意地っ張り子猫シッターさん☆ばーじょんりたーんず!
作者: なぁび   2009年08月01日(土) 13時17分10秒公開   ID:sw0xlSukK4E
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 次の日。




 「え、月…泳がないの?」
 「はい。蚊に刺されるの嫌じゃないですか。それに、夏らしい写真とか撮りたいし」

 あぁ、たしか月って写真が好きでカメラマン目指してるって聞いたことある。

 「…それに、先輩の水着姿も撮りたいし?」
 「不純な理由での写真撮影は固くお断りいたします」
 「不純じゃないじゃないですか♪俺が撮りたいだけですよ?」

 うん、そうなんだがな。うん。

 でも、そんなことより。

 「…月が入んないなら、俺も入んない」
 「…え? どうしてですか?」

 だって。入りたくない。なんか入る気しない。いちばんは…。

 「だって、月が入んないんだったら、面白くないもん…」

 何さ。誘ったのはそっちなのに。せっかく楽しみにしてたのに。じゃあなんで俺を誘ったんだよ。俺じゃなくてもいいじゃんか。

 「…先輩、それって俺のこと口説いてます?」
 「へ? そんなこと俺する気ない…け…」

 それは、突然の、キスだった。いわゆる不意打ちって奴…?

 「な、にすんだよ! いきなり!」
 
 絶対今俺の顔、真っ赤だって。

 「だって先輩が口説いて来るんですもん…こうやって猫耳を垂らして、尻尾も…」
 「俺にんなもんねーわっ!!」
 「俺には見えるんですよ♪先輩って意地っ張り子猫なんですもん♪」

 もう知らね。
 俺はさっさとその場に座り込み、砂のお城を作成にかかる。

 「あ、先輩いいじゃないですかーもう少し余韻に浸らせてくれても」
 「何の余韻ですか…」
 「先輩が、ちょっとだけ素直になってくれたから。だから、嬉しいじゃないですか、好きな人の素直なところを見れるって。だってそれだけ心開いてるってことだろうし…」

 そうかもだけど…。でも俺の場合、本心を見せると嫌われるような気がして言えない。誰かに話したいって思ったりするけど、結局言えなかったり。
 だから、正直月にも言えないこととか、結構ある。

 「だからなんでも話してよ! ホント、小さいこととかでもいいよ。俺、李玖先輩からならなんでもいい」

 月は、そう言うけれど。

 「なんでもって言うけど、実際そうじゃないだろ?」
 「なんでもですよ! なんでもって言ったらなんでもなんです!」

 じゃあ、と聞きたくなる。
 緋月もだけど、俺って兄弟の中で目立ってない。だから、なんでこんな俺にしたのだろうと。俺でいいのかと。

 「別に、どんなのでも構いませんよ? 何か悩んでるんですか?」

 なんでそんな優しくするんだよ。

 「悩んでなんか、ない…っ!」

 しまいには泣き出してしまう俺。本当、情けない。後輩の、前なのにね…。
 ここ、みんないるのにね…。




 一度流れた涙は、どうしてこうも止まらないんだろう。意に反して流れ続ける。








 涙は、悲しみは流してくれるけど、どうして切なさは流してくれない?



 人は、悲しみから逃れたくて涙を流すけど、でもその後に求めているものがもうないと知った時、人は切なさを得る。


 なんという悪循環なのだろう。






 だから、絶対泣きたくなんて、なかったのに――――…。






 「も、やだ…やだ…やだっ!」
 「何が嫌なんですか? 俺、何か変なことして…?」
 「してないよ!」
 「あっ、先輩…っ!」

 俺最低だ。何が嫌で月から逃げてるんだろう。
 ううん、逃げてるのは月からじゃなく、自分から。





 今日は俺に楽しんで欲しいからって月は言ってくれたんじゃないの?




 どうして俺は自分からそれをぶち壊しにするの?





















 結局、俺はそのまま勝手に家に帰って、兄弟に泣きすがってそれから…泣き疲れて、寝ちゃったみたいで。


 「李玖は、本当に月くんのことが好きなんだね」

 瑠姫姉の、その言葉で目が覚めた。

 ここに、瑠姫姉がいるわけじゃないけど。昨日、言われた言葉。






 うん、好きだよ。素直には言えないけど、大好き



 枕元のケータイを開くと、月から連絡が来ていたらしい。
 俺はかけるかかけないか迷った挙句、結局ボタンを押せずにいた。




 今の、俺の本心は。なんなんだろう。




 「今、俺、何したいんだろう…?」









 俺は無意識のまま、気がつけばここは昨日待ち合わせしていた公園だった。


 やだな、ここに今来ても意味なんてないのに。





 周りには、楽しそうな家族連れや友達、はたまた恋人がたくさんいる。


 今、ここに、隣に月がいてくれたら。大切な人がいてくれたら。



 どんなに幸せなことだろう。





 俺は決めた。









 「…もしもし? 月…?」




 「っあ、先輩? …どうかしましたか?」



 月は、怒っているだろうか?


 「その、昨日はごめんなさい。勝手に、家帰って…」


 怒っていると思う。


 「…先輩、具合でも悪かったんですか? 急に帰ったから、心配なって電話してみたんですけど、先輩でないから…」



 なぜ、俺を心配するの?

 普通は、怒るんじゃないの?


 ――――どうして?


 「なん、で月は…ひっく…どんな状況でもそんなこと言えるの?」


 悔しい。悔しい。悔しくて、また涙が出てくる。


 「それは、先輩を好きだから」

 「え…?」



 今度は、電話越しからじゃなくて、耳元で聞こえた。


 「だから、怒ったりできない。なんか先輩は、目が離せない」


 その後、俺を抱きしめる腕。…月だ。


 「やっぱり俺は、先輩の中でいちばんではない?」
 「…分からない。…でも、」



 じゃあ月の中で俺は…?



 「今、何も考えられないから、月のことしか頭にないから、いちばんなんだと思う」


 俺は、自分の疑問に答えが欲しいからちゃんと答えた。


 「じゃあ、俺は…俺は、月…」
 「安心して。いつも、どんな時も、いちばんは先輩だから」




 やっぱり俺は、こいつには敵わない。






 「ね、教えて。先輩のこと。今、したいこととかある? 思ってることとかある? …なんでもいいから、教えて?」



 今、俺が思っていること。どんなことでも、君が知りたいというのなら。






 「俺、一回でいいから、月に思いっきり甘えてもいいですかっ?」

 「…先輩が、望むなら」




 涙ながらのお願いを、月はすんなりと受け入れてくれて。





 その後、その場で月から何度もキスをされたけど、嫌じゃない。むしろ、幸せで。






 やっぱり、俺が意地っ張り子猫なら、月はそれを簡単に手懐けてしまう、有能な、シッターさんだね。












 
■作者からのメッセージ
りたーんしてまいりましたー!書いてて楽しい、けど甘いwこの二人は何ろなく私の中では甘くてナンボですw
いかがでしたでしょうか?感想をいただけると嬉しいです!
では、私はこれから夏祭りに行って来ますので♪帰ってくるのは夜になります☆では!

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