#学園HERO# 9話 | |
作者: 神田 凪 2010年06月18日(金) 19時22分41秒公開 ID:Fpk3UqE6X6I | |
「いつから、」 「最初からだよ。君がここに来る前から」 目の前の存在と、芹沢様から聞いた情報は一致している。 距離は近い。こんな近くにあのヒーローがいる。 「あなたが・・・ヒーロー?」 「ん? そうだよ。俺がヒーローだよ」 仮面越しの声は愉快そうだった。 思い描いていたヒーローとはどこか違う。 明るい声。楽しそうな雰囲気。 まるで、子供のようだ。 そう感じていると、ん?とヒーローは首を傾げこちらに近寄ってきた。 「あ、なに!?」 「あれ? その本、ここにあったんだ」 急に近づいて来たので驚いた。 だけど、ヒーローは私には目も向けず先ほどまで読んでいた絵本を手に取った。 パラパラと確認するようにページをめくる。 「それ、あなたの?」 「いいや、違うよ。これを探している人がいるから」 さて、とヒーロは呟いて私の方を向いた。 表情が分からないせいか、怖く感じてしまう。ぐっと拳を握って、顔をそらさないようにする。 だが、ヒーローは何も言わない。 「・・・」 「わ、私を助けてくれるって、本当に・・・!?」 沈黙に耐えられなくなって、私の方から口を開いた。 今、この状況で助けてもらうことが出来るのか、本当に、私のことを・・・。 「うん。それだけどね、君はどう助けてほしいの?」 「え?」 「この学園にいられればいいの? いじめがなくなればいいの? 学園の生徒からの嫉妬や憎悪を消し去ればいいの?」 「−−っ」 そんなの、考えたこともない。 この学園にはいたい。でも、居続けてもいじめは続くのか、学園のみんなから敵視されていくのか。 それは怖い。嫌だ。 だけど、 「そんなの無理でしょ? みんなから敵視が消えるなんて」 「うん。無理だよ」 「だったら!! そんな期待させるようなこと言わないで!」 「期待・・・? おかしな事を言うね。俺に助けを求めた時点で君は期待しているだろう? 何を今更」 「そ、れは・・・」 「君が助けてほしいと言ったから俺はここにいる。ま、きっかけは怜司先生もあったけどね」 「え」 「最上怜司先生だよ、第3保健室担当の保険医。先生から連絡があったんだ、君を助けてほしいって」 最上怜司先生。 優しかった、何も出来ない自分をすごく責めていて、それがとても嬉しかった。なによりも、嬉しかった。 それだけでも良かったのに!! 「も、がみ先生が?」 「うん。君は助けて欲しいと思ってはいないかもしれないけどって」 《 自分勝手かもしれない。それでも、僕は彼女がまだこの学園にいて欲しいと思った。だから助けたい 》 《 でもこの学園では僕は無力だ。だから君に頼ることにする。 君は彼女を助けることができるだろう? 》 「出来るよ、って答えたらすっごくお願いって言われたのさ。・・・ったく使えるものは使えばいいって言ったのにね」 「どうして、先生はそこまで」 「さぁ、そんなの本人に聞けばいいよ。ま、どちらにせよそれは君には関係ないだろう? 先生が勝手に君を助けて欲しいと俺に言ったんだ。そして、君は俺に助けてと言った」 それで充分だろう?とヒーローは言った。 今更ながら、どうしてこんなにもヒーローは私を助けられる自信があるのだろう。 今の私の状況はとても脆い。 今にも崩れそうなところを踏ん張っているに過ぎない。 「わた、しは、」 「うん」 「私は、この学園にいたい」 「うん」 「でも、それは、我が儘で・・・」 「どうして?」 「家のことを考えると・・・それはとても難しいの。だから、」 「だから?」 だから、無理だ。 諦める諦めないの問題ではないのだ。無理なのだ。 「うーん、じゃあ聞くけどさ」 机に体重をかけながら、ヒーローは面倒くさそうに口を開いた。 「その無理がなくなれば、いいの?」 「え」 「だーかーら、家が大丈夫になればいいってこと?」 何を言われたのか一瞬分からなかった。 「そ、それは、」 「この学園にいることはとても辛いと思うよ?」 「・・・」 「この学園では“上”と“下”がはっきりしている。誰もが“上”を目指している。つまり周りのみんなが敵同士ってわけさ」 指を上と下にジェスチャーをしながら説明口調にヒーローは語る。 そんなこと知っている。なのに、どうして今更。 「この学園にいるってことは、自分以外はみんな信じることが出来ない」 「信じる・・・」 「この学園にいるには君は優しすぎる」 急にヒーローの声色が変わった気がした。今までの無邪気な声から何だか穏やかな雰囲気に・・・。 「傷つくだけだよ。ここから去って、一般の学校に通った方が俺は良いと思う」 「それでも、君は、この学園にいたいのかい?」 「わ、たし、は・・・」 「そこまでだ」 第3者の声が私の思考を止めた。 入り口の扉が開いていて、二人の存在がこちらを見ている。 「よぉ・・・やっと会えたな“ヒーロー”」 ニヤリと笑い、目は嬉しそうにギラギラしている。まるで、獲物を見つけた狼のようだ。 もう一人も、真っ直ぐに瞬きを忘れたかのようにじっと見ている。 二人の存在に、ヒーローは驚いた様子も見せず顔をそちらに向けた。 そして、 「やぁ、ようこそ。副会長に、会長さん」 |
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