貴方ガイル世界ヲ誰ニモ穢シハシナイ―Bye-bye world is You
作者: 清嵐青梨   2009年05月10日(日) 15時58分50秒公開   ID:L6pfEASBmTs
終わらせたい…終わらせるために俺は生まれたんだと思う。そうじゃなければ俺は一生俺を嫌っている世界を憎んでいたのかもしれない。
だけど、今は憎んでなどいないし嫌ってなどいない。自分でも気付かなかったのだ…なんでこんなにも自分を支えている、自分を愛している仲間がいるってことに。

俺は仲間がいる世界が好き…失ってはいけないくらいに好きだ…。生きてた頃はサーヴァントとかいう使い魔と戦ったことがあったのだけど、今は死神という架空の神様に会えるとは思えなかった。
俺が会った死神…不知火雪村の闇を知っている、前に一度彼奴の過去を覗いてしまったことがあったから。その闇を除いてやろうと思って俺は現界した。肉体は当の昔に捨ててしまったけど魂だけ現界したらきっと見えるにちがいないと思ったから肉体を欲しなかった。


でもそんな俺を真っ先に気にして呉れた隼人が現界した俺に色々良くして呉れた…司さんも撫子も…未だ生きている【GAME】の皆が俺を歓迎して呉れた。勿論サーヴァントの奴等にも…ユウや士郎たちも…そして彼奴も……俺が生きていることに驚き、嬉しい気持ちを示して呉れた。
雪村もそうだ、彼奴も他の死神たちに俺のことを紹介して仲間として認めては呉れないかと説得して呉れた。彼奴には感謝しているし嬉しい、反対側の一名は認めては呉れなかったが、雪村のことをいつも守護して呉れて感謝するとか大袈裟なことを言っていたっけ。




こんなに優しい仲間を持っていたことに何故今まで気付かなかったのだろうか…。多分“鬼”がそれを否定したせいかもしれない。俺はいつも否定する“鬼”を殺したかったからあの時、彼奴の約束も果たせずに自害した……。けど“鬼”は執拗く俺の身体を蝕んでいた。

だから俺は耕一を殺す前に自分を蝕む“鬼”を殺した――。殆ど死ぬ覚悟だったが生命はそれを赦さなかったらしく俺を生き延びてほしいとの願いを勝手に叶えた。本当は自分に生きる資格なんてなかった…なんで自分を憎んでいる、嫌っている世界が俺に生を与えたりしたんだろうと酷く後悔したこともあった。
でも今はその後悔なんか何処にも感じはしなかった、寧ろ俺に生を与えて呉れたことに喜びを感じている。実感はしないが心がそう感じているのだ。


あの時――高山家の牢獄に閉じ込められ自分を深い闇へと陥れたかのような孤独に陥ったのだが、それは今じゃ深い闇すらいた気分になっていない。寧ろ差し込んできた光にやっと掴めることが出来た幸福感が身体中に広がっていた。








そしてやっと気付いたのだ……自分は孤独から解放されたのだ、と。







これでやっと死ねるな……そう思ったのは多分無自覚のせいだな、と思い込み俺は長年の相棒である白い拳銃をギュッと抱き締める。
もうずっと離したりはしない…お前だけはずっと俺の傍にいて呉れる…。叶えもしない願いに何故か俺は縋っていくとグラリ…と身体を揺らす。

手摺りを越えたら、目の前に映る青白い月に手を伸ばしたら、きっと俺は長年望んでいた幸せに会えるのだろうか――。


叶えもしない願いを胸に縋ったまま、また皆に内緒で独りで死んでいくのだろうか――。不思議と悲しいとか寂しいとか怖いとか…独りになっている孤独感を感じはしなかった。きっと光を掴んだから独りじゃないのだろうか…勝手な自己解釈に俺はふっと笑みを浮かべると左腕を上げ掌を広げる。




届くのだろうか…あの青白い月に――。叶えるのだろうか…長年望んだ光に――。生まれ変わったならきっと叶えることも届くことも出来るだろうな。


果たせなかった約束は叶うことも届くことも出来ないのだけれども、俺はそれで良いと思った。






また…果たせなくなるな――。俺とお前の約束が…。


でもそれで良い…。若し叶えてしまったらきっとまた世界が俺を憎んでしまうかもしれないから。






だから――


















身体が完全に手摺りを越え、堕落の底へ落ちていく身体に、俺は青白い月に向けて最期の言葉を放つ。









「さよなら…ランサー……俺はな、お前がいる世界のことが好きやったで」










叶えなくても良い、届かなくても良い、只お前がいる世界があるだけで俺は幸せになれるのだから――。




















右目から自然に流れる涙が頬に当たった途端、左手が丸で光を掴もうとしたかのように――突如伸ばしてきた優しい手を捕まった。
■作者からのメッセージ
空の軌跡3の曲「Cry for me, Cry for you」を聴いたらこんな文が浮かんだので突発で書いてみました。なんかもう色々とすみませんでした。でも書いた中で結構気に入っている作品の中に入るかなーと。

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