夏  〜僕たちの不思議な物語 T〜
作者: クロノス   2009年07月23日(木) 09時12分02秒公開   ID:obZo2wm8mmE
 それは、何も知らない僕たちの運命を変えた、ちょっとした体験だった。
 そもそも、僕たちが住んでいるところはローリア帝国の端っこで、帝国かどうかさえも怪しいような片田舎の小さな村だった。
 僕は、そこの村の子供をまとめているリーレ。
 これは、初夏の頃に起きた体験の物語。




 リーレは、いつものように親友のゼフィアと共に、村の子供たちに字を教えていた。この村には昔、といっても数年前だがまだ小学校と言うものがあった。リーレやゼフィアはそこに通うことが出来たので、文字を書いたり計算をしたりと言う知識がある。しかし、子供も少なく働き手も少ないこの村で、大人たちはやむなく小学校と言うものをつぶすことを決断したのは、二人が十六になったときだった。
 そのときから、二人は自分の仕事をこなしつつ、時間があけば文字の書けない子供たちに文字を教え、計算を教えていた。
「今日はここまでだ。何か質問はあるか?」
 リーレが言うと、彼の周りで計算を教えてもらっていた子供たちが、いっせいに手をあげた。
 子供達は、下は六歳前後から、上は十五歳まで集まっている。
 たまに、時間のあいた大人たちがきては、二人の仕事を手伝ったりもするのだ。
「宿題は、先ほど言ったとおりです。明日までに、時間があれば進めておいてください」
 ゼフィアは、必死に文字の勉強をしている子供たちの頭を優しく撫でながら言った。
 もともと、ここはある一人の少年が母親の誕生日に手紙が書きたいと二人に言った事から始まった『青空教室』のようなもので、当初はその少年に少し文字を教えるだけのつもりで、二人は引き受けた。
 しかし、いつのまにか二人の周りには、数十人の子供たちが集まり、字を教えて欲しいと乞うようになった。
 子供たちの親からも、字が書けなければ町へ出ることも出来ないから頼む、と言われてしまえば、二人は断ることもできない。
 こうして、二人は子供たちに字を教えているのだった。





 そんな小さな村に可笑しな客が来たのは、ちょうど梅雨の時期に入った頃だった。
 滝のように連日続く雨に、二人はため息をつきながら子供たちのために特別に貸し出された村のはずれにある納屋に向かっていた。
 雨よけのコートは、水を吸って重たく、足取りも重くなる。
「こんな日に限って、大人は集会開くからなぁ」
 愚痴をこぼすリーレは、何も言わずに話を聞いているゼフィアを見た。
「どうかしたか?」
 普段は柔らかく暖かな光を宿しているゼフィアの瞳が剣呑な光を湛え、細められている。睨みつけている先には、村の入り口があり、その先は森へと続く細い一本道が続いていた。
「・・・・・・何かが、来る」
 ゼフィアはそれだけ呟くと、村の入り口へと走り出した。
 リーレも親友を追って村の入り口に駆け寄る。
 鉛色の空の下、薄暗い森には、普段なら聞こえるはずのカエルの声も、鳥の羽音も聴こえなかった。生き物の気配がいっさいなく、風が凪いでいた。
「リーレ、子供たちをすぐにうちへ返せ」
 ゼフィアの真剣な声に、リーレはすぐさま頷き、子供たちが集まっているであろう納屋へと走った。納屋にいたのは、二人に年齢が近い少年少女ら五人だけだった。小さな子は、雨の日は外に出さないのが、この村の決まりになっている。
「今日は、家に帰ってくれ。俺もゼフィーも用事があるんだ」
 そう言うと、子ども達は、「え〜」と文句を言いながら、それでも変える準備をしはじめた。
 彼らが帰ったあとすぐに、リーレは再び村の入り口へと来ていた。
 そこで、彼は、不思議なものを目にするのだった。

 親友がいると思って急いだ村の入り口には、見知らぬ男が立っていた。
 真っ黒いフード付きの外套に身を包み、俯いたようにたっている。
「リーレ、離れてください」
 ふいに、ゼフィアの声がして、リーレはその場から数歩後ずさった。
 岩を砕くような音と、砕けた大地の破片がぱらぱらと水たまりに落ちる音がして、足元を見れば、先ほどまでいた場所が抉れている。
「あなたは何者ですっ」
 ゼフィアが男に怒鳴った。
 ちょうどリーレとは男を挟んだ反対側にいる様で、上手く姿を見ることができない。しかし、声を聞くと、彼はかなり怒っていることが知れる。
 不審者が村に訪れた危険な空気の中で、リーレは、珍しいなぁ、とゼフィアのことをのんびりと思っていた。
「・・・・・・・・・」
 男は一言も喋らず、ゼフィアのほうへと振り返った。
 ひときわ大きな雷が鳴ったのは、そのときだった。
 男の顔が二人の前にさらけだされる。

 白銀の髪に、青緑の瞳をした、同い年か、少し年上ぐらいの青年だった。










 これが、運命の出会いであった。
■作者からのメッセージ
久しぶりの投稿です。
変な文章ですみません。

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