#学園HERO# 6話 | |
作者: 神田 凪 2009年05月23日(土) 16時38分48秒公開 ID:Fpk3UqE6X6I | |
とは言っても、近江様に水をかけられた事は有耶無耶にした。いくら縁が切れたからといってもあちらは“上”の方だ。 彼女の立場を少しでも危なくするのはこちらも危険だ。もしかしたら、芹沢様は分かっているのかもしれない。いや、しているだろう。 私が保健室に安達様と櫻井に連れられた理由を、聞いてこない。 「なるほど。なぜあの狐顔が側にいなかったことに疑問があったが」 「そういえば確かに放送がかかっていましたね」 「しかし、なぜ安達は珍しくも教室に送るなんて真似をしたんだ?」 話をすべて言い終わった後、しばらく二人で会話していたが最後の質問は私の方を向いていた。 そんなことを聞かれても知るはずがない。あえて言うならば、 「・・・気まぐれではないですか?」 もし本当にそうならば、私はきっと安達様の事を許さないだろう。 「ふぅん・・・」 私の答えを聞いて、芹沢様は考える素振りを見せたがすぐに視線を戻した。 そして、ゆっくりと口を開いた。 「ここからは本題に入る。宮城、」 「は、はい」 急に名前を呼ばれ、背筋に嫌な汗が流れた。 「ヒーローの事をどう思う?」 【ヒーロー】 最近、学園の高等部に現れる謎の存在。 “下”の者を“上”の理不尽な暴力から助けてくれる救世主。 確かに傍目ではすごいことなのだろう。でも、なぜか賞賛する気にはなれない。 ヒーローの存在のせいで更に“上”の方達の雰囲気がピリピリするようになった。ふとしたことで、怒鳴る人もいる。 「わたしは・・・ただの偽善者だと思います」 「ほぉ」 視線で続きを促すので、更に進める。 「ただその場限りの同情で、助けたのではないでしょうか。後の事なんて考えずに、ただ混乱だけ招いて」 この学園に被害に遭っている生徒はまだたくさんいる。 なのに、助けられた生徒はたった数人だ。なぜ、その生徒だけなのか。 どうして自分は助けてくれなかったのか。 ・・・っ! いけない。何を今考えた? 助けを求めてどうなるのだ。 何も変わらない。変わるはずがないのだ。 「・・・話はそれだけですか」 「ええ、まぁ」 私の顔色が変わったせいか、帆阪様が言葉に詰まったようだ。 でもどうしていきなりヒーローの事なんか。 そこまで考えていると、芹沢様が名前を呼んだ。 「宮城」 「はい」 「正直に言おう。俺達はお前にヒーローが近づくと考えている」 「え、」 目が大きく開くのが分かった。一瞬、何を言われたのか思考がはっきりしない。 ヒーローが私に? 「今までの事を考えると、ヒーローは一番噂になっている生徒を助けているようだ。そして、今、話題の中心にいるのは」 私だ。 噂は馬鹿にはできない。この学園の噂が大きいほど、よほどひどい被害にあっていたようだ。 待って、じゃあそれが本当だったら。私が・・・女子生徒が助けられない理由が分かった。 男子と比べて、女子のいじめは表に出にくい。そのため噂になんかなりもしないはずだ。 「俺はヒーローの化けの皮をはがしたい。あいつが何を考え、何を目的にこんな馬鹿げた行動をしているのか」 その口調は強く、惹きつけられる。これが、“上”に立つ者。 「お前を餌にしたいと思う」 「会長!」 その言い方に帆阪様が珍しくも声を上げた。 「今の言い方は・・・!」 「黙れ。帆阪、これはやっときたチャンスだ。この時を逃せば、ヒーローはもう捕まらないかもしれない」 「しかし・・・」 どうして芹沢様がここまでしているのに、ヒーローは捕まらないのだろう。 そこまですごいのか。 ヒーローの噂をまともに聞いたことはない。 どうせ、あることないこと吹き込んで、話が大きくなっているだけだと思っていた。 でも、“上”の芹沢様にここまで思わせるヒーローはどんな人なのか。 同じ“上”なのか。それとも私と同じ“下”なのか。 知りたい!! 「・・・いいですよ」 「え?」 この学園を去る前にやりたいことを見つけた。 そんなことをしても利益も何もないことは分かっている。むしろ損ばかりだろう。 でも、今まで一度もそんな行動をしたことがなかった。いつも誰かの顔色を伺って、自分の気持ちじゃなくて誰かを間に挟んで。 だけど今は誰にも気を遣うことはない。どうせ私はここを去るのだ。ならば最後くらい・・・ 「その役引き受けます。私も、私もヒーローの正体を知りたい」 私の思いのままで。 NEXT STORY→ |
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