02,少女は狂気を慈しむ
作者: 零   2009年04月05日(日) 21時48分50秒公開   ID:NqbpUpPD62U
ドクンッ――――


 心臓が微かに動く。



 ・・・わたし,しんだんじゃないの?



 確かに千歳に刺されたはずなのに。


 どういう事?


 しかも私が今いるのは真っ白で,何もない部屋。



 洋服はあの時のままで馴染み慣れた我が校の制服。



 「・・・此処,どこ」



 思わずそう呟いた瞬間に,ギイィ――と音を立てて,背後にあったドアが開いた。



 現れたのは





 「ち,とせ・・・・・・?」



 紛れもない,愛しい人だった。




 「うん,そうだよ」


 千歳は何時もの様に,にっこり笑う。


 
 ゆったりとした口調。何も変わっていない。


 でも,何か違和感がある。

 




 気の所為?



 






 「本当に,千歳?」


 


 「うん。どうしちゃったの?沙希ちゃん」








 ホラ,やっぱり千歳。違和感なんて何もないんだ。






 「それよりね,沙希ちゃんに頼みたい事があるんだ」






 「頼みたい事?」






 そ,と言って笑いながら千歳は私に手を差し伸べる。







 可笑しい。





 何か可笑しい。





 ――――何で?さっき確認したじゃない。





 と,ワタシ≠フ声が囁く。





 ――――それとも,千歳を信じないの?




 


 嗚呼,まるで悪魔みたい。



 そうやってまた私≠追い込むんだ。





 私≠ヘ沙希≠ナあって,ワタシ≠ネんかじゃないのに。




 本当は,思いっきり,そう叫びたかった。




 私だって出来るのに。只,出来ないだけ。




 ソレと逆の受け止め方をする,ワタシ≠ニ,硝子みたいに脆い現実がたまらなく嫌になった。






 ――――脆くて簡単に崩れる現実より,いつまでも崩れない,


     自分の中に閉じ込めて置けば崩れない。





 
狂気≠フ方が,よくない?







 「・・・そうだね」




 
 私がそう言ったのと,千歳が微笑んだのは,






  
きっと同時。














 



 
少女は狂気を慈しむ




 
(少女は狂気に魅せられた)
■作者からのメッセージ
反転一箇所ー(

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