Last Angel 時空を駆ける天使と時空を奏でる少女 〜Angel side〜
作者: なぁび   2009年07月08日(水) 20時26分26秒公開   ID:dJ/dE12Tc8A







 
天使は心のきれいな人にしか見えないっていうけれど

 天使は心のきれいな人にしかなれないって 私はそう思うんだ――…










  天界。




 「おーい、ナツルー?…夏琉?!夏琉ってば?!」

 ここは、天界。
 地上の魂が集まり、天使として転生できる場所。

 イメージとしてはのどかで、静かな感じもするが、あながちそうとも言い切れない。
 
 呑気な天界に、叫び声が響く。

 「…っは、…な、何?弥月みつき…?」

 先程夏琉と呼ばれた少年がはっとして名前を呼んだ少年――――弥月を仰いだ。

 「『何?弥月?』じゃなくてさ!さっさと今日の善意を行いましょうか?」
 「いっ…いだだ、いだだだだ…」

 間抜け面を浮かべる夏琉の頬を弥月が引っ張る。
 善意、とは天使が必ず行わなければならない、いわば地上でいう義務教育のようなもので、ある期間内に人に幸福を与えなければ天使失格。という内容はとても厳しいものである。

 そしてお母さんのようなこの少年、弥月――本名はたしか真野まの 弥月みつき――は、夏琉の先輩に当たる。


 天界に来た瞬間から年齢はそのままで止まってしまう。14歳なら14歳、20歳なら20歳のままで。
 弥月は夏琉と見た目はほとんど変わらないが、夏琉よりも数年前に天界に来たらしい。

 「じゃあ俺もうやって来るからな。あとから泣きついて来ても絶対手伝いはしないから」
 「はいはい、分かってますって」

 あとから泣きついて来ても――――この台詞、弥月と仲良くなってから何度言われただろう。
 夏琉はいつものように軽く受け流す。

 「仕方ないし、俺もやるっきゃないよな…?」

 弥月が去った後、夏琉――本名、津木つき 夏琉なつる――はやっと重い腰を浮かした。

 「やるっていってもさ、なーんで天使天使ってだけでこんなにも幸福を与えなきゃならないのかな。俺がなりたいくらいだ」

 幸福を与える、なんて響きはかっこいいですか?



 夏琉の考えはこうだ。


 人によって、幸福は違う。これは当たり前。そもそもそんな基準なんてないものだし、だから俺たち天使が幸せにしようと思ってもそれは100%幸せではない=結局善意という名のおせっかいなのではと。

 たしかに誰かのために一生懸命になることはいいことだと思う。

 でも、灯台もと暗しって言葉もある。


 他の人から見たら、ただの屁理屈かもしれない。
 しかし夏琉にとってはそれが自分自身の首を絞める結果になっている。





 「早く、人間に戻りたい。戻ったら…」





 天使が人間に戻る方法は二つ。

 一つ目は、生まれ変わる、すなわち転生する。姿も何もかも変る、もちろん、前の姿の自分なんてのは覚えていない。
 何もかも捨てて、新しい自分としての再スタートを切るか。


 二つ目は、過去を全て思い出し、姿や記憶等はそのまま、また地上に戻る



 後者の方が断然いいと思うだろうけれども、簡単には行かない。

 天使になるということは、天界の地に着くまでに、なんと嫌なことに地上での記憶を数個どこかに落としてしまうらしい。
 それを全て拾い集め、一つにするということはかなり困難なことであり、弥月の話を聞く限り後者の方法で地上に戻った天使は数えるくらいしかいない、とのこと。



 たしかに、この方法で帰ろうとしている者はみな、天界という場所ゆえ年こそ取らないものの、かなりの年月を費やしてきているようだ。

 夏琉にとっては悩みどころ。

 たしかに今までの天使が悩むように、すぐに地上に戻りたいのなら前者の考えの方がいいとは思う。

 だけど、夏琉には心残りがあった。

 それを解消するためには、この姿で、記憶を持ったまま地上に戻らなくてはならない。









 「今、会いに行くから。小南こなみ…」



 夏琉は、最高に楽しかったあの時を思い出す。





 天使の特別休業と呼ばれる、その期間内は仕事はしなくてもいい期間だ。
 そして、もうひとつの特権が、2週間だけ、地上に降りることが出来る。

 そこで一度天に行ってしまった者たちは生前の心残りや出来なかったことを発散する。
 この場合、生前病弱だった者も元気な姿で地上に降りることが出来るため、文字通りなんでも出来るのだ。

 この期間、どう使うかはそれぞれの自由なので地上で好きなことをしまくるのもよし、天界に行く最中に落っことした記憶のカケラを拾い集めるもよし。






 夏琉の場合は、地上に行って、大切な人に会って来た。

 いつも放課後になると、音楽室で一人でピアノを弾いている女の子。音符を奏で、コトノハを紡ぐ。
 夏琉は、この少女が好きだった。

 名前は知っていた。橋本はしもと 小南こなみ

 いつの日だっただろう。
 あれは、ある春の緑色の風が気持ちいい春だった気がする。
 音楽室のドアを開けると、一人の少女がいて、こっちに微笑みかけてきたっけ。

 「貴方、同じクラスの津木 夏琉くんだっけ。私も同じクラス。名前は橋本 小南。よろしくね」

 そして、二人はよく一緒に時間を過ごすようになっていった。



 そんな平凡な日々が続いた、ある日。

 一緒に下校していた二人。そこに、何か思い出すだけで嫌になる、大きな出来事があった――…。







 夏琉が覚えているのは、そこまで。後はよく覚えていない。というよりかは記憶のカケラを天界ここに来る途中、どこかに落っことしてきてしまったようだ。







 「きっと、会いに行けるんだ。俺はなんとしてでもこの姿で地上に戻る。待ってろよ、小南…」





 見下ろすと、そこには地上が見えた。今、小南は何をしているだろうか。




 ――――記憶のカケラ、集めて、この果てない天界から、地上に降り立つ。天使が降臨するのは、きっと、もうすぐ。

















 












           
■作者からのメッセージ
つい書いてしまった短編…いやある意味では長編?
この物語は中3の時にふっと思いついた詩からさらに思いついたものです。思いついたのは、なぜか(でもないのですが)英語の授業中…w
次回は地上side。よければ、お楽しみにです。

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