して言葉を交わさず、見事な連携で最新鋭の機体を数回の攻撃で離脱に追い込んだ。

凄い…これがヤキン・ドゥーエを生き延びたパイロットの力……

同じく彼らの戦いぶりを茫然と見ていたアリスがおそるおそるカインに問う。

〈ねえ、……もしもあの七機と戦ったら、勝てる?〉

アリスの問いをカインはあっさりと否定する。

〈いや、無理だろう…〉

それにはシンも同感であった。彼らは経験でもチームワークでも自分達の上を行くベテランだ。シンはアスランとイリアを臆病者呼ばわりしたのが間違いであることを悟ったが、ルゥの叱咤する声で我に返る。

〈何をぼーっとしている!?作業はまだ続いている!〉

シンは慌てて眼下に目をやる。戦闘に夢中で気がつかなかったが、ユニウスセブンはもう地球の目の前まで迫っていた。




一方、ボギーワンから帰還信号が上がったのをミネルバでも確認した。破砕作業も続けられているが、もう限界だ。このままユニウスセブンに留まればあの強奪機体も地球の引力に引かれてしまう。それはミネルバも同じだ。タリアは後ろのカガリとデュランダルに振り返る。

「こんな時に申し訳ありませんが、議長方はボルテールへお移り下さい。」

デュランダルもこれには「艦長?」と問い返した。彼の問いに対するタリアの答えはカガリとデュランダルだけでなく、ブリッジクルーにも衝撃を与えた。

「ミネルバはこれより大気圏に突入し、艦首砲による限界点までの破砕を行いと思います。」




破砕作業を続けるザフトのMS隊にもボルテールとミネルバから帰還信号が上がり、ディアッカが舌打ちする。

〈くっ、限界高度か!〉

「まだ撃ち込んでいないメテオブレイカーがあるのに!」

ニコルが言うとおり、まだ撃ち込んでいないメテオブレイカーもあるのにこんなところで戻れとは!このまま放っておけば地球にいる彼女は!

焦るニコルの元にボルテールからレーザー通信が入り、その電文を読んだニコルは息を飲み、イザークからも同じ反応がくる。

〈ミネルバが艦首砲を撃ちながら共に降下する?〉

しばしの沈黙の後、イザークが号令をあげる。

〈残念だがここまでだ!ジュール隊はボルテールに帰還せよ!!〉

シンもミネルバからの通信を聞き、ミネルバに戻ろうとしていた。しかし、レーダーを見るとまだユニウスセブンに残っているMSの反応が二つあった。すぐにそのポイントに向かうと、そこでは残ったメテオブレイカーを起動させようとしているブレイズザクウォーリアとスラッシュザクウォーリアがいた。アスランとイリアが搭乗している機体だ。

「何やってるんです?帰還命令が出てるんですよ。通信も入っているはずだ!」

〈ああ、君は早く帰投しろ。〉

〈俺達はコイツを機動させてから行くよ。〉

戻る様子のない二人にシンは念を押す。

「一緒に吹っ飛んでも良いんですか?」

〈ミネルバの艦首砲といっても外からの攻撃で確実とは言えない。これだけでも!〉

アスランとイリアの姿勢にシンは説得を諦め、メテオブレイカーを支える位置に着いた。

「貴方達みたいな人が何でオーブなんかに…!」

全く信じられない。これほどの人達があんな綺麗事だけの国に!

しかし、突然何者かが三人を狙撃した。既に誰もいないと思っていたが、その認識は違っていた。あのジンが三機接近してくるが、中央の機体以外は損傷していた。

「こいつら、まだ!」

シンは敵の往生際の悪さに苛立ちながらサーベルを抜き放ち、ジンへ向かう。アスランもビームトマホークを構え、メテオブレイカーを守る。ジンの撃ったビームがメテオブレイカーを揺さぶり、イリア機の足を撃ち抜いた。

〈しまった!〉

〈イリア!もう無理だ!下がれ!!〉

仲間の被弾に気付いたアスランが焦りを募らせながら撤退を促す。

〈……おう!〉

イリアのザクが離脱していき、一機が彼に構わずにメテオブレイカーへ突っ込んでくる。そのジンからパイロットと思しき人物の声が聞こえた。

〈我が娘のこの墓標!落として焼かねば世界は変わらぬ!〉

通信が聞こえた頃には敵機はインパルスのサーベルで両断されていた。聞こえた後、シンは茫然と呟いた。

「娘?」

一機がアスランのザクと斬り合い、別のパイロットから通信が入る。

〈ここで無惨に散った命の嘆き忘れ、撃った者らと何故偽りの世界で笑うか!貴様らは!!〉

その糾弾がシンの胸に突き刺さった。

こいつらは…ザフトの?

この時、シンは彼らがユニウスセブンを落とそうとしている理由を理解した。彼らにはこのプラントを地球に落とそうとする正当な理由があったのだ。

〈軟弱なクラインの後継者共に騙され、ザフトは変わってしまった!!〉

アスランは一機のジンの刀をシールドで受け止めながらパイロットの恨みを聞いていた。この男達は自分と同じだったのだ……

〈何故気付かぬか!我らコーディネイターにとってパトリック・ザラの取った道こそが唯一正しき物と!!〉

鈍器で頭を殴られた。いや、それ以上の衝撃がアスランを襲った。

唯一正しい?違う者を、異を唱える者を、敵を全てあのミラーで滅ぼそうとした父が?

一瞬、アスランは完全に我を失いザクは無防備となった。ジンはシールドを押し切り、ザクの右腕を切り落とした。

衝撃で我に返ったアスランはインパルスがジンの腕を切り落とし、その機体にしがみつかれて自爆を受けたのを見た。

「シン!」

インパルスは爆発で吹っ飛ばされ、自爆したジンの残骸が設置の不安定だったメテオブレイカーに激突し、機動してしまった。しばし静観していた両者だったが、何も起こらなかった。最後のメテオブレイカーは不発に終わってしまった。アスランは諦めて戻ろうとしたが、再びジンが突撃してくる。

〈我らのこの思い、今度こそナチュラル共に!!〉

振り切ろうとしたが、ジンに足を捕まれ、ズルズルと機体が落ちていく。

〈この亡霊がぁ!〉

自爆のダメージから立ち直ったインパルスが飛来し、ザクの足を切り裂きユニウスセブンに向けて蹴落とした。ジンはそのままボディを真っ赤に焼いて地表に激突、爆散した。

インパルスがザクの腕を掴み、二機は重力から脱しようとスラスターを蒸かすが、既に逃れられないところまで来ており、二機は重力に引かれるまま、赤く燃えて見える地球へ落ちていった。

続く
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