これCry Lovers 第13楽章 想うのと想われるのと
作者: なぁび   2009年09月06日(日) 01時00分29秒公開   ID:sw0xlSukK4E
【PAGE 1/2】 [1] [2]








 


 「しっかしさ、瑠姫も一気に有名になったね」


 新人とはいえ仕事量は半端なかった。新人だから、かもしれないが。
 たった今音楽番組の収録を終え、へろへろで帰って来た瑠姫に珍しく帰宅していた美津子が言った。

 「ん、結局話題性だけどね。あの深海フカウミを抜いて1位になった、ってだけで今は有名なだけ。実力じゃない」
 「そう言ってられるうちが幸せなのよ」

 それに――…。今の瑠姫には恋の悩み、それにリーダーとしてのプレッシャーもあいまって余計に疲れる気がする。

 「それに、仕事とプライベートはきっちり分けなさいよ。オフの日まで仕事考えてたり、仕事中にどうでもいいこと考えてたりするんじゃないわよ」

 瑠姫の心を読んだのか、美津子が平然と言う。

 「考えてないよ…! でも、恋愛ってさ…」
 「へぇ、瑠姫にも好きな人いるのね。相手は知ってるけど」

 思わず口を滑らせてしまった瑠姫。しまった! と口をふさぐが、もう遅かった。

 「そういうのでごっちゃにしちゃいけないのよ。恋に悩むのもそりゃあ瑠姫だって女の子なんだし、仕方ないけど」
 「私って女の子? だよね」
 「まぁそうでしょ。生物学的に見ても、そうじゃなくても」

 でも。瑠姫は目を伏せる。

 (性別と女の子らしさって、関係ないし…)

 そんな瑠姫に美津子が詰め寄った。

 「あんた、可愛くなりたいんでしょ?」
 「…ぅ!」

 図星を刺されて、瑠姫は真っ赤になる。

 「外見的には可愛いんだけどねぇ…」

 しげしげと台所で品定めされても。
 そこへタイミング悪く修が入って来た。

 「…何やってるの」
 「そこ、突っ込まなくていいよ」

 今に脱がせようとする美津子を止めながら瑠姫が呆れ顔で言った。

 「うん、体型もナイスなんだけど…やーっぱり何か足りないのよねぇ」
 「いいよもう! 自分で何とかするから!」
 「なんなんでしょ? ねぇ、修ちゃん的には何が足りないと思う?」

 瑠姫を無視して美津子は修に問いかける。
 
 「しゅ、修ちゃん! 真面目にとらえないでよね!」

 しかし修はじっと瑠姫を眺め

 「…色気」

 と率直に答えてくれた。

 「あぁ! 修ちゃんナイスだわーたしかに色気が足りないわね! いっそのこと新しいファッションとかに挑戦してみる?」
 「いつもそんな格好じゃあな」

 瑠姫は本気になって、泣き目になってなぜか修に詰め寄る。

 「どうせ私は色気ないですよ! 幼児体型ですよ! どうせまだぎりぎり150センチいってないですよ! 女装したハルとか李玖より可愛くないですよ!」
 「はいはいはいはい」
 「どうせ平原ですよ! スクール水着しか似合いませんよ!」
 「別にそこまで言ってないだろ」
 「ランドセル背負って立ってたら小学生にしか見えませんよ!」
 「ていうかなんで部屋まで着いて来るの」

 結局瑠姫は部屋の中まで着いて来た。修に代わってドアをバタンと閉め、勝手に近くの床に腰を下ろした。

 「もう、そんなこと、分かりきってるよ…」

 その途端、瑠姫は急にしょんぼりする。

 「お前、忙し過ぎ。どっちかにしろよ。怒ってるの、元気ないの?」
 「…両方!」
 「怒ってるんだね」

 ふくれっ面をしていた瑠姫だが、次の瞬間またしょんぼり顔に元通り。

 「…仕事で疲れてんならさっさと寝れば? 新人なんだから疲れるのはしょうがないし」
 
 新人。そうだと分かりきっていてもやっぱり距離を感じてしまう。

 「疲れてるけど! けど、大丈夫なんだもん」
 「だからどっちかにしようか? そうやって素直じゃないところが可愛くないんだよ
 「可愛くないのはもともとだもん。今更どうってことでもない」
 「またそうやって」

 ――…悔しい。

 やっぱりどうとも思っていない。好きなのは自分だけ。


 「…ねぇ、修ちゃんはさ」

 一旦背を向けた修だったが、瑠姫の声のトーンが変わってまた瑠姫の方を向く。

 「好きな人を、相手は自分のことどう持ってるか分からないけど好きになっちゃった人を想い続けるのと、自分のことを大切に想ってくれてる人、どっちを選ぶ?」
 「好きな人と好きになってくれた人?」
 「うん…あの、例えばの話ね!」

 言い終えるか言い終えないうちに、修は結論を出した。

 「好きな人。好きになってくれても自分が好きじゃない人とは付き合いたくない」
 
 それは瑠姫も同じだった。

 「俺は、嫌だよ。自分を好きになってくれても、自分が許した奴じゃなきゃ」
 「うん。私も。でも、想われた方が楽だと思う
 
 瑠姫が一晩寝ずに考えた結論。愛するよりも愛された方が楽。

 「…そう。瑠姫はそうなんだな。好きでもない奴と手つないだり、デートしたりしたいの?」
 「…女の子って、男の子とは違うんだよ。考え方とか。だから修ちゃんがどうこう言う権利はない

 我ながら、きつい一言だと思った。

 「私、この前のカラオケでバタフライに会ってね、男の子に告白されたの。だから、付き合うことにした」

 ――ダメだ。顔、あげたら泣きそうだ。

 「霜月くんっていうの。優しい人なんだ。きっと、私のことも大切にしてくれる」
 「…そう。瑠姫が決めたんなら、いいんじゃねぇの?」

 瑠姫は泣きそうな顔を上げる。

 「さっさと出てけば? …迷惑なんですけど」
 「あ、うん…ごめん。おやすみ」

 修は何事もなかったかのように机に向かう。瑠姫はその背中に抱きつきたい衝動に駆られた。
 けれども、たった今男の子と付き合うと話したばっかりだ。ここでそんなことしてどうする。



 「…ちゃんと、素直になれよ。じゃないとすぐに嫌われっからな」


 いつもなら、「余計なお世話よ!」とか言い返しているところだが、今何か言ったら泣きそうだ。
 無言で瑠姫は部屋を後にする。




 「…素直に、なるわよ…っ! ちゃんと、好きになるんだから…全部さらけ出せるほど、好きになるんだから…!」


 きっと彼女は分かっていない。



 恋に堕ちる好きになったのと、恋をする好きになるのの違いが。






 ――私は、仕事とプライベート、しっかり管理出来るのかな…?






 知らないうちに、また彼女は十字架を背負った。










⇒To Be Continued...

■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集