金の太陽 銀の月 学園篇―1
作者: めるる   2009年11月02日(月) 22時41分06秒公開   ID:s2/IWHRoys.
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一時限目から四時限目があっという間に終わり、陽咲は月子と綾乃の三人で食堂で昼食を取っていた。
食堂では野犬の話題で持ちきりのようだった。

「野犬で死人が出たらしいよ」

「喉に噛み付かれて即死だったらしい」

「内臓を食い荒らされた状態で寮の外に死体が転がってた」

「野犬は一匹じゃなくて数匹。しかも人間の味を覚えてる」

昼食の時間だというのにグロテスクな会話が聞こえ、陽咲は顔を青くする。
その様子を見て、月子が思い出したように言った。

「ああ、陽咲ちゃんって犬が苦手だったよね」
「え、そうなの?」

意外だと言わんばかりに綾乃は目を丸くして、陽咲を見つめる。
陽咲は青い顔をしたまま、ゆっくりと頷いた。

「ふぅん……何か意外」
「い、いいじゃない別に……それより今朝のことなんだけど」
「ん、何?」
「あの眼鏡男子の名前って何?」

明らかに無理矢理話題を変える為に言ったことだが、陽咲は眼鏡の少年の名前を本当に知らなかった。
小説本を拾ってくれた彼に見惚れた陽咲だが、彼は見覚えのない男子生徒だった。
分かっているのは隣のクラスということだけだ。

「あたしも詳しくは知らないんだけど、一週間前に来た転校生らしいよ」
「あ、転校生なんだ」

一週間前に来た隣のクラスの転校生なら、知らないのも当然だ。
陽咲は少し安堵する。

「名前は確か……てんし君だったっけ?」
「てんし?」
「あーそうそう、多分そんな感じ」
「てんし君かぁ」

てんし……てんし……と陽咲は心の中で復唱する。
自分もそうだが、変わった名前だと思った。

「クールでカッコイーって一部の女子に大評判で、何考えてるか分からない無愛想な眼鏡野郎って一部の女子に大不評なんだって」
「ふ、ふぅん」
「……それにしても、陽咲がそんなこと聞いてくるなんて、もしかして惚れたわけ?」
「はっ?べ、別にちがっ!」

陽咲は顔を真っ赤にしながら首を左右に振る。
それを見て、綾乃は「うん、うん」と何度か頷いた。

「陽咲にも春が来たのかぁ」
「おめでとう陽咲ちゃん」

ニヤニヤする綾乃とニコニコする月子を見て、陽咲は耳まで赤くし、両手を顔の前で何度も振る。

「つ、月子までっ……ちょっと気になっただけで、別に惚れたとか好きだとかそんなんじゃなくて」
「うんうん、分かってるから」
「だからぁ……はぁ」

今は何を言っても無駄か、とジトリと綾乃を睨み付けて、陽咲は溜め息を吐いた。



***



今は使われていない倉庫扱いの教室に、誰かがいる。

「……はい、見つけました」

群青色の髪に、眼鏡の奥の灰藍色の瞳。
今朝、陽咲たちが出会った眼鏡の少年だった。

眼鏡の少年は灰色の携帯を右手に持ち、通話をしている。

「恐らく、彼女が“陽咲”です。“ユエ”はまだ分かりませんが……」

眼鏡の少年は左手には古い新聞記事を持っていた。
その新聞記事には大きく“母子で心中か!?立ち入り禁止の山奥で”と書かれている。

「今日中にもう一度接触を図ります。既に被害が出ていますから……」

何分間か話したあと、「それでは」と、携帯の通話を切った。
力を抜くように溜め息を吐いたあと、眉を顰めて、左手に力を込める。

(……神織め)

新聞記事のぐしゃりと潰れる音が倉庫の教室に響いた。


⇒To Be Continued...

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