これCry Lovers 第14楽章 初デートに初キッスに初ヒロイン | |
作者: なぁび 2009年09月06日(日) 18時03分35秒公開 ID:sw0xlSukK4E | |
『今日、仕事が終わったら会えないかな。噴水の前で待ってる』 提案したのは、京介だった。 噴水の前。 よく待ち合わせ場所に使われるところだ。気のせいか今日はカップルがやたら目につく。 「そういえば今日、世間では土曜日なんだもんなぁ」 どんよりした空に京介はポツリつぶやく。 バタフライも3位とはいえ入賞したのだから、Mid☆Skyと同じく仕事で忙しい毎日を送っていた。仕事に休日も平日も関係ない。 電話にメールに。話し合いを重ね、やっと二人の都合のいい日が今日だった。 「…あ、瑠姫さん」 「ごめん…っ! ちょっと長引いちゃって…!」 仕事が終わってそのままの格好で来たのだろうか。いつも二つ結いにしている髪は無防備に垂らしてあり、パーカーのチャックもちゃんと閉まっていない。 「大丈夫? そんなに急いで来なくてもよかったのに…」 早く会いたかったのは山々。けれども彼女に苦しい思いはさせたくない。 「だって待ってるかな〜って思って。夏も終わっちゃったし、寒い中待たせるのは嫌だったから」 瑠姫はカバンからダテメガネを取り出す。素顔を隠すためだ。 「それに、楽しみだったから」 「…俺も楽しみだった。でも、行く前にちょっと休んで行こうか」 近くのベンチに腰掛け、二人で空を仰ぐ。 「どこ連れてってくれるの?」 足を子供のようにばたつかせながら瑠姫が聞いた。 「それはお楽しみ。…あ、そういえば。急に話題変えるけど、瑠姫さん、今度のドラマのヒロイン候補に挙がってたよ」 「…何の脈絡もなしに何を」 「いや、帰りにちらっと聞いたんだけど、役のイメージにぴったりなんだって」 新人の私が? 瑠姫はフリーズする。 「役やるのにキャリアとかその他もろもろ関係ないしね。相手役は俺だったらいいんだけど」 「えー京介くんが?」 「ちょ、何その不満そうなコメント!」 ――はたから見れば、ちゃんとした恋人だよね…? 笑いながら京介はそう思っていた。なぜこんなことを思うのか。それは。 (瑠姫さん、本当は好きな人、いるんでしょ?) 本当は、知っていた。あの時、瑠姫は好きな人いないから、とは言ったものの、本当は好きな人がいるってことを。 にもかかわらず、どうして付き合うと決めてくれたのか。 気になるけど、この関係を壊したくなくて結局は切り出せずにいた。 「さ、そろそろ行く?」 「うん、そうだ――…」 二人が立ち上がった時だった。その瞬間を見計らっていたように瑠姫のケータイが鳴った。 「ごめんね!」 サブディスプレイを確認すると、そこに映し出されていた名前は『お母さん』。 一体こんな時に何の用だろうか? 「…もしもし…?」 「あ、瑠姫仕事終わってたのね? よかった、ちょっといいお知らせがあって」 「いいお知らせ?」 その言葉に、京介も耳を傾ける。 「そう。実はね、今度やることになった恋愛ドラマなんだけど…主役があんた、瑠姫に決まったの! 新人なのにすごいことよ?!」 「…あーさっき候補に入ってたってことは聞いたけど」 「あら、嬉しくないの?」 「どこまでの進展か、による」 進展。それは恋人同士ですることの度合いの意味で。 「さぁ? まだ1回目の台本しか届いてないから分からないけど」 「あーうん。ていうか今日遅くなるから。それだけ」 手短に瑠姫は電話を切ると、京介の方に向き直った。 「じゃあ改めて行こう? どこ連れてってくれるの?」 無邪気な笑顔を、顔いっぱいに浮かべて。 「――…ん、ついてくれば分かるよ。でもね、その前に目、つぶって?」 ――俺だって健全な男子だ。 そっと、目を閉じた瑠姫の頬に手をあてがう。 「…っ!」 ここに来て何をためらうのだ。 ただあてがうだけでいい。彼女の唇に、自らの唇を――…。 「…? 京介くん、今、ほっぺに…?」 「ん、キスしたよ。俺からの、祝ヒロイン決定、てことで。返品不可」 ――ここに来て、善人ぶる気はないけど、やっぱり…。 「じゃあ行くか。絶対に喜ぶと思うよ」 「楽しみ」 お願いだから、その目に俺だけを映して。 ⇒To Be Continued... |
|
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |