空の境界線 第1楽章 1小節 始まりのハジマリ | |
作者: 湊 2010年10月10日(日) 23時11分21秒公開 ID:uToZ4UI/wnQ | |
緩やかに揺れる木々の葉の音だけが、静かに揺れていた。 ここは3千万人もの人が住んでいる学園都市。 何処よりも、医療と科学、文化――そして超能力が発達している。 この学園都市に住む半分以上の人間が『超能力』と呼ばれる特殊能力を持っているのだ。それは人様々で能力を持っていないものから2個以上の多重能力者まで個性的なのだ。 「先輩。こっちの方には居ませんでした」 「こっちもだよ。まあ……僕達からは絶対に逃げられないけどね―――」 学園都市の中でも大部分が店で占めている2地区Bブロック。 その街中で学生服を着た二人が走りながら喋っていた。 一人は身長が低く、身体もかなり細い。茶色の髪は襟足を腰近くまで伸ばしてある。双眸は血のような紅だった。 服装は白のワイシャツに赤いリボン。茶色のカーディガンを羽織っており、胸元には白い桜の形をしたバッチの校章がつけられている。 腰には太いベルトが巻かれていた。そこには、数個のポーチもついていた。 それと、鞘に入った日本刀を身に着けていた。 もう一人の先輩と呼ばれた少年はそこそこ身長は高いが、恐らく平均より少し低いだろう。こちらも細い。 亜麻色の髪を綺麗に揃えている。双眸は普段は眼鏡で隠れて見えないが、黒だ。 服装はワイシャツに黒のタイに黒のブレザー。校章は丸く、中には王冠が描かれてある。 灰色のズボンにこちらも太く白いベルトで締めていた。 太腿には、一丁の拳銃のホルスターがあって、中身も入っている。 「それにしても……よりによって、何でB地区に逃げ込むのかな」 「よく言うじゃないですか。木を隠すなら森のなかって言うからじゃないですか。人ごみに紛れちゃえばバレないとでも思っているのでしょう」 「葵先輩、伊織先輩聞こえますか」 耳元から声が聞こえた。 まだ、中学生ぐらいの声の高さを持つ少年の声だった。 二人の名前を呼んだことから、仲間ということが分かった。 「大丈夫。由紀、情報を頂戴」 「わかりました。名前は南條碧24歳。動機は彼女と別れたことによる腹いせらしいです」 「めんどくさい。由紀くん犯人の特徴を教えてくれるかい」 「はい。髪型は染めた白髪で鎖骨あたりまで伸びています。瞳はカラコンで緑です。特徴は口許のホクロが一番分かりやすいです。それと能力は 「 「ありがとう。引き続き犯人の居場所探しよろしくね」 そう二人の少年が走っていた理由がこれだった。 つい15分前にあった誘拐犯を探していた為にいろんなところを見渡しながら走っていた。 情報を渡すことから由紀も仲間なのだろう。 ――――これが、日向葵、月下伊織、香宮由紀の 仕事と言っても簡単で済むボランティアタイプと今回みたいな犯罪が絡むタイプがある。 今回の犯人探しはほぼ日常茶飯事なので慣れてしまった。慣れていいことではないのだが。 「えっと居ましたよ!場所はC地区の野咲公園の「ここまででいいぞ由紀。久しいな葵と伊織よ。今日も元気に走り回っているみたいだな」 由紀から女性の声に変わった。 「げっ雫先輩が戻ってきたんだ」 「チッ」 葵は少し表情が歪んだ。 伊織に至っては舌打ちをし、少しだけだが、不機嫌になった。 しかし、彼女はそんな事は気にしない。逆に裏手にとった。 「伊織舌打ちしたな。そうだ、これから野咲公園捜索はお前たちで探せ。たまには由紀に休みをあげようと思ってな」 「なっ……。あの公園を二人だけで探すんですか」 「すまんな遥。恨むんだったらそこの馬鹿を恨んでくれ。じゃあ」 連絡が一方的に途切れた。何回か連絡を入れたが、完全拒否。 すると葵が伊織を見て呆れ顔をした。 「先輩って馬鹿ですか?実は雫先輩からのお仕置きを望んでいてワザとしたんですか。毎回毎回こっちの身にもなってください」 「たぶん無理だよ」 何故か自信を持って答えた。葵はため息をついた。 伊織が舌打ちするのは、まだ良い方だ。前なんて睨み付けて本人の目の前で文句を言っていた。 「あの先輩はドSだから仕方ないか。……そろそろ真面目に犯人探し始めましょうか」 「…分かったよ。まずは野咲公園へ行こうか」 伊織の持つ瞬間移動の能力で一瞬で野咲公園へと向かった。 しかし、ついたのは1時間ごとに噴水が湧き出る仕掛けとなっている噴水の中だった。 周りには、水着を着た子供たちが楽しそうに遊んでいる所に着地してしまった。 「お兄さんたちも噴水に遊びに来たの?急いでもまた一時間後に噴水は出るから、瞬間移動で来なくても良かったのにね」 ニコっと無邪気な笑顔をこちらに向ける女の子がいた。 それからも続々と子供たちが集まってきた。 「違うよ。たぶん瞬間移動の着地場所を間違えたんだよ」 「そうなのかな?」 「違うよ、絶対に水浴びをしたくて来たんだよ!」 「ねぇ。尻尾のお兄さんどうなの?」 「尻尾?」 葵ははてなマークを浮かべた。 伊織は子供が純粋すぎるが故にとても嫌いなのだ。 だが尻尾の意味は何となく理解をしているらしく尻尾とを呼ばれた所を引っ張った。 「いたっ!」 「ねえ僕。尻尾ってこれの事だよね?」 「うん!!」 完全に怒った葵だったが、子供に罪がある訳ではない。 (ここには犯人らしき人はいないから次行くよ) 「次の噴水は一時間後なんだよね?それまで僕たちお散歩でも行って来ようか」 「ちょ……」 小声でそう伝えて拒否権なしに次に行くことになった。 そして、また消えた。 瞬間移動で次に向かった先はスポーツ広場だった。 人工で作られた芝生はバドミントンや子供とのボール遊びや鬼ごっこが出来るくらい広い広場だった。 見渡す限りの芝生だった。 「此処にもいないみたい」 「そうですね」 この場所は直ぐに立ち去った。 犯人がこの間にでも逃げる可能性がある。たぶん無理だろうが。 次に向かったのは森林に囲まれている所だった。 静かに揺れる木々の音が聞こえて居心地がとてもいい。ずっとここに居たいと思うぐらいだ。 ある程度見渡すと由紀から教えてもらった通りの特徴の男がベンチに座っていた。 「たぶん、あれですよね」 「うん。行ってみようか」 「了解です」 気配をゆっくりと消す。逃げられたら面倒だからだ。 ゆっくりと、ゆっくりと。 ベンチの前にたどり着き、犯人だと思われる人物に話しかけてみた。 「初めまして。南條碧さんですよね?」 「なっ……そうですけど」 「僕たちはこういう者です」 葵と伊織はポケットからカードを取り出した。 そこには ……――― それは、学園都市の平和を守るために存在する組織である。 ボランティアから重い事件を取り扱うことができるのである。 いままでの事件の中で犯人を逃がしたことはない。必ず捕まえてくるのだ。 「…… 「知らん振りをしても無駄ですよ。犯人さん」 肩が少しだけ上に上がった事を伊織は見ていた。ほぼ犯人で間違えないだろう。 後は犯人が白状するまで、待つしかない。 「何を言っているんだ!出任せを言うな!俺は 「ねえ葵。キミは誘拐犯なんて言ってないよね?」 「はい」 すると犯人は逃げようとして、能力を使おうとしたら、使えなかった。 何故かと思考回路を働かせたが、そんな暇がなかった。 仕方がないので、走って逃げようとしたら、今度は体が動かせなかった。 「無駄だよ。今は葵くんの能力で|操り人形《マリオネット》と由紀くんのコピーした無効化が使われているからね」 「そんな……」 それを聞いた途端に一切の抵抗をやめた犯人。 そして、葵は携帯を開いて時間を確認した。 「16時34分。野咲公園にて誘拐犯南條碧を逮捕しました」 すると何処かから黒い服で狐面をしている者たちが現れて、犯人を連れて行った。 ちなみに 闇月と呼ばれる唯一 「帰ろうか葵くん」 「そうですね……」 公園から出た。 向かった先は葵と伊織と由紀が通っているカフェテリア『狂桜』だ。 恐らく由紀もいるだろう。 予想通り由紀が狂桜で1人でコーラを飲みながら待っていた。 「先輩たちお疲れ様でした。何か頼みますか?僕は今日のデザートを追加でお願いします」 「そうさせてもらうよ。ぼくはアッサムとモンブランを」 「俺は何時ものアップルティーとチーズケーキを井上さんお願いします」 いつの間にかウェイトレスさんが来ていた。 馴染みの深い店なので向こうもこちらも名前や顔をすっかり覚えていた。 「そう言えば明日から新学期だよ」 「面倒ですよね。僕も生徒会の仕事が一段と忙しくなるので嫌です。それに、5日後は能力調査の日じゃないですか」 「あれは面倒だ。けど二人はいいじゃない。こっちは中学から高校へ移動だから一段と面倒だよ」 三人してため息を吐いた。 「まあまあ元気を出してください。これは西山さんからの差し入れですよ」 頼んだメニューと1つだけおまけがついていた。 チョコクッキーだ。だから、この店に仕事帰りに寄ってしまうのかもしれない。 「にっしーさんに有り難うと伝えてください」 礼儀正しく由紀が御礼をした。 「このまま平和に時が過ぎればいいですけどね―――」 そうぼやいた。 しかし、世の中は簡単ではない。 その願いは誰にも叶えることが出来ず、無様に無に帰っていた。 いま思うと全てはここから始まった。 空の境界線 第1楽章 1小節 始まりのハジマリ (いよいよこの時がやってきた)(そして、ゆっくりと時計の針が動き出す) |
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