これCry Lovers 第17楽章 I answered... | |
作者: なぁび [Home] 2009年10月04日(日) 23時30分11秒公開 ID:te6yfYFg2XA | |
ご飯も食べ終え、瑠姫は洗濯物が入ったかごを抱えて脱衣所に入る。 それを床に置いて長いため息をついた。 「…疲れた」 でも、仕事をしているより何倍も楽だ。 ――何も、気にしなくていいから。 また、上腕を無意識に触る。 「お風呂入ってリラックスしよ…」 周りに誰もいないことを確かめ、瑠姫はいちばん上に着ているパーカーを脱ぎ始める。 と、ちょうどその時だった。 「…瑠姫、風呂?」 後ろから声がして瑠姫はトレーナーにかけた手を止めた。 「あれ、修ちゃん入るの?」 「いや。洗濯物、置きに来ただけ」 「先、入ってもいいけど」 修だった。瑠姫が、いちばん会いたくて、会いたくない人。 「別にいいよ。もともと入るつもりなかったし。――ところで」 なぜかそこで修は改まった。 「ドラマの主役おめでとう。すごいんじゃない、新人なのに」 「あ…ありが、とう…」 そこでしばしの沈黙。 普通なら、用がすんだらさっさといなくなるのが修。なぜか今日は去ろうとしない。 「――…、で!」 「で? まだ何か用なの?」 「この際だから言っておく、けど 俺、瑠姫のこと、好き」 「…はひ?」 好き。今、修はたしかにそう言った。 「や、やだな、修ちゃん、エイプリルフールは4月だよ?」 「俺本気だから。恋愛ドラマの主役で、そういうシーンがあるって聞いて…堪えられなかったから」 瑠姫は視線の行き場に困って床を見つめる。 「瑠姫は、俺の告白を冗談にするの? 本気の告白なのに」 それは分かる。顔を見れば分かる。でも。 「そうじゃ、なくて…」 「じゃあ何?」 「その…」 瑠姫だって本心では大好きだ。何年前から思ってきただろう。 すぐにでも「うん」と言いたい。 「私、も好き…恋愛としての好き。恋人になりたいって、何度も思った。けどね…」 今じゃ、立場が違うから。 その言葉はぐっと飲み込んだ。 「じゃあそれでいいじゃん。俺は瑠姫が好きで、瑠姫も俺を好き。それは一緒の感情。それ以上何が必要なの?」 修の言う通りだ。瑠姫の答えは。 「好きだけど、付き合えないの」 「…そ、っか…」 あえて だって、それが瑠姫の出した答えだから。 「分かった」 好きな人。信じてやらなくてどうする。 「引き止めて、悪かったな」 目尻にたまった涙を見ていないのか、はたまたそういうふりをしているのか。 瑠姫の頭をポンと軽く叩いて修は出て行った。 ――もしも。もしもの話だけど。 「自分が、普通の女の子だったらはい、って答えてもよかったのかな…?」 冷え切った心を温めてくれるような温かいお湯につかりながら彼女は呟いた。 「本当は――…」 彼女の目から溢れた雫が、音も立てずに吸い込まれていった。 |
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