BLADE OF SWORD 第一夜 |
作者: 清嵐青梨 2009年04月19日(日) 00時13分10秒公開 ID:L6pfEASBmTs |
誰もが何を望み、何を願い、何を叶うために聖なる戦場に生命と共に身体を捧げている。 その望んだ心の奥底に潜むものが何なのかは、叶いたかった己が知る由もない。 叶うべき願いを、叶うべき望みを託している全てを――只、聖杯という杯がその運命を弄ぶかの様に、聖杯戦争もまた運命という名に踊らされているに過ぎなかった。 青白い満月がくっきりとした輪郭を浮かぶ夜、聖杯戦争とはそんな戦争とは知らずに……俺は何も望むべき願いも、叶うべき望みも思いつかないまま聖杯戦争の鍵を握り締める。 マスターと生死を共にする存在・ 「――聖杯の寄る辺に従い、この意・この理に従うならば応えよ。誓いを此処に、我は常世全ての善となるもの、我は常世全ての悪となるもの――」 予め聖書に書かれた召還詠唱の全て暗記したため態々聖書に目を通さなくても済む。召還のために広い場所と魔法陣を描くために必要な材料が必要だったため場所選びには戸惑ったほどだ。 召還詠唱も愈々終盤を迎えたところで、片方の手の隙間から一滴の血が魔法陣の上に落とされる。すると魔法陣が紅々と光りだし下から魔法陣の模様を象った光が身体を擦り抜ける。 最後の詠唱まで来たところですぅ…と深く息を吸い込み気持ちを落ち着かせると最後の詠唱を唱えた。 「――天秤の護り手よ!」 全ての詠唱を唱えた瞬間何かが身体中を駆け巡った。不思議な感じがする…つい我を忘れてしまうくらいに俺は駆け巡る何かを静かに感じ取る。 魔法陣の紅い光が徐々に薄れていった途端、隣部屋から気配を感じそのドアを見る。知り合いでもない得体のしれない気配に俺は警戒態勢をとるために右手で魔術を唱え、何もない右手から日本刀を投影させジリジリとドアに近寄ると思いっきりバンッと音をたてて部屋の中に乗り込む。 然し物置として使っている部屋には誰もいなかった、同時に気配も突然消えていた。気のせいかと思い日本刀を下ろした途端、首筋から冷たいものを押し当てられ後ろから人の声がした。 「問おう…私を呼んだのはお前か?」 押し当てられたもの――それが日本刀だと分かった――を振り払い後ろを振り向いて後ろにいる者に向けて刃を向けた同時に、其奴も俺に向けて刃を向けた。 後ろいた人物は長い髪を後ろに束ね、鍔なしの日本刀を携えていた――一人の侍だった。 思わず目を丸くし相手を観察していた時、先ほど彼が言った言葉を思い出し俺は相手に向けていた刃を下ろす。それを見た侍はその行動に目を見張る。 「何故刀を下ろすのだ」 「お前が俺が呼んだサーヴァントだと分かったからだ…此処で反逆の意を示したら折角召還したサーヴァントに殺されかねない」 「そうか…ではお前が私のマスターか?」 「嗚呼、そうだ…俺がお前のマスターだ」 「……では、私の 「う……そ、それは…。聖書に書かれたことに従っただけだからクラスは少ししか分からないんだ…。刀を持っているってことは若しかして 「否、私のクラスは 「…佐々木小次郎、かの有名な宮本武蔵と互角に戦いあった剣客にとんだご無礼をしてしまったことをお許しください」 自ら召還したサーヴァント・アサシンに向けて頭を垂らすが、マスターである人が頭を下げることはない…頭を上げよと言われた。これには流石に躊躇してしまったのだが、此処で逆らうわけにはいかない、見た目が人間でも所詮サーヴァント…マスターであろうと“聖杯”のためならば殺生をしかねまい。 俺は彼に言われた通り頭を上げると、ある点に気付きそっと瞼を閉じ再び瞼を開くと投影した日本刀を壊す。投影して僅か数分しかかからなかった刀はパリンと弾けた音をして塵芥となって砕け散った。 思わぬ行動に再び目を見張った侍に、先に名乗られてしまった以上此方も名乗らなければいけないな、と言ってス…と手を差し伸べた。 「初めましてアサシン。俺は高嶺優香だ…ユウと呼んで呉れて結構だ」 「ほぅ、高嶺の花から漂う優しい香りか……良い名前だ」 そう言って彼も握り締めている日本刀を下ろし、空いた手で俺の手を握り返した同時、右腕から薄らと紅い線で描き出された見慣れない紋章が浮かび上がってきた。前触れもなく浮かんできた紋章を見て、これが令呪か…と心の中で呟くと握り返した手を離す。 却説、契約が完了したということで早速教会に向かわなければと思い玄関のドアを開けようとした時、ノブに触れた指を止め召還に使った部屋を見回す。先ずは後片付けをしなければな……。そう思い台所から雑巾を持ってこようと進路を変えた時、私が拭くものを持ってこようかとアサシンが俺に向けて聞いてきた。 親切に手伝おうとして呉れるサーヴァントに、ほんの少しだけ戸惑いと驚きの気持ちを表す。が、それも直ぐに払拭する。 「いや…大丈夫だよ、一人で出来るから」 「そうか…なら良いのだか、先ほど物置から猫がうろちょろしているぞ」 「うろちょろ…あぁ、ルイズのことか?多分トイレを探しているようだから外に出して呉れないか?」 「飼っている猫であろう?それも、こんな夜中に外に出したら帰路に辿り着けなくなるのでは?」 「大丈夫。ルイズは元々野良猫だからさ、一人になっても自力で帰路に着けることが出来るよ」 「……野良猫にしては以外と賢い頭脳をしているではないか。これもユウ殿の教育のお陰か」 「そのユウ殿っていうのは止めて呉れないか?普通にユウで良いから……ま、多分俺の教育のお陰かもしれないな」 そう言って台所に言って雑巾を何枚か取り出すと魔法陣を拭き取り始める。明日経ったら念のため別の場所で同じ様な魔法陣を描くため聖書は取っておく事にした。元々この聖書は亡くなった姉の遺品から出てきたものなので、大事にして置かなければ亡き姉の魂が化けて出てくるかもしれない。それだけ想像して来るとぞっとしてしまう。 念入りにふき取っていたら黒い毛並みに金色の目を持った、二個の鈴がついた赤のチョーカーを付けた猫が、ニャァと一声鳴いてアサシンの足元に近寄りスリスリと擦り寄ってきた。どうやら開けて欲しいと構っているらしい。 それを見た彼はふっと笑みを浮かんで猫をそっと己の腕へと誘う様に抱くと玄関のドアを開け、満月が煌々と輝く夜空の元で猫を放す。猫は少し歩いてアサシンを見て、ニャァと鳴くと暗い夜の街に向かって行った。 それを見送った彼はギィッと音をたてドアを半開きにすると、魔法陣を半分ほど吹き終え息抜きをしていた俺をちら見して言った。 「ユウ…あの猫が戻ってきたらこのドアをそのまま開けていれば宜しいかな?」 「あぁ、それは物置の窓とドアを開けていれば良いよ。彼奴はいつもあそこから入ってくるから」 適当に言うような口ぶりにも係わらず真剣に聞いていたそれに承知した、と短く返すと物置の中に入り窓を開けに行った。 忠実なサーヴァントを呼び出したものだ…俺はその背中をちら見してそう思い、再び魔法陣をふき取る作業を再開しようと赤々と汚れてしまった雑巾を洗いに台所へ向かった。 結局魔法陣をふき取るのに一時間くらい掛かってしまい、教会へ赴いて正式に聖杯戦争の参加が認められた日には、もうとっくに“明日”の日付が“今日”の日付に変わっていた。 |
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