時の都と時の守護者 〜タイムズガーディアン〜 序章〜Chapter1‐1 | |
作者: 羽丘 天空 2009年08月22日(土) 17時36分47秒公開 ID:sw0xlSukK4E | |
Chapter1‐1 取り柄のない少年と声の出ない少女 昼休み。 先程購買で買ってきたオムそばパンを片手に、読書中の少年が一人。 「おいおい、ヒコさぁ飯食ってる間に本読むのやめようぜ?」 少年の名は、 「おーい、有坂くーん? ……あ・り・さ・か・ヒ・コ・くぅん?」 「……だーもう! うっさいな! 飯くらい普通に食わせろよ!」 「飯くらい普通に食わせろ? だったら読書しながら読むのはお行儀が悪いですよ?」 「……だって、今ちょうど事件があったんだもん」 ぶつくさ言いながら、ヒコは食べかけのオムそばパンをほお張った。海来はもうすでに食べ終えたようで、その様子をじーっと見ている。 「ふぁに?」 口いっぱいにパンをほお張りながらヒコは海来をじーっとにらむ。 「や、次体育なんで、さっさと食べてくれませんか?」 海来に言われて時計を見ると、時刻は午後1時になるところ。たしか5時間目は――――1時10分からだ。 「やべっ! ていうかなんで早く言わねーんだよ!」 「気付かないヒコがバカなだけだろ」 せっかくのオムそばパンを味わう暇もなく喉の奥に押し込むと、ヒコは海来の後ろを追った。 「こらぁ、お前ら遅いぞ! 時間は厳守!」 体育館に行くと、案の定先生のお目玉を食らうことになった。 「す、すみませ……」 「てか2分しか遅れてないじゃん」 息も絶え絶えなヒコの隣で、海来は先生にも聞こえるような声で言った。ヒコは止めようとしたが、時すでに遅し。 「遅刻は遅刻だ! お前ら罰として体操が終わったら倉庫に行って先生が言うものを全てとって来い!」 「……たく、海来はなんてこと言うんだよ。そもそもお前の着替えが遅かっただけじゃん」 「ヒコって着替えるのだけは早いよな。唯一の取り柄っていうかさ」 ヒコの説教もお構いなしに海来は呑気に言った。 「唯一って……俺って確かに取り得ないけどさ」 海来が鉄製の倉庫の扉を開ける。外にあるため扉は熱を帯びており、火傷しそうなくらい熱い。 中もまるでサウナのように暑さが立ち込めていた。 「この中にいたら熱中症になるよ。先生だって来たくないよな、こんな場所……」 ほとばしる汗を拭きながら二人は言われたものを集めにかかる。 「えっと、カラーコーンとラダーとなんだっけ?」 「あとは……あ、そうそう野球部が使うからライン引きもついでに部室のところに置いとけって言ってなかったっけ」 ヒコは近くにあったライン引きに手を伸ばす。と、そこへもう一本手が伸びて来た。 「?!」 「てか部活のまでなんで俺らがやらなきゃ――――…て、ヒコ? どうした?」 海来が振り返ると、そこにはフリーズしているヒコの姿があった。 「? どうした?」 「あ、の……さ、君、誰?」 入ってから今の今まで気づかなかったが、この倉庫にはもう一人人がいたらしい。ヒコの視線の先には、少女が立っていた。 その少女の白い肌にはこれでもかというくらいに汗が噴き出していた。顔も真っ赤で、今にも倒れそうだ。 「……」 その少女はしゃべらない。二人を見据えて黙ったままだ。 「君も、ライン引き使うの?」 ヒコが尋ねると、少女は黙って頷いた。 ふとジャージに目を下ろしてみると「椿原」と書いてあった。 「あぁ、椿原 響だよ、こいつ! クラスメイト!」 「おいおい海来、こいつ呼ばわりはないだろ」 その少女――――響はたいして気にする風もなく、ライン引きを持ってさっさとこの場を立ち去ろうとする。 「たしか今日女子って外で短距離だっけ。じゃあ仕方ないな、女子に譲ろうか」 「譲るって……」 三人は一緒に倉庫を出た。やっと中の暑苦しい空気から解放される。 「えーと、じゃあ女子も外熱いから熱中症とかに気をつけて頑張ってね?」 別れ際、なんて声をかけていいのか分からず、ヒコはそんなことを響に対して言った。響は頷く。 「そういえば椿原ってしゃべれないんだっけ?」 体育館への道を帰りながら、海来が言う。 「あーそういえば。それよりなんで椿原は倉庫の中でつっ立てたんだろ?」 「ライン引きの場所でも分かんなかったんじゃないの?」 「でもライン引きってすんげー分かりやすい場所にあるぜ?」 ヒコの答えに、海来もそうだなぁ、と考え込む。 「で、多分俺らが入って行って気付かなかったってことは入口の近くにいたからだと思うし……」 そこでヒコはハッとする。 「きっと、出られなかったんだ、椿原は!」 「っわ、何急に言い出すと思えば」 「だってあの倉庫って外からしか開けられないだろ? 多分、椿原は中から閉めて出られなかったんだと思う。て、ことは……」 唐突にカラーコーンが地面に落ちて音を立てた。何事かと海来が隣を見ると隣にヒコではなく代わりにあったのは無数のカラーコーンで。 「あっ、ちょ、ヒコ?! これどうすん……?!」 「悪ィ、海来、持ってって!」 急に駆けだしたヒコの背中をただ呆然と、海来は見つめていた。 一方、ヒコはある場所へと向かっていた。それは先程まで海来といた、あの場所だった。 (椿原……!) ヒコ自身も、なぜこんなにも必死に走っているのか分からないまま。 |
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