かごめ、中学3年の夏物語。 −第2章− |
作者: りんご 2008年07月06日(日) 23時27分58秒公開 ID:Bth7QKbWtKw |
「なんだとー!?!?」 すさまじい怒りの怒鳴り声が日暮家に響き渡った。 「かごめがいないって、どういうことだよ!?」 怒鳴り声の犯人は草太の胸倉を掴んで吠えた。 「だっ、だから姉ちゃんは3日間ほど自分探しの旅に出るって・・・探さないでほしいって」 「ふざけんな!俺は昨日迎えに来るって言ったんだぞ!」 「だって〜姉ちゃんにそう言えって言われたんだもん」 「かごめの行き先知ってんのか!?」 草太は首を大きく横に振った。 「てめえ〜言えねえとはいい根性してるじゃねえか」 「姉ちゃんには言うなって言われてるんだもん・・・」 (でもこの言い訳にはかなり無理があるよ、姉ちゃん〜!!) 草太の目はもはや涙ぐんでいた。 「あら!犬夜叉くんじゃない」 ママが洗濯かごを持ったまま2人の言い合いを聞きつけてやって来た。 「そうだ!犬夜叉くんに頼みたいことがあるのっ!」 「ばっ、今はそれどこじゃ・・・」 犬夜叉の言葉も聞かずに、ママは洗濯かごをその場に置いて洗面所から何かを取ってくると犬夜叉の前に突き出した。 「かごめったら洗面用具忘れたまま林間学校に行っちゃって・・・」 「林間学校だぁ〜?なんだそりゃ」 草太は「言っちゃダメ!」という思いを伝えようと、ママに向かって首を横に振ったがママは全く気づいていない。 「林間学校っていうのは学校の行事の一環でね、かごめったらすごく楽しみにしてたのよ」 「ふーん・・・それが自分探しの旅ねぇ〜」 犬夜叉はへたり込んでいる草太を上から、にやりと見下ろした。 「まぁ、かごめの匂いをたどればいい話だ。これを届けりゃいいんだろ」 「本当にありがとうね、犬夜叉くん」 ママのお礼の言葉を聞くか聞かないかのうちに、犬夜叉はすでに日暮家を飛び出していた。 (僕が言ったんじゃないぞ・・・ママが言っちゃったから僕は何も悪くないんだ!) 草太はへたり込んだまま、自分が無事であったことにホッと安堵した。 (これからは姉ちゃんの頼みは聞かないようにしよう・・・) 草太のひそかな決意だった。 「痛っっ!!」 かごめの白く細い指から赤い血がにじみ出た。 「もーかごめってば包丁くらいしっかり使いなさいよ」 絵里がしょうがないなぁ、という顔でかごめを見る。 今は昼ごはんのための炊事活動中。メニューはお決まりのカレーであった。 (いけないいけない・・・犬夜叉のこと考えてぼーっとしちゃってた。 草太の奴、うまく伝えてくれたかしら。 でもあの言い訳にはかなり無理があるかも・・・犬夜叉があれで納得するわけないか) かごめは、はあっとため息をついた。 「でもさー、かごめって意外に料理苦手なんだー」 由加がにやっ、と意地悪気に言う。 「ばっ・・・馬鹿にしないでよ!料理くらい・・・」 「じゃあ、かごめちゃんの得意料理って何?」 あゆみがにこっと笑ってかごめに問う。 「・・・鮎の炭火焼とか・・・山菜の煮炊きとか・・・」 「・・・・・」 3人は返す言葉なく静まり返った。まさに『しーん』という効果文字が似合いそうな雰囲気であった。 その沈黙を破った者がいた。 「へぇ〜かごめって意外に古風なとこあるんだな」 「稲子屋くん!!」 かごめの背後から稲子屋がひょこっと顔を出した。 「な、何か用?」 出発前に怒鳴りつけてしまったこともあり、かごめは何だか話しづらい心境だった。 しかし稲子屋はそれを全く気にする様子もなく、話を続ける。 「『何か用?』は冷てーんじゃねぇの?相手の目を見て親しくなれって言ったのそっちじゃん」 「親しくなれとは言ってないわよっ」 「じゃーかごめは俺と親しくなりたくないんだ?」 稲子屋はかごめの顔に接近した。稲子屋の整った顔立ちにかごめは少し赤面した。 「別に、そんなんじゃないわよっ」 「じゃー仲良くしようぜ、かごめ」 稲子屋は二カッと笑った。 「何よーあんた達見せつけてくれるじゃない」 由加の声にはっとして、かごめは3人の存在を再確認した。 「見せつけてって・・・あのね!あたし達そんなんじゃ・・・」 「違うの?」 あゆみがきょとんとした顔で尋ねる。 「違うに決まってんでしょーが!!」 「あーはいはい。御暑い2人はほっといてうちらは釜の方見て来よ」 「ちょっと待ってよ!あたしも・・・」 かごめも持っていた包丁を置いて3人と行こうとした。 それを絵里がすかさずひきとめた。 「ダメダメ!かごめはここにあるジャガイモを全部切っておくのよ。あたし達自分の分は済んじゃって後はかごめだけなんだから」 「そ、そんなぁ〜」 かごめを一人ポツンと残し、3人は釜の方に行ってしまった。 「絵里?なんかちょっと元気なくない?」 釜の所まで向かう途中、由加は絵里のいつもと違う様子に気がついた。 「そっ、そんなことないわ。あたしは元気だよっ」 絵里はこぶしを作って笑って見せた。 「あのさぁ〜」 「ん?何?」 友に置いていかれたかごめは、しぶしぶジャガイモの皮をむきながら尋ねた。 「なんで急に親しくなろうとか思ったの?朝はすごい威嚇してきたくせに」 稲子屋はうーんと腕を組んでわざと考えるふりをしてみせた。 「それはやっぱり、かごめに惚れたからかな」 「ふーん・・・って!!はっ!?!?」 かごめは予想もしなかった答えに仰天して一気に赤面した。 ―――ブスッッ!! 「いったあーーーーい!!」 本日二度目の失態であった。さっきより大量に血が溢れ出た。 稲子屋はかごめの手を掴むと、血が流れている部分を自分の口に加えた。 「なっなっなっ・・・」 かごめの頭は恥ずかしさで爆発寸前だった。 「早く血止めないといけねーだろっ。それにほっとくと菌が入るし」 「そっ、そうだけど・・・っっ」 稲子屋は血が止まったのを確認し、そっとかごめの指から口を離した。 けれど掴んだ手を離そうとしない。 「俺・・・おまえのこと、本気だから」 稲子屋の鋭い瞳がかごめの顔をじっと見つめる。 かごめは気が動転していて何がなんだか分からなくなっていた。 「こんの野郎ッッ!!!」 ―――ドカッ!! 強烈なパンチと共に聞き覚えのある声がこだました。 「痛っっ・・・」 稲子屋はふらふらとよろめいた。 茂みの中から姿を現したその人物は・・・ (いっ・・・犬夜叉!?!?) それは紛れもなくあの犬夜叉の姿だった。 「誰だ、てめえは・・・」 稲子屋が後ろを振り返ろうとした瞬間、 「おすわりーーーーーっっ!!!」 かごめの大声が辺りに響き渡った。 犬夜叉の「ぐえっ」と潰れた音が茂みの奥で聞こえたが、それはかごめのこだまによってかき消された。 「か・・・かごめ?」 稲子屋はすっとんきょうな顔でかごめを見ている。無理もない。 「えっ、いやっ、そのっ、猿!巨大な猿が稲子屋くんを殴ったのよ!」 「へ・・・?猿?猿におすわり?」 「そうっ!犬も猿も同じようなものじゃないっ」 かごめは「あははっ」と、笑顔を作って見せた。 どうやらまわりの子達は、皆仕上げの鍋の方に集っていて気づかれていないようだった。 「さっ、あたし達も材料持って鍋の方行こっ」 かごめはさっさと材料をボールに詰め込み、同じ班の人たちと合流した。 鍋がぐつぐつ煮えてカレーのルーを投入する。 ルーの量が多すぎるとか少なすぎるとか、班の皆は盛り上がっている。 しばらく様子を見て皆の意識がカレー作りに集中したのを確認すると、かごめはそっと皆の元を離れ、さっきの茂みに戻った。 犬夜叉が腕組をしてむくれっ面で座り込んでいた。 「もー!犬夜叉ってば、なんで来るのよっ」 「なんでじゃねーだろ!約束破ったのはそっちじゃねーかっ!」 「そりゃ破ったあたしが悪いけど・・・」 「大体忘れ物届けてきてやったってのに、てめえは男といちゃつきやがって」 「いちゃついてなんかないわよっ!・・・って、え?忘れ物?」 犬夜叉は懐から水玉のポーチを取り出した。 「あ!洗面道具のポーチ・・・あたし忘れてたんだ。犬夜叉これを届けにわざわざあたしの匂いをたどって・・・?」 「てめえのお袋に頼まれたんだよっ、仕方ねえからな」 「ありがとう、犬夜叉・・・」 かごめは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 犬夜叉に嘘をついて林間学校に来たのに、犬夜叉は忘れ物を届けにわざわざ来てくれた・・・ 犬夜叉のちょっとした親切に、かごめはふふっと笑みを返した。 「・・・何笑ってんだよ。薄気味わりー奴だなっ」 「えへへ、ありがとね犬夜叉」 かごめは犬夜叉の頭をよしよし撫でた。 「あのなっ、犬扱いすんじゃね・・・」 犬夜叉とかごめの暖かい雰囲気がかき消された。 「かごめーっ!どこー!?ご飯だよー!」 絵里の声だ。 「いけない、行かなきゃっ。犬夜叉、あたし3日後には帰るからおとなしく家に帰ってるのよ!いいわね!?」 かごめは犬夜叉にそう告げると足早に去っていった。 「あ、おい、かごめ・・・」 犬夜叉の言葉を聞くより早く、かごめは皆の元に戻っていった。 つづく |
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