これCry Lovers 第4楽章 夏祭りでsing a song
作者: なぁび   2009年08月02日(日) 16時49分34秒公開   ID:sw0xlSukK4E
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 「やー祭りなんて久しぶりだなー♪瑠姫は浴衣とか着なくていいのかい?」
 「着ても似合わないもん」

 子供たちよりも千里は浮かれていた。

 「よーし今日ぐらい僕がおごってやろうじゃないか!」
 「本当?! じゃあ僕はーりんご飴とーわたあめとー」
 「俺はかき氷が食べたい」

 そんな中、微妙な心情なのが瑠姫。なぜなら、お分かりかもしれないが好きな人の前でがっつくのは…という恋する乙女の心情なのである。

 「あれ、瑠姫、食べたいものないの?」
 「…今は特にないかな。ていうか疲れたから座る」

 本当は、せっかく来たんだから食べたいものはたくさんある。

 瑠姫はさっさと座れるところを探し、すたすたと人混みの中を進む。
 

 特設会場の前に行くと、渚と梗樺がいた。

 「あれ、瑠姫。よかった、今電話かけようかなーと思ってたところ」
 「手間省けたじゃん。瑠姫も座れよ」

 梗樺に促され、瑠姫は座る。その後ろに、いつの間にかついて来ていた修が座った。

 「あ、修さん! こんばんは。いつも瑠姫がお世話になってます」
 「いえいえ、こちらこそ」
 「もう、なんでついて来たのさ」
 
 好きな人と一緒に来れて嬉しい。
 それが、本音なのだが瑠姫は素直ではない。ぷいと前を向き、素っ気ない態度をとる。

 「お前ってホント、可愛くないよな」

 修にそう言われ、瑠姫は心の中でどうせそうだよ、と突っ込む。

 「そういえば霧斗と実晴は? 一緒じゃないの?」
 「あーあいつらは食料調達に行った。あたしはここでカラオケ大会やるってポスターに書いてあったからそれに出るんだ! 瑠姫も出ようぜ!」

 梗樺が笑顔で言う。たしかに、梗樺の歌唱力はなめたものではない。どこかで習ったのかもしれないが、すごいとしか言いようがない、と瑠姫は思う。

 「あー…私も出てもいいけど…」

 そこまで言いかけて、瑠姫はあることに気づく。
 
 (…そっか…出てみても、いいかもしれない。バンド、やりたいし、みんなに歌ってもらえば…)
 「うん、出る。ついでにみんなで出たらいいんじゃないかな?」
 「いえ、僕は遠慮します。人前は好きではないんです」

 両手に袋を抱えた霧斗が、瑠姫の隣に座りながら言った。続けて実晴もその隣に座る。

 「俺も、人前はちょっと。ていうか最近の曲、知らないしな〜…」
 「あれ、実晴、今日浴衣じゃないんだ?」
 「…俺を何だと思ってるの瑠姫さん」

 瑠姫の冗談に実晴は落ち込んだ。






 「さぁ! 夏祭りメインイベント! カラオケ大会の始まりですっ! 優勝者にはなんと…素晴らしいものが待っていますっ!」

 会場を、闇が包む。そんな中、ライトに照らされたステージ上で元気な女の人の声が響いた。

 「素晴らしいもの…ってねぇ、どうせろくなものではないだろうね」
 「だよね、祭りだし…」

 参加者の年齢層は幅広かった。また、曲のジャンルも様々で、動揺を歌った子供や、演歌を歌う若者、アニソンを歌った明らかにオタクっぽい青年など。


 盛大な拍手に送られ、梗樺がステージから降りて来た。

 「やっぱり梗樺はすごいね! 1位じゃない?」
 「うん、歌唱力半端じゃないね」
 
 瑠姫と渚が褒めたたえる。梗樺はそうでもないよ、と照れながら席に座った。






 「さぁーて! 飛び入り参加自由! 参加者まだまだ大募集!」

 「あれ、もういないのかな?」

 渚の言う通り。ステージには誰もいない。もう参加者はいないのだろうか。

 「おい! じゃあ実晴が出ろよ!」
 「なんで俺なの!」
 「それは実晴だからじゃないですか」

 意味の分からない会話をしている間、瑠姫の心臓がこれでもかというくらいに鼓動を速めていた。

 (出たい、けど…でも…!)

 「そろそろ参加締め切りしちゃいますよ?」

 その声を聞いた瞬間、瑠姫の手が挙がった。

 「…瑠姫、出るの?」

 渚の声を無視し、瑠姫は黙ってステージへ進む。

 「応援してるぞ!」
 
 梗樺が背中にぽそっと呟いた。

 「可愛い挑戦者チャレンジャーが来てくれました! 名前と職業を教えて下さい」
 「…咲島 瑠姫、高校生です」
 「では瑠姫さん! 何を今日は歌ってくれますか?」

 そこでしまった、と瑠姫は思う。
 曲なんて今の今まで気にしていなかった。しばしの沈黙。

 (曲なんて、考えてなかった…どうしよう)

 観客もどうしたどうした、とざわめく。ますます緊張が高まって行く瑠姫。

 「…どうかしました…?」
 「決まりました…」

 結局瑠姫がセレクトしたのは、瑠姫の好きなアニメのオープニングだった。
 曲が始まると瑠姫は真っ直ぐ顔を上げ、真剣な表情で歌い始めた。

 とても、素人とは思えないだろう。

 観客が見る間に瑠姫の歌声に惹かれていく。




 彼女の瑠璃色の瞳からは、いろんなものが感じられた。

 それはとても真剣で。本当に、瑠姫は、純粋にバンドをやりたいだけ。







 歌い終わると、盛大な拍手が観客から上がった。

 「はい、ありがとうございました! 高校生とは思えない歌唱力でしたね! ではこれから審査に移りたいと思います。しばしの間、お待ちください」

























 ひゅ〜、どどーん、ぱぱーん…。


 夏祭りの目玉イベントと言えば花火。今年はいつもよりも豪華な花火が上がる。

 「うぁ〜、きれい!」
 「やっぱり夏は花火ですよね」

 みんな盛り上がる中、瑠姫だけは一人地べたに体育座りをしてふて腐れていた。

 「何ふて腐れてんの」

 修が尋ねると、瑠姫はぷいっとそっぽを向く。

 実は、先程のカラオケ大会の順位が、2位だったのである。
 それはそれでいいじゃないかと思うかもしれないが、彼女なりに自信はあったのだ。だから、内心かなり悔しい。

 「もらったのが図書カード500円分だったから?」
 「…別に、図書カードはもらっても嬉しいもん…」

 瑠姫は腕に顔を埋める。なんとなく、夢から少し遠ざかった気がして。
 そんな瑠姫の頭を、修がぽんぽん、と叩いた。

 「…優勝者にはなんと、素晴らしいものが待っております」
 「何が素晴らしいの。結局お歳暮みたいな詰め合わせだったじゃん」
 「あれ、じゃあいらない?」

 修の言葉に、瑠姫は顔を上げた。

 「1位になった人のための、瑠姫が好きそうなぬいぐるみ」

 修の手に握られていたのは、暗闇でよく分からないが、ウサギのぬいぐるみだった。瑠姫だって女の子、可愛いものは欲しい。

 「なんで1位に、私が好きそうなぬいぐるみなのよ」
 「なんでって、瑠姫の、俺の中では1位だったから」

 きょとん、と瑠姫の行動が一瞬止まる。

 「あれ? いらないの?」
 「…わ、私が1位だったんならもらってもいいんでしょ! 私が!」

 半ば奪うようにぬいぐるみを受け取ると、瑠姫の表情が一瞬ほころんだ。

 「お礼くらい言ってくれてもいいんじゃない?」

 その言葉に、素直に「ありがとう」などと言えるはずもなく。
 ウサギのぬいぐるみにキスをして、それを修の頬にあてて。




 「…ありがとーございましたっ!」










 小さな胸に、不安はいっぱい、ときめきもいっぱいで、夜は更けて行く。









   〜おまけ。〜


 「しまった! 全員、見失ってしまった…!」

 迷子になった父、千里。
 ちなみにその後、李玖に発見された情けない父親。面目丸つぶれ。









■作者からのメッセージ
父、帰宅。夏祭りで迷子。この後どうなったかは知りませんw
この話は、夏祭りの真っ最中、花火を見ながら友達と考えました。課題は結構あるんですよね、この話。本館にも登場してます、この人たち。
そういえば、↑の、夏祭りで話した友達、頼んだやつ出来たらメール下さい。お礼に何かはします。

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