#学園HERO# 10話 | |
作者: 神田 凪 2011年01月08日(土) 16時59分55秒公開 ID:Fpk3UqE6X6I | |
「お前が無責任にもこいつと共に行動したせいだ。自分の影響力を、この学園での影響力を忘れたせいだ。あの時、引っ付いている狐顔か保険医にでも任せておけば良かったんだ。どういう気持ちでこいつを送ったのかは知らないが、こうなる事をお前は予測していたはずだ。それともここまで大きくなるとは思っていなかったのか?それこそ笑えるぜ。その簡易な考えがこいつの一生を壊そうとしている。お前は、『上』としての責任を軽んじているのか?」 ギュッと無意識に拳を握る。 ヒーロー・・・その正体である安達様に怒りを覚えているのではない。本当なら、ここで私が安達様に怒りをぶつけるものなのかもしれない。 でも、それ以上に、私は芹沢様の言葉に漠然とした。 『上』である責任。 私は、『上』に昇りたかった。馬鹿にされる日々。見下される怒り。 家族のためとか言いながらも、本当は、見返したかったのだ。今まで、自分を馬鹿にしていた人達より『上』に行って・・・ 『上』に行って、なんだというのだ。 同じように、彼らを彼女らを見下そうと思っていたのか! 「自分が原因のくせに、こいつを助けるだと? ふざけんなよ、お前のそれは人助けなんかじゃない、ただの自己満足だ」 その場にその言葉が重く響いた。 ヒーローは、安達様は何も答えない。 「今までの奴らにどういう圧力をかけたのかは知らないが、俺が簡単に退くとは思うなよ? 校内での暴力行為についてお前を処分する」 芹沢様はゆっくりとヒーローに近づく。 帆阪様も警戒するように後ろに続く。 「ここで俺に暴力を振るって黙らせるか? お前がまさか柔道部の奴らを倒せるほど力に覚えがあるとは思っていなかったけどな」 そしてヒーローの腕を掴む、その瞬間 「どうして?」 今まで黙っていたヒーローが口を開いた。 「あ?」 「どうして、俺の正体が・・・」 その先は続かなかった。今までの無邪気な声ではなかった。 静かにそう問いかけた。 「お前にひっついている、あの狐顔だよ」 面倒くさそうに芹沢様が答える。 狐顔、櫻井多喜のことだろう。安達様がコンと愛称で呼ぶ、付き人まがいのことを行っている私と同じ『下』の人間。 「辰巳、」 「はい。私が彼と会話をした時、彼が教えてくれました。直接的ではありませんでしたが、」 先日の話だ。 芹沢帝がヒーローの正体は安達悠ではないかと疑った時、わざと彼らの前に姿を出した。 普段は顔を合わせないようにしていたため、安達は何かに感づいているようだったが櫻井多喜の表情は変わらず笑顔だった。 その時、櫻井と帆阪辰巳が二人きりになるように差し向けた。櫻井の本質を見極めるためだ。 そして、 「君はヒーローの正体を知っているのではないですか?」 「さぁ、どうでしょう」 「・・・・・・てっきり否定するのかと思っていました」 「僕は嘘って苦手なんです」 櫻井の本心は分からなかったが、どこかつかみ所のない性格だ。 だがこれで分かるのは、彼は決して安達の絶対的な味方ではないということだ。 「では、もう一度お聞きします」 「ヒーローの正体は、先ほどあの中にいましたか?」 「その後、《はい》と答えてくれましたよ」 帆阪様の言葉にヒーローは黙った。 ショックを受けているのかもしれない。あんなに側にいた櫻井に裏切り行為をされたのだ。 そう思うと櫻井のあの笑顔が、許せなくなってくる。 「残念だったな、お前が珍しく執着していたあの狐顔が懐いていなかったみたいで」 今度こそヒーローの腕を掴みながら、芹沢様は言った。 彼の後ろには、決して裏切らないであろう帆阪様が付いている。 「狐顔を側に置いていたのが悪かったな。あんな奴のどこが気に入ったんだよ。まったく、教えて欲しいぜ」 「全てだ」 「え、」 その声は、ヒーローが言ったのか? え、でも、聞こえてきたのは・・・ 「だが、コンを側に置いていたのではない。俺がコンの側にいただけだ。コンは別に俺じゃなくても良かった。違う、誰もいなくても良かったのを俺が無理を言って近くにいただけだ」 その声はいつもの冷たい、安達悠の声だ。 そして、それはヒーローから発せられるべきなのに。 目の前の芹沢様と帆阪様の表情が私を見て、いや正確には私の後ろを見て驚きで広まる。 ヒーローを掴んでいた手がするりと落ちた。 「な、っでお前が、」 うまく言葉にならない芹沢様の声に、私もゆっくりと振り向く。 大きな10個縦に並ぶ棚の一つの影から、こちらに向かって歩いてくる 「だから、お前が、何も知らないお前がコンを侮辱するな」 怒りを含む表情をした安達悠様の姿があった。 「じゃあ・・・」 喉がカラカラに渇く。舌がうまく回らない。 「あれほど、出てくるなって言ったのにぃ」 「コンが侮辱されて、黙っていられない。それに、何か勘違いしているようだったし」 「ああ、うん。そうだね。あれをそう思われていたのか。俺が悪いね、うん。」 安達様とヒーローが会話をしているのをどこか遠い場所で聞いているように思えてきた。 チッと芹沢様の舌打ちが聞こえた。苛立ったように髪をくしゃと掴んだ。 「・・・そういうことかよ」 苦々しく表情が歪む。 安達様が私達を通り越し、ヒーローの隣に止まった。 全員の視線がヒーローへと向かう。 「お前が、ヒーローだったのか」 ゆっくりとヒーローの手が自分の顔へと近づく。 仮面に手をかけるそれはスローモーションのように長く感じた。 そして、 そして、 「そうだよ。俺がヒーローだよ」 仮面を外した顔は、見慣れた表情。 いつも、いつも彼は同じ表情だった。そして、今この瞬間も。 櫻井多喜は、笑顔で、そう言った。 ――――――カランと仮面が下へと落ちた。 嘘って苦手なんです。 だから、嘘は言っていないよ。 だって、ヒーローの正体はあの中にいた。 【俺】がちゃんといたでしょ? →nextstory |
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