My First Kiss 2
作者: HARUKA   2008年05月18日(日) 20時07分53秒公開   ID:Bd9jGYOzvN6



眠れない夜 君のせいだよ
さっき別れた ばかりなのに
耳たぶが for you 燃えている for you
やった やったよ ohh

はじめてのチュウ 君とチュウ
I will give you all my love
なぜか優しい 気持ちが Oh いっぱい
  
はじめてのチュウ 君とチュウ
I will give you all my love
涙が出ちゃう 男のくせに
be in love with you










 絡み合う視線

 見つめ合う二人。

 二人以外、入り込む事の出来ない空間。

 誰も近寄れない雰囲気(ムード)

 彼女はそっと目を閉じ、身体を預けるように、こちらへ近寄る。

 自然とこちらも目を閉じ、そのまま彼女の身体を受け止めた。


 ――はずだった。


 しかし彼女は寸前で止まり、唇を耳元へ運び、そっと呟いた。




「ごめんね、罰ゲームだったの」




 微笑んでそう言った。








「うわぁぁぁぁぁ」

 叫びと共に、身体が宙を舞う。
 一瞬の浮遊感を感じた後、すぐさま身体が床へ落ちた。
 受け身など当然とれるはずもなく、腰と背中を痛打する。つまりベッドから落ちたわけで。

「いってぇぇぇぇ」

 あまりの痛さに、身体がえび反りになる。
 腰を押さえながら、床の上を転げ回る。
 ごろごろと。ごろごろと。

 痛みが引いて来て、ようやく転げ回るのをやめ、大の字に横たわる。
 何て恐ろしい夢なんだ。泣きそうだぞ、おい。
 いや、本当は少し泣いてるんだけど……。
 それにしても、デートに誘われた翌日にこんな夢を見るなんて、リアルにも程がある。
 むしろ――チキン過ぎるぞ、俺。
 何をこんなにビビってるんだ。ヘタレもいいところだ。

 これじゃダメだ。
 もっと前向きに考えよう。


 ビビリ、ヘタレ、チキン。
 同類語が三拍子揃った俺は、最強のチキン戦隊ヘタレンジャーとなれるのだ。

 合言葉は、ビビって何が悪い!

 右手を身体の前に移動させ、ビッと親指を立てて、顔の横に近付ける。



 ……。
 …………。
 ………………。


 ダメじゃん。
 全然ダメだよ、俺。
 ネガティブ過ぎる。
 何がチキン戦隊ヘタレンジャーだよ。
 頭悪いにも程がある。
 親指立ててビッ、何てポーズ誰もやらねぇよ。
 もっとポジティブに考えよう。


「ごめんね、罰ゲームだったの」
「えっ、そうなの? 全然気にしない。だって俺はポジティブ人間だから〜」


 ……。
 …………。
 ………………。


 これじゃただのバカだ。


 うおぉぉぉぉぉ!
 どうしたら良いんだ。
 マジ、どうしよう。

 両手で頭を抱え込み、再び床の上を転げ回る。
 何度も何度も転げ回っていたが、ある事に気付き、ピタリと動きを止めた。

「何やってるの? お兄(おにい)

 視線の先――部屋の入口――には、呆れた表情で俺を見下ろす人物がいた。
 彼女は、哀れな兄を可哀相な目で見ながら言った。

「良い病院紹介しようか?」
「な、な、な、何を言ってる。健康的に運動していただけだ。」
「そんな運動ないわよ」
「甘いな、これはヨガの応用で巷では有名な運動の一つなんだぞ」
「はいはい」

 呆れたまま彼女――妹の明日香(あすか)はそう言うと、俺の目の前まで来て、しゃがみ込んだ。
 彼女は、何か言いたいような表情だ。しかし何も言わないままこちらを見ている。

 何なんだ……?
 まさか。

「明日香、いつから居たんだ?」
「ん〜? チキン戦隊ヘタレンジャーとか騒いでる頃からずっといたわよ」
「おい、ノックくらいしろよ。礼儀知らずにも程がある」
「何言ってるの、ちゃんとノックしたわよ」
「マジか」
「大マジ」
「……」
「何をやってるんだか、いい年して。チキン戦隊ヘタレンジャーだって。ぷっ」

 最悪だ。
 アホな動きのオンパレードを見られたのか。
 恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。
 いっその事、殺してくれ。
 こんな生き地獄みたいなのは嫌だ。
 時間を元に戻してください。助けてください。
 誰か助けてください。

「で、何かあったの?」
「何にもねぇよ」
「お母さ〜ん、お兄がチキン戦隊――「だああああああ」

 明日香の言葉を遮って、母親への情報流失を回避する。

「OKOK、お嬢ちゃん。何でも買ってやるから秘密にしてくれ」
「物なんていらないから、何があったのか教えてよ」
「ワタシニホンゴワカリマセ〜ン」
「お母さ〜ん」
「冗談だって冗談。アメリカンジョークだって」
「じゃあ教えてよ」

 冗談じゃねぇ。
 水に電気を流すくらい情報の流失が早い――もといお喋りな妹に、キスの事を教えたら晒者(さらしもの)になってしまう。
 学校に行けなくなってしまう。
 しかし、母親にチキン戦隊ヘタレンジャーとか言ってた事実を知られたら、家にいられなくなってしまう。
 どうしよう。どうしよう。どうしよう……。
 考えた末、俺は現実逃避を試みた。

「俺は何もしていない。チキン戦隊ヘタレンジャーなんて知らない。明日香、夢でも見たんじゃないのか?」
「お母さ〜ん」
「ウソだってウソ。もう明日香ちゃんのいじわる〜」
「その喋り方キモいってば」

 やかましい。
 お前のご機嫌とりのために、こんな口調にしてるんだ。
 悔しい、悔しいけど、あんな失態を犯した俺が悪いんだ。
 憎い、あんな事をした過去の自分が憎い。

「で、何があったの?」
「…………」
「黙ってちゃわからないでしょう?」
「も、黙秘権は?」
「ありません」
「ベ、弁護士を呼んでください」
「雇ってから言ってください」
「カ、カツ丼は?」
「却下」
「うぅっ……」

 選択の余地はないようだ。

「さぁ、もう白状しちゃいなさいよ」
「わかったよ……」
「うんうん」
「実はさっきから」
「なになに?」
「パンツ見えてるぞ、明日香」
「なっ」

 ――刹那。

 平手打ち(つまりビンタ)が、俺の頬をクリーンヒットした。その間、僅か0.2秒。
 間髪入れずとは、まさにこの事か。

「このエロ兄貴!」
「ちょっと待て、いいから待て、とにかく待て。見たんじゃない、見えたんだ。俺はすぐに注意しようと思ったが、お前がチキン戦隊ヘタレンジャーとか言ってたから言えなかったんだ。ほら、俺は悪くないだろ?」
「うっ……」

 状況逆転。
 このまま話し終わらせよう。

「まぁ良くないけど良いわ、さぁ話してね。じゃないと、ヘタレンジャーとパンツ見た事言いつけてやる」

 訂正。
 状況は悪化。
 これはもう……負け戦だ。
 白旗だよ白旗。
 ついに俺は折れ(ダジャレじゃないぞ)明日香にあの出来事を話すのだった。








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「きゃははははは」

 悪魔が腹を抱えて笑っている。

「お腹痛いお腹痛いよー。きゃははははは」

 そのまま腹痛になってほしい。何なら寝込むまで。

「お兄が、お兄が……きゃははははは」

 一生このまま笑い続けたら、バレなくて良いのに。
 ちょっと怖いことを考えてみたが、ありえない。

「格好悪いよ、お兄。唇を奪われるなんて」

 悪魔――もとい明日香は痛いところを突いてくる。痛恨の一撃とはまさにこの事か。
 身を持って感じると非常に痛い。
 相手が実の妹となると、更に痛い。

「あー面白かった」

 人が真剣に悩んでる事を、そんな簡単に面白かったなんて言わないでほしい。あまりに悲しい。

「で、お兄はどうしたいの?」
「ん?」
「だから、お兄は岬さん会ってどうするの? どうしたいの?」

 急に話を真面目な方向に切り出されて焦る。

「それを悩んでるだよ」
「なるほどね」
「そう言うこと」
「ま、頑張って考えね。後悔しないように」

 そう言うと明日香は立ち上がり、部屋を出て行こうとする。

「あ、そうそう」
「ん? まだ何かあんのか?」

 明日香は振り返り、あまり見せない表情(女の顔とでも言おうか)で俺に言う。

「罰ゲームってやつ、それはないわよ、きっと。むしろその考えは、相手にとって失礼だよ?」
「……」
「だって、考えてみてよ。キスだよ? たぶん岬さんにとっても、ファーストキスだと思うよ」
「……」
「最初のキスを好きでもない人にしないよ?」
「……」
「それにすっごく勇気が必要だったと思うよ、最初だもん」
「……」
「ちゃーんと考えてあげないとダメだよ。ね?」

 そう言って明日香は部屋を出て行った。


 グサリと胸に刺さった。
 明日香の言葉、一つ一つが深く深く、一番弱い部分に突き刺さった。
 俺は何を考えてたんだ。
 理由は分からない。
 だけど、罰ゲームでキスなんかするわけない。

 そんな事も分からないのか、俺は。
 驚きよりも、浮かれていたのかもしれない。

 バカだ、バカ過ぎる。

 昔から一緒にいた相手を、そんな風に見てしまった事。
 何一つ考えず、自分の事しか考えていなかった事。

 全てがバカに見えてしかたない。


 岬が、安易な気持ちでキスをするような人間じゃない事なんて知っていたはずなのに。


 最低だ、俺って。

 考えよう、真剣に。

 自分を守る考えではなく。

 相手を考え、自分を考え。


 後悔しない決断をしよう。


 もちろん、岬の本音は分からない。

 だけど、俺がどうしたいのか、どうなりたいのか。

 それはしっかりと考えなくちゃいけないんだ。








 ちゃんと考えよう。









 つづく。



■作者からのメッセージ
初めに、ここまで読んでくださった方に感謝いたします。

決意をしたケイスケは、次回どうなってしまうのでしょうか。
そして岬ちゃんの本心は……?
それではまた次の投稿でお会いしましょう><

読んでくださった皆様の時間が無駄にならなかったことを祈りつつ……。

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