#学園HERO# 6話
作者: 神田 凪   2009年05月23日(土) 16時38分48秒公開   ID:Fpk3UqE6X6I
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黒のズボン。白いシャツ。黒のネクタイ。黒の上着。
鏡を見るといつも着ている高等部の制服。

そして、手元には――



「では、行きますか」



戦隊モノのお面。





 学園HERO

 − story 6 −  選択







「それっ、どういうことですか!」

悲鳴に近い私の声は、その場に響く。意味が分からない。どうして?

「どうして、退学届けが受理されないのですかっ?」

先日出した退学届けの答えがいつまでたっても返ってこないことに不審に思って職員室に来てみれば、教師はまだ受け取れないと言った。
私の言葉に困ったように教師は口を開いた。

「いや、私にも理由が分からないんだ。ただ、理事の皆さんがそう言って・・・」
「理事!?」

どうして、そこまで話が飛ぶのだ。“上”の者ならいざ知らず、私は“下”の生徒だ。そんな生徒は今まで何人もいただろう。
なのに、なぜ私だけ・・・。

「とにかく、あと数日待ってくれ。何か返事があったら、すぐそっちに連絡するから」
「・・・分かりました」

出来れば早くこの学園から去りたかったのに。
居心地が悪い。職員室に来るまでにどのくらいの悪意のある視線を向けられたか。
私の起こした騒動は大きなものとなったらしい。私は寮の方で謹慎中だったが、学園では相当騒ぎが起こったそうだ。
それほどまで安達の影響はすごいということだ。

廊下に出ると、授業中であってか生徒の姿はなかった。ほっと思わず肩の力が抜けた。
早く寮に帰ろう。

「宮城真央さんですね」

少し歩いた頃、もう少しで玄関口というところで後ろの方から声を掛けられた。
嫌に穏やかな声だ。今まで、悪意のある声しか聞かなかったせいだろうか。
どのみち名を呼ばれたのなら返事をしなくてはならない。

「っ・・・! 帆阪様!?」
振り向いた途端、目が大きく開いた。
目の前にいたのは、この学園では有名すぎる人物。帆阪辰巳、大病院の跡取り。上に分類され、生徒会の副会長。

「すいません。少しいいですか?」

にっこりと邪気のない笑みに見えるが、否を言わせない雰囲気がある。
ゆっくりと頷くとこちらに、と歩き出した。それに急いで付いていく。

私達は気付かなかった。
廊下の先から、じっと見つめる影があったことを。




「さぁ、どうぞ」
「どうぞって・・・」

呆然と立ち尽くすしかなかった。目の前には一段と金のかかった大きな扉。そして、【生徒会室】と掲げられたプレート。
ここに入れと・・・? その存在を認識していても、この部屋に入れるのは一部の者だろう。そう、“上”であることが絶対の条件。

「大丈夫です。今はご存じの通り授業中ですから、役員の姿はありません」

その授業中になぜ帆阪様がいることは問題にはならない。生徒会役員には様々な特権がある。その分、仕事の量も普通の高校の比ではないだろう。
選ばれた者たちが集まる。・・・そういえば安達様はどうして生徒会入りを断ったのだろう。私達からすると贅沢なことだ。
生徒会のOBは今や業界のトップクラスに君臨している。生徒会に入れば将来が安泰も同然だ。

「遅かったな」

ガチャと開けた瞬間、中から声がかかった。ビクリと身をすくませる。誰もいないんじゃなかったのか。

「すいません。人目につかないように、遠回りをして来ましたから」
「ま、当然だな。安達とは違うからな。あいつがなぜそんなミスを犯したのかは気になるが・・・。まぁいい」

それに、この帆阪様にあのような言動が許されるのは・・・。

「お前が宮城真央か?」

ニッと獰猛な獣を思わせる笑み。生徒会室の真ん中にある大きな机。そこの椅子に腰掛けながら私を射抜くように見る。
この人は、

「どうして・・・」
「ああ、役員はいませんと申しましたけど。まぁ、この方は役員ではないですしね」
「ああ? 俺をあんな奴らと同じにするのか?」
「いえいえ、ここの主であると申し上げたかっただけです。主ですからここにいても当たり前のことですからね」
「ふっ、俺がいては何か問題か? それにお前を呼び出したのは俺だ」
「え・・・!?」

そう言ったのは生徒会会長芹沢帝。明治時代の頃から華族として多くの政治家を輩出し、現在も名家として続く家柄。
姿を見たことは何度もある。だけど、こんなに近くで、しかも会話なんて!

足がすくむ。血の気がサーッと引いていくのが分かる。
怖い・・・! この方の逆鱗に触れれば、会社なんてすぐに消えてしまうだろう。

そこまで考えてどうして安達様の時はここまで恐怖を感じなかったのだろうと思った。
芹沢と安達は路線は違うが共に名が並ぶ家柄だ。どうして安達様の時は・・・
だが、すぐ答えは出た。櫻井がいたからだ。
櫻井多喜。家は建築業関連会社だが、この学園では真ん中あたりの家柄だろうがどちらかといえば“下”だ。
なのに、安達様の近くにいる唯一の存在。彼がいたから、安達様の雰囲気が何か違った。どう表現したらいいか分からないが怖くはなかったのだ。

「呼び出した理由は聞きたいことがあっただけだ。別にどうこうしようとは思っていない」

私の怯えを感じ取ったのか、芹沢様はそう言った。別に私を安心させようと思って口に出したようではないようだ。ただ、私が嫌に怯えて問いの答えを聞けないと思ったからだろう。なんだかそれが馬鹿にされている気がして、フゥと息を吐き出し真っ直ぐ見据えた。

「それは、先日の安達様関連のことですか・・・?」

その私の様子に一瞬目が開いた気がしたが、本当に一瞬の事だったので気のせいかもしれない。
聞きたいことと言われて一番に頭に浮かぶのはやはり先日の事だ。

「ああ、それもあるが・・・まぁそれから聞こう。あの記事、どこまでは真実だ?」
「どこまでって・・・あの記事はまともに見てないので、何と言えば」

芹沢様の質問にうまく答えることが出来なかった。あの写真を見るだけで胸の中がふつふつと怒りに震えるからだ。

「では、どういう経緯で安達様とあの様な写真を撮られる様子になったのか説明願います」

次の帆阪様の言葉に私はあの日の出来事をゆっくりと話し出した。








⇒To Be Continued...

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