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作者: ルーク 2011年02月01日(火) 16時01分51秒公開 ID:gDpB60zr1as | |
〜半年後 atキットリー家〜 「来週の土曜日?」 養父のキットリー氏が眉根を寄せた。はい、と俺はうなずく。 「来週の土曜日、7日はどうしても休みがほしいんです。どうしても行かなきゃいけないところがあるんです」 しばらく考えこんだ「父さん」(彼がそう呼んでほしいといった)がスケジュール表を確認して、首を振った。横に。 「だめだな。その日は公爵家のご息女の誕生日会がある。お前がそれに出ることになっている」 「そんな…!」 他の女の子の誕生日なんてどうでもいいんだ。それよりも、もっと大事な誕生日会があるのに。 「諦めなさい」 下がりなさいと命じられて、俺は礼をして出ていった。半年間、朝から晩まで叩き込まれて覚えた礼儀作法の一つだ。 「はぁ……」 諦めるしかないのかな。 〜7月7日、atモーガン家エイクの自室〜 「お嬢様、よくお似合いですよ」 真っ白なドレスを着て、初めて髪をアップにして、無表情な私をメイドがほめる。 全然嬉しくないんだけど。 「さすがはお嬢様、アップにした方がよくお似合いですわ」 「そうかしら、ありがとう」 心にもない言葉を無表情につぶやく。あの日以来、何となく無表情のポーカーフェイスでいることのほうが多いような気がする。本当に笑ったことなんて全然ないんじゃないのかな。 「お嬢様、今日はお嬢様の成人をお祝いする会でもありますし、婚約者をお決めになる会でもあるんですから、笑ってくださいませ」 「うん……」 3人のメイドたちの話を流して、私はただただソファに座っていた。 不意にノックの音がして、叔父さまが声をかけてきた。 「エイク、そろそろパーティ会場に入って準備しなさい」 「あ、はい…」 おなかにちゃんと力が入らない。あの日以来、あんまりまともに食事をとっていないせいかな。今日はちゃんと食べないと。 父さまに聞いた話だと、今年は私のスピーチが初めではないそうだ。私の婚約者が決まり次第なのだそうだ。 ―私が婚約者を決めないと、集まってくださった方々が帰れないんだぞ。 暗にそう言われているのだということも知っている。だけど、やっぱりそういう気にはなれない。 「……何か食べようかな」 そういえばちょっとおなかがすいてる気がする。私は食べ物が置いてあるブースに行って、お皿を手に取る。 とっさに手が動いて、お皿に取ったもの、それを目にして私は笑いたくなったと同時に涙が込み上げてきた。 ―仔牛のパイと温野菜と、エビフライ… 「レイルの大好物だ…」 呟くと、私はほほ笑みを浮かべてイスに座る。自分でシャンパンを持って、飲もうとした時、目の前のイスがひかれたのがわかった。 とっさに前を見ると、そこには。 …………… 「……」 「……レイ、ル……?」 「ん、エイク。久しぶり」 半年経って、ちょっと大人っぽくなった顔。公爵家の正装をしている。長めの黒髪と、それを縛っている赤いリボンがいつもと一緒だ。優しい青い瞳も。 「ほんとに、レイル…?」 「うん。俺もじつはここに向かってる馬車の中で気づいたんだけど。 えっと、18歳の誕生日おめでとうございます、モーガン家ご息女さま」 いたずらっぽく笑ったレイルがなんか懐かしく見えた。 「うん、ありがと…」 一瞬、あったかい空気が…… 「き、きゃっ?何するのっ」 「ちょっとね!」 流れたかと思ったんだけど、いきなりレイルが私を担ぎあげてパーティ会場を抜け出した。 「なにしてるのよ、ばか!」 おろされた先は私の部屋で、明かりをつけたレイルがごめんごめんと謝った。 「あ、エイクはいけない子だな。指輪はずしてっていったのに」 「あ…」 ぱっと右手を隠すが、もう遅い。 「だって、はずしたくなかったんだもん……ごめんなさい」 「ん、いいよ」 そういうと、レイルはいきなり私の頭に結わえてあったリボンをほどきだした。 長い金髪がはらりと落ちる。 「……こっちのがいい」 下を向いて恥ずかしそうにレイルがつぶやく。 私は何が何だかわからなくて、なんだかわからないけど涙がこぼれおちてくるのを止められなかった。 なんで、おろしちゃうのよ。 ばか。 「わ、何泣いてんだよ!?」 涙に気付いたレイルがあたふたとする。 「……似合ってなかった?アップにしたのに…」 ああもう。泣いたら、せっかくのお化粧が落ちちゃうじゃないの。私のばか。 「ええ?違うよ…その、あの」 しばらくもぞもぞと何かつぶやいていたレイルだったが、きまり悪そうにほっぺたをかりかりと掻いた。 「違くて、その、なんていうか……他の男に見られたくないの。 俺にはその髪型のほうが慣れてるんだよ…!」 「え…」 あーもうマジで恥ずかしいと小さく叫んだレイルは私を引き寄せた。あったかい、レイルの心臓がドキドキと速く鼓動を打っていた。 「レイル、すごいドキドキしてる?」 「うるさい…」 「あのね、レイル、私ね」 「…ストップ」 せっかく言おうとしたのに、ストップされてなんだか腹が立つ。 「なんで」 「俺のプライドが許さないから。 …好きだよ、エイク」 「…〜っ、私もね、大好きだよ!」 やっと、通じあえたんだね、私たち。 「あ、それと、俺も一応婚約者みたいなんだけど、どーする?」 「え、それどういうこと?」 だからさ、とレイルが解説してくれた。 「さすがに従者婿ってわけには行かないわけよ、仮にも三大公爵家の婿が使用人だって言うのはまずいわけ。だったら、俺の立場が公爵家養子になればまあまだ体裁は保てるって話」 「そんなこと、私は気にしないのにね」 「みんながそういうわけじゃないだろ」 で、どうなんだよ、返事は? レイルが目で催促してくる。 「もちろん、私と結婚してください!」 私はレイルに抱きついた。 [終わり] |
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