アンドロメダ症候群V(仮名
作者: 刹那(黒嶋 雅   2010年04月04日(日) 21時34分07秒公開   ID:mEFQaJ90Ems
二等星 怠惰

昼過ぎの起床で曇天、加えて湿度高めの強風。ノストラダムスの大予言とはいかないものの、その予行演習程の威力を持った低気圧が北上してきているとメディアは報道していた。自腹で購入したラジオのスイッチを入れると、案の定気象情報で注意を促している。今日は土曜日なので午後から外出の予定があったのだが、やむを得ず来週に延期することにした(池袋の書店巡りなど、行こうと思えばいつでも行ける)。
一階へ降りると、小さめの食卓の上に無駄にサイズのでかいメモが鎮座していた。一通り目を通し、嘆息。
[れいぞうこにいろいろ入ってるからてきとうに作って食べといて]
これでも、一応俺の母親だ。

託(ことづけ)通り冷蔵庫の中を覗くと、賞味期限を数日後に控えた焼きそばの袋が発掘された。運良く俺に発掘されたにも関わらずそのまま廃棄されるのも良心の呵責が拒むので(あれ、昨日も良心の呵責を感じたような。もしかして俺って結構良心的?)、晴れて今日の俺の朝食兼昼食は焼きそばとなった。八百万の神はどうしても俺に焼きそばを食させたいのだろう、キャベツと人参共々有り余っており、加えてソースも新品だ。偶然なのか必然なのか知らんが、これは余りにも条件が揃いすぎではないだろうか。
それはまた後で延々と考慮するとして、早速とりかかった。俺の特技というカテゴリーの一端となっているキャベツの早切りは、こんなガタついている家庭で習得した数少ないものの一つだ。誰にも言ってないけど。
そのまま人参も微塵切りにすると、油を薄くひいたフライパンへ徐(おもむろ)に投入する。換気扇のスイッチを入れ、時折箸でひっかきまわす。途中で料理酒を入れ、またひっかきまわす。
自分が食うんだからいいだろうとかなり大雑把な為、例の暗黒物質(ダークマター)ができかねない。それでも俺は野菜の暗黒物質は食っている。国民栄誉賞モノだと思う。うん。
適度に焦げついたところで焼きそばをビニール袋から出す。ボテッという間の抜けた効果音の後、白い蒸気に包まれる。そこへソースをぶっ掛けると、さらに蒸気が濁る。
数分後、お世辞にも見栄えがいいとは言えないような焼きそばができあがった。いつまでたってもうまくならないのは、きっとDNAの所為だ。うん。
大きすぎる皿に不規則に盛り、菜箸のまま食う。暗黒物質を幾度か検知したが、気にせず食する。俺の消化器官よ、今日も過激な職務を全うしてくれたまえ。

食って歯も磨かずに即自室へ引き籠り、マイパソコンの電源を入れた。中古はハッキリ言ってあまり好きではないので、わざわざ近所の電気屋へ出向いて購入した新品だ。とはいえ毎日使い古していて、一年経っていないにもかかわらずキーボードが薄汚れている。
行きつけのチャットにいくと、時間が半端だからだろうか、誰も来ていない。諦めて掲示板に行くと、レスが俺で終わっている。即ち、新しい書き込みはない。
少しばかり凹んで、早々に電源を切る。するとまだ寝足りないのか徐々に先程の眠気が睡魔へと化して襲ってきた。授業中と違い抵抗する理由もないので、ベッドに転がり込んで布団を頭から被る。幸い雨戸を開けてなかったため、照明を消した部屋は真っ暗に近い。そのまま意識が朦朧とし、従順と眠りに落ちた。激しく昨日とデジャブってるな、などと思ったのは一瞬にも満たない。


―今更だけどさ、


―少しでも抗っていればよかった。


―最後に食ったのがあの焼きそばで、


―最後に見たものがレスのない寂寞とした掲示板とチャットって、






―いくらなんでも、虚しすぎるだろーが……
■作者からのメッセージ
俺はやった後悔よりやらなかった後悔の方が多いようです。正直、それで良かったとは思えません。

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