BLADE OF SWORD 第十八夜 |
作者: 清嵐青梨 2009年05月23日(土) 23時59分41秒公開 ID:L6pfEASBmTs |
昨夜受けたライダーの襲撃時の傷はメディアに拠る治療魔術で傷跡一つ目立たないくらいあっという間に治してみせ、今後の聖杯戦争で身体が保てる状態にするよう魔力を溜めておきなさいと指摘された。 そして昨夜の襲撃に遭ってか、彼女は度々自分の魔術で創りあげた神殿で竜牙兵を増やし神殿を守護出来る状態にしたり、アサシンにより一層山門の警備を厳しくするよう指摘した。無論これは彼女なりの策でもあるのだが、如何見たって魔力をここぞと溜め続ける自分の為の守護という風には見えない。 だけど其処に突っ込んではならない、という己の意思が執拗に訴えてくるものだから此処は突っ込まないでおこうと決めた俺は今……。 一人の侍士の稽古を受けていた。 「右の間合いが少ないぞ、それとあまり隙を見せるな」 「はぁ、流石戦に慣れている侍には未だ未だ敵わないな」 水平になっている石段の上でアサシンの剣の稽古を頼んだのだ、当然学校はパス。凛にいずれ話しておくだろう昨夜の事情は稽古を一通り終わらせた後になる。だけど今は稽古のことに頭が回っていて手のつけようがない。 剣の稽古、と言ったのだが実際は刃同士の稽古ではなく木刀同士の稽古である。流石に本物の刃で稽古をつけたりしたらまた傷が増える一方だけだから、という俺の要望により普段使い慣れている木刀で稽古をつけて呉れるよう自分から申し出たのだ。 でも実際に稽古をつけて貰うと矢張り本物の侍士との稽古は正直に言って緊張と恐縮の気持ちである。自分から稽古の申しつけを名乗り出るとか、あまりの無謀さにも程があると思ってたのだが、本人はその申し出を快く受け入れたのだ。勿論意外だったが、たまにはマスターの稽古もつけるのもまた一つの楽しみだ、と嬉々になった彼はそう言っていた。 矢っ張り武士の血は争えん、というのだろう。愉しそうに俺を指導しているアサシンの目が今までのより断然輝いて見える。思わず笑みを零し握り締めている木刀を握り返すと再び一人の侍士に真正面から立ち向かうように木刀を振りかぶった。 その動作に彼は遅い!と短く突き放すように言い、バシンッと叩き倒したような音を出して、俺の手から木刀が離れ空を舞い乍ら石段の上に落ちる前にアサシンが落ちようとしている木刀を捕まえた。 俺はひしひしと痺れが感じる右手を一瞥すると石段の段差に坐り、また負けたぁ…髪を掻き揚げると嘆く。 「なんでお前から一本も取れないんだよ…」 「ユウには幾つか欠点が多いからな、その一つは“相手に隙を与えている”ことだな。それを克服すれば後は実戦でも上手く行ける筈」 そう落ち込むでない、そう言ってアサシンは木刀を俺に渡しておくとその隣に坐って、予め俺が用意しておいたお茶が入った薬缶を持ち湯飲みに熱い茶を淹れるとその中身を一口飲む。 此処まで精が出たことに相当満足しているようで少し安心した俺は、元々淹れてあった自分用の湯飲みを持って冷めている茶を飲む。 ふと俺はアサシンが若し聖杯を手に入れたら何を願うのか気になっていた。逆に俺は聖杯にかける願いは特に何もない、只平和な日常が続いていればそれで良いと願っているし最近となってはサーヴァントと一緒にいる日常も悪くはないと思ってきた。 冷えた茶を一気に飲み干し湯飲みを手の中へ収めると、アサシンの横顔をちらりと見てサーヴァントが望んでいる“聖杯の願い”のことを聞いた。 「なぁ、アサシンは聖杯を手に入れたら聖杯に何を願うんだ?」 「………ユウと同じだ、私も聖杯に望む願いは持ち合わせておらん」 「……え、」 「只、若し叶うとすれば…せめて武蔵の墓に花を添えたい。それだけで良い」 「……意外、侍士ならもっと凄いの叶えるかと思った。でもそれもまた有りなんじゃないかな。俺も宮本武蔵の墓に花を手向けたいな…」 「それに、ユウと共に桜を見る約束もあるしな」 「あぁ、それもあったね。桜の開花をお前と二人で見るってこと」 と、この間約束してた花見のことを思い出していたらふと、こうして話していると自分も一つくらい、特にアサシンと共に叶いたい約束があるんじゃないかと今改めて思い出し始めた。そして矢張り自分でも心の底から本当に叶いたい願いがあることに気付き、少しだけ自分の事を分かっていないことに責め立てたい気分に駆り立ててきたが、今は自分を責めている時間はない。 自分を責める時間は聖杯戦争が終わってからにしよう…それにしてもなんで自分は幸のある願いを直ぐにでも思い出さなかったのか、と先ほどのことが根に持ってしまった様で少しだけ自分を責めていると、今自分を責めるのは止めたほうが良いぞ、とアサシンが俺の心情を理解したような口振りでそう言うと、残りの中身を飲み干す。 「責めるのは己が失敗や後悔をした時にだけ…今此処で、私と共に叶いたい約束があることを忘れてしまったことを責めてしまうと自分をより弱くさせてしまうだけだ」 仮令聖杯戦争が終わったとしても決して己を責めることはするな、とアサシンは辛口な言葉を俺に向けて話すと湯飲みを置いて代わりに木刀を掴むと俺を見て、少し薬が効きすぎてしまったかな?と聞いてきた。 確かに俺に対して初めて厳しくマスターの辛辣な心情を糾す彼を見たのは初めてで正直言って彼が言う“薬”の効果はとても良く効いた。彼の言う通り俺は小さなことに自分を責めようとしているのはこれ以上自分を弱くさせてしまうだけの悪あがきにしか見えない。 だからこそ自分をこれ以上弱くさせないためにもこの聖杯戦争に勝たなければいけない…、俺は手の中に収まっている湯飲みを置いて木刀を掴んで握り締め凝乎と刃の形に良く似た木の刀を見る。 これが若し本物の刀ならば必ずしも生きて勝たなければいけない…二人で交わした約束の為にも、自分は生き残らなければならないし、誰かを護らなければならないし、聖杯を手に入れなければならないし、約束を果たさなければいけない。その為にも俺は――。 思わずふっと笑みを零し、本当…お前の薬は強すぎるよ、と言葉をかけると木刀から視線を離し立ち上がる。 「確かにお前の言うとおり、此処で自分を責めても只自分を弱くさせてしまうだけだし、絶対に生き残ることは出来ない……。だからさ、お前の約束を果たすためにも絶対にこの聖杯戦争に勝たなきゃいけない…そうだろう?」 「…ようやく前向きになったか。だけどユウ、自分の為だからと言って他人を巻き込むのは成るべく控えたほうが良い。ユウのことに関係する人は特に危険が高いから、」 「その点については前々から考えてみたんだけど、矢っ張り俺に関係する人たちも護ることにするよ。自分の為だけでなく他の人たちの為にも…勝たなきゃなって」 「…成る程、それがユウの正義というものか。なんとまぁユウらしいというか、否…本当にお前らしい定義だ」 「それ、褒めてるのか?」 「褒めておるぞ、勿論」 そう言ってアサシンは、はっはっと高らかな笑い声を上げ笑みを浮かべると、そろそろ休憩は終わりにして稽古の続きをするぞ、と言って早速木刀を構えてきた。 言葉も達者なら武術も達者…此奴は本当になんでもこなす奴だな…。俺はそう思い乍らも、アサシンの言葉に従い木刀を構えもつと此方から仕掛けるべく木刀を大きく振り上げ右袈裟へ振り下ろすも、その行動に逸早く気付き木刀で受け止める。 これじゃ稽古は夕方近くまで掛かるな…そう思った俺は受け流された木刀を握り返し、再び真正面から仕掛け始めた。 |
|
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |