のぼる坂道、ほどけた糸の先は | |
作者: ルーク 2011年02月22日(火) 10時18分57秒公開 ID:ECi1K661p.Q | |
白い、しろい、シロイ。 新しい部屋は、こんなにも白すぎる。 青い、あおい、アオイ。 新しい青空は、こんなにも青すぎる。 まだ越してきたばかりのきれいな部屋の窓から外をのぞくと、さっきまで歩いていた坂道がよく見えた。 なんだか、あそこでまだ君が立っているんじゃないか、泣いてはいないだろうか、と心配になった。部屋を出ていこうと早まる心を自制して、吹く風に髪をなびかせた。 『別れる…って』 『うん…。もう、無理だよ。君とは、一緒にいられない』 その言葉に、君は大きな瞳を信じられないという風に見開かせた。ここに来るまで、覚悟してたはずの痛み。だけどやっぱり痛い。体を貫かれるような痛み。 『どうして!何がいけなかったの?ねえ、ねえ…!』 『……髪、伸びたね』 『今はそんな話じゃないよ…!』 ううん、そんな話、でもないんだ。 君は、昔髪が短かった。 僕が長い髪の女の子が好きだといっても、私は私だから、って。 そんな、自分をつきとおす、強い君が僕は好きだった。 だけど、いつからか君はどんどん僕の思い通りに、僕好みになっていく。 嬉しいはずなのに、なんだか心がどんどん枯れていく気がした。 君はもう、僕の好きな君ではなくなってしまったのかな。 『そんなに私が嫌い?』 ううん、そんなことない、君のことが本当に好きだ。今も、心のどこかで君を想っている僕がいる。 だけど、もう遠い……。 結局、人生、一番つらい選択がベスト、ってわけだ。 傷ついて、傷つけあって、僕らは別々の道を歩むことにした。 外の風に髪をさらしながら、僕は君と会った初めての春を思い出している。 『よろしくね』 隣の席に座った君の優しくほほ笑んだ顔に、僕は一瞬で恋に落ちた。 僕の小指に絡みついた赤い糸が本当にあったなら、それはきっと君につながっていたと僕は本気で信じていた。 何度も春を越えて、夏を越えて、秋を越えて、冬を越えて、また春を越えて。 そんなことが繰り返されて、結局僕たちの赤い糸はほころび、ほどけ、日常に消えていった。 どこで違えてしまったんだろう、僕たちは。 ねえ、神様。 一度だけ、一度だけ、願いがかなうのなら。 何度でも生まれ変わって、あの春の、優しくて強い君に会いに行かせてください。 荷物の中の、君との思い出を僕は次々に袋へ突っ込んでいった。 写真、Tシャツ、ペアのリング。 そして、君との思い出。 枯れたはずの頬に、何か温かいものが流れ落ちていく。 僕は、泣いているのだろうか。 鞄の中から、小さな箱が転がり落ちてきた。 なんだったっけと開けてみると、金色の細い指輪が出てきた。 来週の君の誕生日の為に、僕が買ったもの。 この指輪はもう二度と君に会えないから、きっと渡せないんだね。 さようなら、愛した人。 もう、振り向かないで、歩き出すよ。 君のいない明日へと。 [終わり] |
|
| |
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |