これCry Lovers 第9楽章 自然に紡いで心で奏でて
作者: なぁび   2009年08月16日(日) 16時07分22秒公開   ID:sw0xlSukK4E
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 試練。辞書で引いてみると、こんなことが書いてある。


 試練…心の強さや実力の程度が厳しく試されるような苦しみ。あることを成し遂げる過程や人生のある局面で遭遇する苦難。







 「ふぁあぁ〜、眠いーっ!」

 午後の授業を全て寝て過ごしてとはいえ彼女の眠気はピークに達していた。

 「瑠姫、あんまり根詰め過ぎるのもよくないよ。勉強してたんだか読書してたんだかは知らないけど」

 はい、と渚は自動販売機で買ってきたレモンティーを瑠姫に渡す。

 「…なんでレモンティーなの…?」

 手渡された缶を手に瑠姫は開口一番そう言った。

 「や、いつもの、売り切れだったから…ごめんね」

 いつもの。瑠姫の好物はレモンティーではなく、アップルティーだった。まるで子供のように頬を膨らせる瑠姫。

 「ま、別にいいけどさ」

 どんなに意地を張ったって高校生なんてまだまだ子供。
 瑠姫は普通の顔に戻り、また作業を始める。

 「瑠姫は熱心すぎるよ、時々。だからこそ、守ってあげたいって庇護欲がわく、そんな存在なんだけど」

 それは、男子だけではない。小さい頃から一緒だった渚も、まるで子供みたいで、目が離せなかった。

 「渚だってテスト前はこれでもかってくらい勉強してるでしょ。それと一緒。別に、そんなに頑張ってないよ」
 「じゃあなんで寝不足なの?」

 渚の率直な質問に瑠姫は少なからずひるんだ。

 「…そ、それはぁ…昨日ミステリーの新刊が出たから…最後まで読んでて…気付いたら朝4時だったのよ…」

 ミステリーの新刊を読んでたから。その理由が、あまりにも彼女らしくて渚は悪いと思いつつも笑ってしまった。

 「な、なんで笑うの!」
 「だって、なんとなくそうかなーと予想してたから…ごめん」

 ごめん、と言いつつ渚はひとしきり笑った。瑠姫はやれやれ、とまた作業に戻る。
 先程から瑠姫は、作詞をしていた。

 「なーんか降ってこないかなぁ」

 などと言いながら、真っ白なルーズリーフとにらめっこ。

 「なんか? …あぁ、天気予報で雨降るっていってたね」

 笑い終えた渚が天然な答えを返した。

 「そっちじゃなくて、ネタの神様が降りてこないかなぁ〜と思って! …あ、でも私傘持ってきてない!」
 「私もだよ〜」

 のほほんと返す渚。
 慌てふためいた瑠姫は慌てて帰り支度を始めるが、時すでに遅し。空にはどよんとした雲が立ち込め、水滴がぽつぽつと降りだしていた。

 「…いいや。止むかもしれないし、もちょっと頑張って行こ」

 諦めて瑠姫は椅子に座った。

 「なんか詩、出来た?」
 「ううん、まだ。何個か考えてみたけど、納得いかない」

 カバンから取り出した数枚の紙。矢印が何本も引いてあったり、線で消されていたりと見づらいが、いくつかポエムが紡いであった。

 「どうして? 私的には好きだけど」
 「ダメなの。自然じゃないから」

 瑠姫はぶんぶんと首を横に振った。

 「たとえば何かのオーディションで、自然とその人が演技するのを見て笑ったとする。それは、共感出来るってこと」

 ほうほう、と渚はただ頷いて話を聞いている。

 「音楽に置き換えると、私の考えなんだけど、無理して紡いでもダメなの。自然に、こぼれてくるような…あーもう! 上手く伝えられない!」
 「例えば…誰かが笑っているのを見て、自分も笑いたくなるとか?」
 「ん、そんな感じ。だから無理して考えたのは――――なんか納得いかない」

 かといって。納得のいくまで紡いでいたならそれはそれで時間を消費する。

 「悩んじゃうよ…」

 教室を沈黙が包み込む。ばばばば…と耳に痛いくらい雨が窓に打ちつけていた。
 少しの間にこんなにも雨が強くなっていたとは。

 「…雨、強いね」

 渚がポツリ言った。それもすぐに静寂に飲まれる。

 「空が、雨を降らせるのはどうしてだろう。人間と同じように、空だって泣きたい時あるんだよね」
 「ん。晴れの時は笑ってるんだよね。空って表情が豊かだね!」
 「あーじゃあ夏の時は怒ってるのかもね。これでもかー! ってくらいに照らしてさ。太陽も大変だね」
 「じゃあ冬は…」

 二人はそれから窓に打ち付ける雨など気にせず笑顔で話し合っていた。




 ――――空って人間みたいだね!

 ――――違うよ、空が人間みたいなんじゃなくて人間が真似したんだよ。

 ――――あ、そっかぁ。大昔からあるもんね、太陽とかは。

 ――――海も、空も、山も、全部全部私たちの大先輩なんだよ…。



 






 そしてあっという間に時間は過ぎ…。


 「おい姉ちゃん! いつまで教室ここに残ってる気だ!」
 「っわ、李玖! びっくりしたぁ」
 「ってもう5時過ぎてたよ! ごめんね李玖くん、今すぐ帰るから!」

 結局時間もかなり過ぎていると気づいたのは、生徒会長であり瑠姫の弟でもある李玖が見回りに来てからだった。

 「たく、テスト前でもあるまいしいつまでも残るなよ。さっさと帰って夕飯の用意でもしてろよな」
 「私はあんたと違って忙しいの! あんたと一緒にしないでよね」

 ぶつくさ言いながらも荷物をまとめ、教室の電気を消して出ようとした瑠姫。が、一瞬動きを止め、李玖の方に向き直った。

 「そういえばさぁ、あんた傘二つ持ってない?」
 「傘? …持ってるけど、瑠姫姉忘れたの?」
 「うん。そこは認める」

 はぁ、とため息をついた李玖。が、昇降口に青い傘があるからそれを持って行け、とあっさり貸してくれたのだった。






 「わぁ、空が大泣きだ」

 大粒の雨が降る空の下を、女子同士、相合傘をして帰った。

 「でもさー。やっぱり瑠姫はいいこと言うよね」
 「へ? 何が?」
 「無理して紡いでもダメって。そうだよね、その通りだよ。自然に紡いで、心で奏でて」

 彼らに与えられた期間は、一ヶ月とちょっと。






⇒To Be Continued...

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