宇宙の涙心の流れ星 ソラノナミダココロノナガレボシ
作者: なぁび  [Home]   2009年09月29日(火) 21時42分03秒公開   ID:sw0xlSukK4E
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         memory1 いつかの旋律




 進路選択。



俺らの高校では、2年になると進学組と就職(専門学校)組に別れることになっている。

それを、月曜日までに提出しなければならない。


今は金曜日、だから考える時間はある。けれども、正直今の俺は考える気もなければ、将来の夢もこれといってなかった。


そんな俺が向かうのは、いつもの川原。


小さい頃よく母親に連れてこられた、思い出の場所。


今は両親は家にいない。

いや、父親はいるけど、仕事だか何だかで帰って来るのは2週間に1回くらい。

それに、母親は――俺が小さい頃、病気で死んだ。




俺の父親は、父さんは医者だった。母親は、母さんは昔から病弱で何度も入退院を繰り返したのをうっすらと覚えている。


もしかしたらあの時、母さんは死期を悟っていたのかもしれない。

だから自分が倒れるぎりぎりまで家に残ったんだ。






「お母さん……? お母さんは?」





「ごめん、純――……お母さんは、空のお星様になったんだ」











嘘だと信じたかった。というか、嘘だよね? これって嘘以外の何でもないでしょ?



病院の、薄暗い早朝に廊下で父さんの口から発せられた一言。


幼いながら意味を知っていた。けれどもショックが大きすぎて、真実を確かめようなんて出来なかったけど。





父さんは、それからしばらく部屋にこもっていた。もちろん働くことなんてしなかったから借金をするようになった。


俺まで借金取りに追われる日々。父さんに手を引かれ、いろんな町を転々とした。




あぁ、やっぱり母さんは死んだんだな。


手を引いているのは、父親であって母親ではない。








でも俺は父さんを咎めなかった。


だって父さんだってショックだったんだろ? 働けなくなるくらい。


それに、俺の父さん、なんだから。


今の状況がいいとは言えなくても、ちゃんと俺のことは考えてくれてるんでしょ?


考えてなかったら、俺のことなんて捨てて、自分だけ出て行ったと思うから。







まぁ、咎めたところでどうにかなるってわけでもなかったし。

で、その後俺は親戚とかいう見たこともないおばさんに引き取られることになった。


その家がでかいのなんの。親戚にこんな金持ちなんていたか? まだ小さかったこともあってかその大きさに圧倒された。

















――で。話がそれたけど俺、夢なんてない。


小さい頃は「お父さんみたいなお医者さんになる!」とか言ってたけど、母さんを救えなかった時のあの父さんの顔がなんだか脳裏に焼き付いて。


もしも誰かの大切な人を救えなかったら、あんな風な顔されるのかな、とか俺は咎めたりしなかったけど咎められるのかな、とか。

俺にとっては赤の他人でも、他の人から見れば命の恩人だったりかけがえのない大切な人だったりする。

医者って、人の命を救う仕事だからやりがいがあるっていうか、人のために役に立てる仕事だろ?

でもその分責任が重いっていうか。




……俺、なんつーか……責任逃れしてるんだよな。そこが自分の短所。
変なことに自分が巻き込まれないように努力してます、っていえば長所に――なら、ないよな。






こんな呑気な俺をきっと月曜日の朝の俺は恨むことになるだろう。



分かりきってることだが、でもまだ時間はたっぷりあるしー、と呑気な俺が頭の中では圧倒的に勝っている。


恨んだって何したって結局は俺の問題なんだけどな……。


でも、この気持ちいい空気のなかそんなこと考えたくなんてない。


寝転がって空を仰ぐと呑気に流れゆく雲。


雲はいつだって自然の成り行き任せで、人間もそうだったらなあと何度思ったことだろう。


人間といえばせかせか、せかせか。ああ時間がない、あれもしなきゃこれもしなきゃ。


少しくらい休んだっていいと、俺は思うんだけどな。

働き過ぎは疲れる。疲れたら、物事をちゃんと判断できなくなる。

だからああでもないこうでもないと延々とループしてる気がして。




って一人の男子高校生がこんな川原で頭の中で思ってるだけのことだけど。ただの思考以外の何でもないが。


とにかく、まあ俺ら学生にとっては土日はしっかり休むべき日。金曜日の授業は休みのこと考えてるだけですぐに終わる――気がする。


今くらいは何も考えず、ただ空を流れる雲のようにのーんびり過ごしましょう。


呑気スイッチが完全に入ってしまった俺はおもむろに眼を閉じた。




こんな場所で寝てても誰も文句は言うまい……。




眼を閉じたら一週間の疲れが一気に襲ってきて、俺の意識は夢の世界へと旅立っていったのだった。








そんな気持ちよく訪れた眠りの中で、聴き慣れたクラシックの旋律が聴こえたような気がした……。












■作者からのメッセージ
やたら長いタイトルです。ブログの小ネタ集のタイトルにもなりました。
由来となった話だから載せた方いいのか。多分初めてのほのぼの。

略してそらなみ。よければこれから更新予定ですが、ブログのそらなみも見てやって下さい(

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