機動戦士ガンダムSEED DESTINY REVERSE ANOTHER-PHASE 『天空の宣言』
作者: けん    2010年05月02日(日) 20時42分36秒公開   ID:cZUIXcDokvk
「艦長!ロンド・ミナ・サハクを名乗る者がオーブ宇宙ステーションアメノミハシラから全世界へ向けてメッセージが送信されています!」

「え?」

メイリンの報告を聞いたタリアは首をかしげた。ロンド・ミナ・サハク……前大戦時のオーブで五大氏族の一つであったサハク家の現当主で、現在はオーブの表舞台を去り、『オーブの影の軍神』の名で呼ばれる人物だ。

「艦内に流してちょうだい。」

「はい。」

メイリンがパネルを操作し、ブリッジのモニターにも長い黒髪の女性ロンド・ミナ・サハクが映る。

〈私はロンド・ミナ・サハク。現在はどこの国家にも所属していない。〉

ロンド・ミナは静かに自身の立場を表明し、宣言する。

〈私はこれからある計画を全世界に向け発信する。それについてをどう判断、どう行動するかは個人の自由だ。〉




〈先日のユニウスセブンの落下、両陣営共に相手を強く非難している。その矛先はジャンク屋組合にまで向けられた……だが果たして、本当にその非難は正しいものなのか?〉

世界中でロンド・ミナの言葉は放送され、人々は注目する。そして、デュランダルも……

〈世に闇が広がっている……人々は何も見えぬ中で怯え……そして他者の悲鳴を頼りに逃げ惑うばかりだ。人々は闇の奏でる悲鳴を伴奏に踊らされている。だが、その闇を指揮している者がいるのだとしたら?〉

そう…その闇を指揮しているのはブルーコスモスの母体でもある軍需産業複合体ロゴス。そう解釈することもできるだろう。

〈これが今日の政治であり国家だ……闇を、敵を作ることで市民をコントロールする………だが、聞いてほしい。〉




〈私はこれから全く新しい世界の可能性を提示する。ある人物が私に「国家は人」だと説いた。〉

ロンド・ミナの言葉をフブキも聞いていた。国家は人……確かにそうだろう。いかに立派な理念が、国土があろうと人がいなければそれは国家として機能しない。しかし、同時に理念を掲げるからこそ人も集まるのではないだろうか?

〈自らの曲を奏でる者達がいる。彼らは自分の信念を……真実を持つ。故に、闇の中でも世界を見落とし、他者に踊らされることはない。ただ自分の曲で踊る。〉

自らの信念を持つ者……キラ、ラクス、ユリの姿がフブキの脳裏を通り過ぎた。

〈彼らと同様に世界中の人間が自分のリズムを、メロディを持てたのなら……もう、今のような国家としての枠組みも必要ない。政治もその役割を大きく変えるだろう。〉




シンはロンド・ミナ・サハクの放送を憎しみの目で見ていた。どこにも所属していないなど嘘だ。どうせオーブに肩入れしているんだ。そうに決まっている。

ロンド・ミナめ……お前の三文芝居なんかに俺は騙されないぞ!

〈もちろん彼らは一部の特殊な存在とも言えるだろう。〉

それ見ろ。自分が特別だと遠回しに言っている。シンはロンド・ミナをあざ笑った。しかし、次の言葉で衝撃を受ける。

〈私もそう思っていた……だが、そうではないことを私は知った。〉

画面に黒髪に金色のメッシュが入ったカメラを手にしている青年の映像が入った。シンはその青年を知っていた。

〈ジェス・リブル……このジャーナリストを知る者は少ないだろう。〉

「何故、彼が?」

カインが呟き、アリスも「どういう事?」と首をかしげた。シンも同じだ。何故、アーモリーワンでセカンドステージのテストを取材していたジャーナリストの彼がここで出てくる?

〈彼は平凡だ。しかし彼は、いくつもの大きな歴史の流れの転換に影響を与えている。何故平凡な男がそんな事を成しえたか?〉

確かに、ロンド・ミナの言う通り取材の話で少し会った自分でも判る程、彼は平凡なナチュラルのジャーナリストだ。

〈彼もまた自分の曲で踊る者だからだ。自分自身の持つ信念というメロディで真実というリズムで踊る者だからだ………そう、特別な存在でなくても誰もがそのように生きてさえいれば世界は変わるのだ。〉




誰もが己の信念を持って生きる……アスランはその言葉に聞き入った。そういう意味では、ユニウスセブンを墜としたザフトのパイロット達もナチュラルの殲滅という信念で生きていた。それと同様ということになるのではないだろうか?

〈一人一人の生き方が変われば世界も変わる。この新しい世界に国家も国土もない。あるのは一つ……理念のみ。〉

理念のみ……それはどういう事だ?

〈『他者の理想を妨げない限り、己の信念に従って生きる。』、それだけだ。このように生きる者なら、この新たな世界の一員たる資格を持つ。ナチュラルもコーディネイターも関係ないのだ。〉

ナチュラルもコーディネイターも関係ない世界……それはアスランがカガリとキラ、ラクス達と共に理想として求めている世界だ。




〈私は個々がバラバラになれと言っているのではない。理想を同じくする者がハーモニーを奏で、共に手を取りデュエットを踊ることもできるだろう。〉

ロンド・ミナ・サハクの手を地球軍の制服を着たサングラスの男が取った。

〈私は私の考えに賛同する者達のために働こう。もし同士と呼べる者が聞きにあるなら躊躇無く我を呼べ。私と私の同士はその持てる力の全てを使いその者を守ろう……恐らく、この放送を聞いてもにわかには信じられまい。〉

カガリはロンド・ミナの言葉にひたすら耳を傾け、悟った。これは自分とフブキが求めるものとは違うもう一つのオーブだ。同じ志を持つ者が互いに手を取り合い、他者の理想を妨げない。それは正に『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』オーブの理念のもう一つの形だ。

一泊おき、ロンド・ミナは微笑む。

〈それでいい、私は強制はしない……最後に今一度言う。己の信念に従って生きろ。さすれば永遠と無限の恐怖を持つ闇にも打ち勝てる。永遠の終わり、無限の境界……それは個々の力で成せるのだから。〉

ロンド・ミナが最後に一礼をし、映像は切られた。

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