#学園HERO# 7話 | |
作者: 神田 凪 2010年01月23日(土) 19時46分49秒公開 ID:Fpk3UqE6X6I | |
生徒会副会長帆阪辰巳は、生徒会長芹沢帝を尊敬している。 カリスマ性はもちろんだが、その行動には毎回ながら魅せられる。 先を読むことのできるその頭脳が、何事もこなせるその器用さが、素早く行動できるその運動神経が、誰もが羨むその容姿が、 ・・・そして、屈することのないその強さが 何もかも自分より遙かに上にいる帝を辰巳は嫉妬することもなくただ素直に頭を垂れることが出来る。 だが、無条件に彼に付き従うわけではない。 芹沢と帆阪は付き合いがあるため、帝と辰巳も幼い頃から顔見知りではあった。 芹沢の方が地位は高いため気安く声を掛けることはあまり無かったが、それでも帝に一番近いのは辰巳だろうと自惚れなく思っている。 そのため、意見を言える立場にいる。帝は辰巳の言葉をきちんと聞いてくれる。 彼は知っているのだ。自分一人では限界があることを。周りをきちんと見ることができるから先を読むことが出来る。 だからこそ、今回は許せなかった。 宮城真央を使ってヒーローを誘き出す事を反対しているわけではない。 むしろ、そうでもしなければヒーローの足取りを追えないだろう。 生徒会がここまで動いてもヒーローを捕まえられない。 いくら、権力者達から捕まえなくて良いとは言われてもそれは自分たちのプライドが許さない。 分かっている。 自分が怒っているのは、そのことを本人に伝えたことだ。 彼女の立場は今とても危ない位置にいる。 家のほうも状況がよくないと耳にした。それに加えて彼女は学園の敵と認識されてしまった。 精神的にも肉体的にもきついだろう。だからといって何をするわけでもない。 自分には彼女に何もできないことは分かっている。ただ可哀想だと同情することしかできない。 だから、せめて静かにこの学園を去って欲しかった。 利用されていることを知ってしまえば、更に彼女を追い込んでしまうのではないか。 帝が彼女に伝えたとき、思わず我を失ってしまった。 彼女が頷いた時、驚いた。 そんな強い方には見えなかったから。 彼女の瞳には何かを決意したような強い光が見えた気がした。 「・・・はぁ、」 つかれた。 パソコンから目を離し、一息をついた。 目の前には大量の書類。生徒会業務は毎回ながら多忙だ。 宮城真央との会話から1日が経ち、何事もなく時間が過ぎる。 帝は理事に呼ばれ席を離れている。他の生徒会役員達は授業があるため教室に向かわせた。 つまり、今、この生徒会室には辰巳ただ一人。 「さて、そろそろ帝も帰ってくるでしょうし・・・お茶でも入れますか」 椅子から立ち上がり、備え付けの給湯室に向かう。 紅茶の茶葉を用意しようとしたその時、携帯のバイブがなる。 時間帯に首を傾げながら、送信者の名前を確認した。 「・・・宮城さん?」 昨日アドレスを交換した彼女の名前だった。 彼女の性格では、何も用事がないのに掛けてくることはないだろう。 「はい。帆阪です」 《 あ、あのっ、みや・・・宮城です! 》 随分焦っている声だ。 その理由が分からず、思わず顔をしかめる。誰かに今いじめられているということではないだろう。 彼女は数日前から寮で待機のはずだ。それに、今、外にでることがどれだけ危険なことは彼女自身がよく分かっているだろう。 「落ち着いてください。どうなさいました?」 《 さ、さっき部屋のパソコンにメールが届いて・・・》 「 !? まさか誹謗中傷のメールですか?」 《 違うんです! あ、差出人も書いてなくて、ただ助けて欲しいかって 》 「え・・・?」 《 もしかしたらいたずらのメールかもしれないけど、でも、もし、もし・・・ 》 「 ヒーロー 」 彼女の言いたいことは分かった。 だが、早すぎる。昨日の今日でヒーローから接触があったというのか? 混乱しそうになる頭を必死に落ち着かせる。 「とりあえず、会長の方へ連絡してみます。貴女は、そのまま部屋へ。再び、何かありあしたら連絡を」 彼女が返事をするのを確認してから通話を終了する。 と同時に力が抜けて膝をつきそうになった。とっさに足に力を入れてそれは回避したが、思っていた以上に緊張していたようだ。 ヒーロー、 学園に突如現れた存在。 辰巳は帝ほど執着はしていなかった。確かに、その存在は厄介だ。 彼の登場のせいで学園の秩序が崩れてきている。そのおかげで生徒会の仕事は大きく増えた。 だが、彼を捕まえてくれと言うのは何も関係がない『上』の生徒のみ。 彼に暴力をふるわれた『上』は彼を捕まえるなと喚いてくる。 それに、助けられる『下』はもちろんその存在を望んでいる。 つまりヒーローの存在はとても面倒な位置にいる。 捕まえなくても文句を言われるが、捕まえても批判を浴びるのは間違いない。 彼に執着をすることは危険だと本能が告げる。もちろん帝だって感じているはずだ。 「・・・そうですね。私がどうこう言っても仕方がありません。私は帝の意志に従うまで」 フッと息を吸う。 きつく目を閉じ、再び目を開けるときには辰巳に迷いはなかった。 短縮に設定している帝の番号を押す。 3回ほどコールしてから相手が出るのが分かった。 どうやら理事の話は終わったらしい。 「帆阪です。会長にお伝えしたいことがあります」 |
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